レポート
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たとえ四方八方から矢が飛んできても実現したい

2020.12.18

レポート

「がんになっても安心して暮らせる社会」

全国がん患者団体連合会 理事長 天野慎介さん
取材・構成 今村 美都(医療福祉ライター)

2015年5月、全国の患者団体が集まった新たな全国組織である「全国がん患者団体連合会」(全がん連)が発足しました。 がん種も違えば目的も異なる、各地でそれぞれに活動するがん患者団体がなぜ一つに団結し合う必要があるのか̶̶
理事長の天野慎介さんにお話を伺いました。

天野さん自身もがん患者。2000年に27歳で悪性リンパ腫を発症し、患者が置かれた情報格差の問題や患者同志の交流の重要性を身をもって体験した天野さん。 悪性リンパ腫の患者会である「グループ・ネクサス」の活動に加わると、突き動かされるように患者会活動へと邁進します。 いまでは、全国的な活動を展開する「グループ・ネクサス」を代表として率いるだけでなく、数多くのがん医療に関連する審議会等の患者委員の肩書きを 持つに至ります。

並々ならぬ情報通として知られ、日本の患者会活動を牽引してきた第一人者である天野さんは言います。「2006年の設立からもうすぐ10年を迎えようという 節目にあって、2015年の始め頃からがん対策基本法を改正しようという動きが高まっています。2016年には、第3期のがん対策推進基本計画の改定が始まります。 ところが、国会や議員さんのところへ行くと〝難病団体はたくさん来るけれど、がん患者団体はあなた以外来ない〞〝どんなに頑張っても、がんは票にはならない〞と いったことを言われてしまう。各がん種を超えて、がん患者団体の声を集約して、政策提言につなげていく必要性を痛感しました」

天野慎介さん

団体の垣根を超えて、一つに

厚労省がん対策推進協議会で患者委員をともに務めていた「愛媛がんサポートオレンジの会」の松本陽子さん、「がんサポートかごしま」の三好綾さんに 声をかけた天野さん。
3人を発起人として、全国がん患者団体連合会(全がん連)を発足します。発起人である3人がそれぞれに学会や委員会等を通じて 知り合った患者団体に声をかけ、現在30団体が加盟する全国組織となりました。

設立以来、全がん連は、厚労省のがん対策推進協議会に「がん対策基本法の改正に関する要望書」や「がん対策加速化プランに関する要望書」を 提出したり、参議院議員会館での院内集会「緊急公開ラウンドテーブル〜このまま施行していいの?患者申出療養制度〜患者の立場に立った制度に向けて」を 開催したり、厚労省へ「患者申出療養制度に関する共同アピール」を提出し共同記者会見を開いたり、患者会としては初の試みである「がん患者学会2015」の 開催など、積極的な活動を展開しています。

全がん連設立会見。患者団体代表らとともに

国のがん対策の現状と課題

5月(2015年)には、がん対策推進基本計画中間評価報告もなされました。「10年を振り返って、がん診療拠点病院の整備が進んだ、 緩和ケアや患者さんのからだの痛みだけでなく、精神的・社会的な痛みに光が当たり、対策が進んできたという点は評価できます。 一方で、がん対策基本法のそもそもの目的である〝救える命を救う〞という点において疑問も生じています。がん患者が居住する地域に 拘わらず等しく標準的な治療を受けられるという、均てん化の問題があらわになりました」と天野さんは語ります。

中間評価報告では、主要ながんにおいても、標準治療の実施率に差が見られるという厳しい現実が浮かび上がってきました。支持療法の部分でも、 高度催吐性の化学療法に対する治療の実施は6割程度。つまり、シスプラチンのような非常に吐き気の強い薬に対しては有効な支持療法があるにも 拘わらず、4割の患者さんにおいて吐き気止めがしっかり処方されていないと考えられます。緩和ケアにおいても、がん患者を対象と する患者体験調査が国の計画で行われましたが、しっかり痛みが取れているとの回答は57%程度に留まりました。 拠点病院での調査にも拘わらず、4割の患者さんは適切な緩和ケアが受けられていない可能性があるわけです。

こうした問題とともに、この10年はがん治療薬が飛躍的に進歩し、新しい分子標的薬や抗体療法薬も登場しました。 治療成績も確実に向上している一方で、薬価も高くなっています。「医療費としてどのように考えていくのか、という新たな課題が出てきました。 がん患者さんの就労支援や、地域や職場での偏見や差別、不当な解雇などの社会的痛みも考えなくてはならない問題です。 また、ゲノム医療の進歩には目を見張るものがあります。さらなる進展に患者として期待する反面、一般の方の理解はまだ十分でなく、 ゲノム情報をもとに差別や偏見が生じる可能性もあります。法整備や倫理的配慮が必要で、拠点病院に遺伝子カウンセラーを配置すると いった対応も必要となってくると考えられます」と、天野さんはこれまでを総括します。

8 月に行われた患者申出療養制度に関する会見の様子

患者が適切な治療を受けるために学会としても役割を果たしてほしい

玉石混交の情報があふれるネット社会において、患者さんが情報に左右される危険性にも警笛を鳴らす天野さん。 国立がん研究センターがん対策情報センターのようなしっかりとした情報源があっても、そうした適切な情報に辿り着けない患者さんや 家族も少なくありません。とりわけ、治療法がもうないと告げられた患者や家族にとって〝×× すれば、治ります〞といった情報に 藁をもすがる気持ちで惑わされてしまうのは、ある意味自然なこととも言えます。「がん対策の在り方にもつながりますが、私たち 患者会の力不足も認めざるを得ません。また、日本の学会には、もっと自身の役割を考えていただきたいと思います。怪しい情報が 出ているのであれば、学会としてもステイトメントを出していく。個々に熱心な医師はいても、全体としてはまだそこに至っていません。 年に一回の学術大会に大きなエネルギーが割かれていて、専門家としての質を上げていくのに十分なリソースが回っていないのが日本の 学会の現状ではないでしょうか」と天野さん。

たとえば、緩和ケアができていない、標準治療に格差があるらしいといったデータが出てきているにも拘わらず、学会としての 建設的な提言は出ていないのが日本です。アメリカの学会で、サバイバーシップを支える、がん治療薬と医療費の問題なども 含めて積極的にステイトメントが出されているのと比較すれば、日本の学会にはまだまだ改革の余地があると言えそうです。

天野さんは、一例としてASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)に出席した際の話をあげます。とある州の中でがん治療を行っている病院を ピックアップし、チーム医療の程度によって生存率に差が出るかという調査発表。チーム医療をしてもしなくても生存率にあまり差は出ないと いう衝撃的な報告がなされました。「チーム医療を推進するセッションで、出だしからシーンとしてしまいました。しかし、そこで終わらないのが彼ら。 どんな職種が関与しているかしていないかで、生存率に差が出るのか出ないのか見ていこうと、次にステップにつなげていくんですね。 日本だと、チーム医療をやりましょう、緩和ケアをもっと普及しましょうで終わってしまう。生存率や医療の質に差が出るのか、 痛みが取れているのかといったところの検証まで至っていません」

日本のとあるがん学会で、専門施設等における治療内容の調査を行った発表では、座長の医師が「私が患者なら許容できない」と 発言するほどの大きな差があったにも拘わらず、大きな議論に発展しなかったと言います。「そもそもデータを出すということ自体、我々 日本人全体の問題として得意ではないのかもしれません。しかしながら、データをきちんと出して検証すること、過去を振り返ることは、 私自身辛いことですが、きちんと見ていかなければなりません。全がん連を設立した大きな目的もそこにあります」

厚生労働省保険局へ要望書を提出

医療者のちょっとしたひと言で、患者は救われる

「支持療法も含め、標準治療の均てん化ができていないといった課題があるにせよ、全体でみれば国際的にも日本のがん医療はレベルが高いとは思います」と 語りながらも「患者さんの満足度は必ずしも高くないのはなぜか。現場の医師や看護師さんたちがあまりにも忙しすぎて、コミュニケーションを取ることが できない状況があると思います。やむを得ないことで、私たち患者もわかっているつもりですが、医療者のちょっとした一言で救われることはまだまだたくさんあると思います。 たとえば、がん患者の就労支援一つをとっても、私が初めにがん対策としてがん患者さんの就労支援の必要性を訴えた時には〝そんなことまで医療者がやるのか〞 〝医療機関がそんなことまでやるのか〞といった反応がありました。私たちも医療者にそこまでやっていただけるとは思っていません。 そうではなく、医療者の〝仕事は簡単に辞めないでね〞〝相談できる場があるから、ここに行ってね〞といった言葉で救われることはとても多い。 患者会でも半分くらいは主治医や看護師さんの紹介です。診療が忙しい中でも、ちょっとした声かけ、ほかの医療職や相談支援センター、 患者支援団体などの支えがあるというリソースを伝えてもらえたら、救われる患者さんはもっともっと増えると思います」と、天野さんは看護師の皆さんへの期待を語ります。

「疾病も地域もさまざま、課題もニーズもさまざまながんの患者団体を結集するのはもちろん容易ではありませんが、泣きごとは言っていられません」と 淡々と語る天野さんですが、強者揃いの患者団体をまとめていくのには、丸腰で戦に挑むような大きな決意を要したであろうことは想像に難くありません。

患者仲間に「患者会の連合なんてつくったら、前からも矢が飛んでくるし、横からも後ろからも矢が飛んでくる。そんなのわかりきったこと」と 笑い飛ばされたことで、すっと心が軽くなったと言います。たとえ全身矢だらけになろうとも、がん患者会が個々の活動を超えて、一つになることで、 たくさんの現在まさにがんと向き合う患者さんやその家族はもちろん、残念ながら先にこの世を去って行った多くの仲間たち、皆の思いを実際の政策に つなげていく̶̶。全がん連が目指すのは「がんになっても安心して暮らせる社会」だから。

「全国がん患者団体連合会」の詳細は、ホームページをご覧ください。
全国がん患者団体連合会http://zenganren.jp/

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著者プロフィール

今村 美都  いまむら・みと

医療福祉ライター
1978年 福岡県生まれ
津田塾大学国際関係学科卒。
早稲田大学文学研究科(演劇映像専攻)修士課程修了。
大学在学中、伊3ヶ月・英6ヶ月を中心にヨーロッパ遊学。
『ライフパレット』編集長を経て、医療福祉ライター。
https://www.medicaproject.com/

(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2016年JAN-MAR)

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