2020.04.16
今村優子(日本医療政策機構 シニアアソシエイト、助産師、看護師、保健師)
女性活躍推進法の施行等により職場における女性の活躍が進むなか、 女性の「健康」に対する取り組みについても、近年、政府や企業の注目が高まっている。 日本医療政策機構では「女性の健康に関するヘルスリテラシー」高めることで、 働く女性の健康促進に寄与できるのではないかという仮説を立て、 18~49歳のフルタイムの就労女性2,000名を対象にインターネット調査を実施した。
本調査では、女性に関するヘルスリテラシーを「女性が健康を促進し維持するため、
必要な情報にアクセスし、理解し、活用していくための能力」と定義した。
つまり、体のしくみや女性特有の疾病知識だけでは十分ではなく、
情報の取捨選択、医療関係者等への相談、女性特有の症状への対処といった行動が伴う必要がある。
女性に関するヘルスリテラシーを測る尺度としては、
日本人の働く女性を対象に女性生殖器特有の疾患を予防および
早期発見するために開発された河田志保らによる「性成熟期女性のヘルスリテラシー尺度」(*1)を使用した。
なお、本人もしくは家族が医療従事者の場合はヘルスリテラシーが
高いことが予測されるため、スクリーニングの段階で除外対象とした。
*1:①女性の健康情報の選択と実践、②月経セルフケア、 ③女性の体に関する知識、④パートナーとの性相談に関する21項目について、 それぞれどのような対応をするかでヘルスリテラシーを測る尺度としている。
現在または過去に、不規則な月経や正常でない出血等、月経に関する異常(*2)があったと
回答した人が約半数であったが、月経に関する異常に対して「何もしていない」人が最も多かった(図1)。
しかし、ヘルスリテラシーの高い人の場合はれらの症状があった場合に、
市販薬や医師の処方薬を飲む、婦人科・産婦人科、内科を受診するといった対処行動をとっていた(図2)。
この傾向は、更年期症状や更年期障害に関する質問の結果においても同様であった。
*2:月経周期が不規則で次の月経の予測がつかない、 月経周期が短い(24日以内)、月経周期が長い(39日以上)、以前は規則的にあった月経が何カ月も来ていない、月経時の出血の量が少ない、 月経時の出血の量が多い、月経が2日以内で終わる、月経が8日以上続く、月経時の症状が強い(下腹痛、腰痛、腹部の膨満感、吐き気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、イライラ、下痢、憂鬱等)、 月経とは異なる出血がある(不正出血)
調査対象者をヘルスリテラシーが高い群、低い群に分類し、
1か月の仕事のパフォーマンス(*3)を比較したところ、ヘルスリテラシーが高い人の仕事のパフォーマンスの方が有意に高かった(図3)。
また、月経前症候群(PMS:Premenstrual syndrome)や月経随伴症状といった月経周期に伴う心身の変化や更年期症状や更年期障害による仕事の
パフォーマンスの変化を比較したところ、多くの人が仕事のパフォーマンスに影響を与えると感じていることが明らかになった(元気な状態のときと比較して
仕事のパフォーマンスが半分以下になる人が約半数)。
一方、ヘルスリテラシーが高い人は、
こうした症状による仕事のパフォーマンスへのダメージが少なかった
(図4、図5・元気な状態の仕事の出来を10点として症状がある時のスコアを聞いた)。
*3:健康と労働パフォーマンスに関する質問紙 (HPQ:Health and Work Performance Questionnaire)日本語版を使用した。 HPQは、過去4週間の就労状況と就労中の仕事の遂行状況を質問することで、 休業による損失(アブセンティーイズム)と、欠勤することなく出勤はしているものの、 身体的・精神的な不調時によるパフォーマンス(職務遂行能力)の損失(プレゼンティーイズム)の双方を捕捉できる指標である。
女性が自身の状態を把握するため、定期的に婦人科・産婦人科を受診することは重要な行動であるが、 70%が定期的に婦人科・産婦人科を受診していない。定期的受診のきっかけとなった情報源は、 1位が「会社の健康診断で定期受診を勧められた」、2位が「婦人科・産婦人科を受診した時に医師から定期受診を勧められた」であった。
本調査より、ヘルスリテラシーの高さが異常症状時の対処行動、
さらには仕事のパフォーマンスに影響を与えているという結果が得られた。
このことから、女性自身がヘルスリテラシーを向上させることができる取り組みの重要性が示唆された。
学校における性教育のように、女性の健康に関する教育機会を得ることが
難しい就労女性を対象に、ヘルスリテラシーを高めることができる場を
一斉に提供することは簡単ではない。しかし、健康診断や病院受診時に勧められたことをきっかけに、
婦人科・産婦人科を定期受診しているという結果から、医療従事者による動機づけには一定の効果があると言える。
特に看護職は女性を包括的にケアする身近な存在として、女性たちに適切な知識や情報の提供ができる職種である。
そのケアの過程で、女性たちのヘルスリテラシーを高め、行動変容を促し、
女性たちがいきいきと働くことができるような関わりを看護職の皆様に期待する。
図出典:日本医療政策機構「働く女性の健康増進に関する調査」(2018)
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2019年夏号)
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