2024.07.12
岡山 尭憲さん(日本看護連盟 幹事 / 青年部担当)
日本看護連盟は、2023年度に「Z世代の会員確保に向けたアプローチ」をテーマに「ブロック別看護管理者等政策セミナー」を全国6ブロックで開催しました。その内容は会員確保の方策だけでなく、まず若い世代を理解することに役立つものだったため好評を博しました。
ここでは、セミナーの中から、特にZ世代を理解するためのヒントを中心に、講演を担当した日本看護連盟の岡山尭憲青年部担当幹事が解説します。
少子化対策は待ったなしの状況
私たちが暮らす日本では、人口減少が始まってから約15年の時が経ち、なかでも少子化対策は待ったなしといった状況が起きています。多くの産業では働き手不足に対応するため、AIやIoTの活用をはじめとしたデジタル化が進んでいます。 看護師国家試験の合格者数が未だ右肩上がりの看護界においても他人事ではなく、いずれ成り手の減少が到来するでしょう。
2023年に日本看護協会から発表された新入職者の1年以内の離職率は現行の算出方法になって初めて10%を超え、若手看護職の確保に苦慮する医療現場も多いと思われます。本稿では、この若手世代である「Z世代」について考えます。
「最近の若者は……」の起源
若者について話すとき、「最近の若者は……」といったフレーズがあります。今から5000年前の古代エジプトの遺跡の書簡には、すでに「最近の若者はダメだ。私たちが若い頃は……」と記されています。
また、古代ギリシャの哲学者プラトンも、「最近の若者は目上の者を尊敬せず親に反抗 法律は無視 妄想にふけって道徳心のかけらもない このままだとどうなる」という言葉を残しています。
この言葉が残されてから約2500年経った今、皆さんはどう思われますか?遠い過去の色褪せた言葉のはずが、2500年も前の話には聞こえないような気もします。
3つの世代の概念
さて、現代の若者を示す「Z世代」という言葉があります。今では当たり前のように目にするこの言葉ですが、この世代の概念をご存知ですか?
世代を表す頭文字がZであることを考えると、まるでA世代から順にあるようにも思えますが、世代の概念はX世代(1965〜1980年生まれ)から始まっています。
その後およそ15年刻みでY世代(1981〜1995年生まれ)、Z世代(1996〜2012年)と続きます(図1)。2024年には、1996年生まれのZ世代が28歳を迎えることになるので、20歳代はおおむねZ世代といえるでしょう。
X・Y・Z、各世代の違い
Z世代に限らず、各世代にはそれぞれ「特性」があると言われています。ここでは「景気」と「インターネット」の2つの視点からその違いを考えてみましょう。
まず、「景気」についてですが、X世代はバブル期の景気の華やかさを経験している人が多い特徴があります。続くY世代はバブル崩壊により経済状況は悪化したものの、家計レベルの不況にまでは至っていないといわれています。そして、Z世代になると家計レベルでも不況となるケースも増え、景気の華やかさを経験している人は少なくなります。
一方、「インターネット」の視点では、Y世代とZ世代の境界に当たる1995年に「Windows95の出現」という、1つの大きな節目があります。Y世代はインターネットの発達とともに時間を歩みました。そして、Z世代は物心がついたときにはすでにスマートフォンがあり、SNSが日常の一部となっています。
この歩んできた背景が違うZ世代を理解するためには、「特性」を捉える必要があります。看護職がアイデンティティとして持つ「個別性のある看護」のように、まさに対象を的確に捉える必要があるでしょう。
Z世代の特性①「経済」
前述にもあるように、Z世代は好景気を経験していない人が多く、経済的な不安を抱えやすい傾向があるといわれています。
実際に総務省が発表した「純金融資産の推移」(図2)を見てみると、各年代と比べてZ世代の資産は低くなっていることがわかります。
加えて、2023年に初めて看護師国家試験受験者の半数を大学卒が占めたことが話題になりましたが、大学教育機関の数が増える中、返済型の奨学金を抱えながら社会人1年目をスタートする人も少なくありません。こうした特徴を見てみると、経済感覚がシビアになることもうなずけます。
一方で、このZ世代の経済的特徴として、①フリーミアム、②サブスクリプションという、消費行動に関する2つの特徴があります(図3)。
まず、「フリーミアム」とはFree(無料)とPremium(有料)を掛け合わせた造語で、「無料で試し、価値があるとわかれば支出する」というものです。
例えば、YouTubeで動画を視聴するとき、無料でも動画を視聴できますが、広告が定期的に流れます。有料契約すると広告が流れなくなるため、効率よく動画を視聴できます。同様の仕組みは多くのスマホゲームやGoogleドライブ等にも見られ、有料契約すると機能を拡張することができるのです。
次に「サブスクリプション」ですが、これは略して「サブスク」と呼ばれ、主に「月払い契約」を指します。単に支払いが月単位になっているというだけではなく、年払いしたほうが安いにもかかわらず、「Z世代では月払いが好まれる」という特徴があります。
金銭感覚がシビアであるにもかかわらず、月払いが好まれるのはなぜでしょうか? それは、年払いになると、契約してから1年間は解約しても費用が変わらないのに対し、月払いではそのサービスが不要になれば、その時点で解約することができるからです。つまり、1年先に必要であるかわからないサービスに対して支払いを済ませるのではなく、その時々に合わせた消費活動をする、言わば「経済的な合理性」を重視する傾向があるといえます。
Z世代の特性②「教育」
かつて日本の教育制度においては「詰め込み教育」といわれる知識量偏重型の教育方針がありました。その後、思考力を養う学習に重きを置いた経験重視型の教育方針に移行するなど、時代に合わせた教育指導要領の改訂がなされてきました。
この学習指導要領の改訂の流れとしては、時代の流れとともに「個人競争」から「全体最適」へ移行している特徴がうかがえます。テストの順位を張り出すこともなくなり、運動会の競技でも個人競争より赤組・白組など団体で競争することが多くなったこともその一例であると思われます。
このZ世代のアイデンティティ形成に関する背景には、教育制度のほかにも東日本大震災や新型コロナウイルスなど、社会全体で問題を解決しようという時代背景や、「誰一人取り残さない」ことが共通言語となったSDGsも影響しているといわれています。
Z世代の特性③「情報」
Windows95の出現以降、デジタル機器あるいはインターネットの発達は、言うまでもなく目まぐるしい進化を見せています。一足買い物に出ればキャッシュレス決済で支払いをし、バイタルサインはスマートウオッチで24時間計測でき、地図アプリを使えば道に迷って交番に駆け込むこともなくなります。
先日、筆者は宿泊先のホテルで東南アジアの方に助けを求められましたが、Google翻訳を使って問題なく会話ができたことには感動すら覚えました。
こうしたデジタル技術の発展とともに順応してきたY世代に対し、Z世代は物心がついたときにはすでにスマートフォンやSNSがありました。情報はインターネット上に溢れかえっていますから、これまでのようにテレビや新聞から情報を受動的に受け取るのではなく、Z世代は情報を能動的に取りに行く、または自分用にカスタマイズ(レコメンド)された情報の受け取り方に移行しています。
同時に、巧妙に偽造されたウイルスや詐欺などの通知や、フェイクニュースなどへの感度も高く、その判断能力の高さを持ち合わせているのもまたZ世代です。
Z世代の特性から見えてくるもの
「経済」「教育」「情報」という3つの視点から、Z世代の特性を説明しましたが、この3つの特性から読み取れるものは何でしょうか?
まず「経済」の視点では、経済状況が厳しい中で自分に必要なものは何かを重視する「経済的な合理性」がみてとれます。
次に「教育」の視点では、全体最適を重視し、皆にとってよい社会でありたいと思う「社会に対する合理性」があります。
最後に「情報」の視点では、膨大な情報化社会において情報を取捨選択し、真実を見極めるという「情報社会の合理性」があります。
この3つの特性における共通点といえば、「合理性」であると考えます。
看護連盟とZ世代
さて、Z世代の特性を理解した上で講ずるべき対応には、どのようなものがあるのでしょうか?
2023年、日本看護連盟は都道府県看護連盟で青年部活動をする566人を対象にアンケート調査を行いました。
青年部が研修会やイベントを通して看護連盟を知っていただく活動を推進する中で「Z世代の勧誘で困っていること」を聞くと、最も多かったのは「勧誘に対する不安」であり、うまく説明できるかわからないというものでしたが、その次に挙げられたのは「看護連盟入会のメリット(価値)」でした(図4)。
自由記載の内容にも、メリット(価値)に関する記述は非常に多く、理解を得るために必要なピースがメリット(価値)なのかもしれません。例えば看護連盟への入会を促進するためには、「あなたが入会することのメリット(価値)」を説明できなければなりませんし、所属施設における新人看護職の離職防止への対策においても、労働環境あるいは処遇の側面、教育的側面においても対象となるZ世代が合理的に納得でき、メリット(価値)を感じられることは重要なことであると思います。「自分が成長できる環境である」と実感できることもメリット(価値)になり得るでしょうし、「正当な評価を受けている」と感じることもまた同様でしょう。
看護連盟に入会するメリット(価値)とは
Z世代に限らず、多くの看護職にとって、新人の頃は自施設あるいは自部署の中でしかコミュニティを持っていないことが多いでしょう。
筆者も若手の頃を思い出すと、申し送りの時に他部署と関わる機会がある程度で、他施設の看護職と関わることは看護協会の研修の時くらいでした。しかし、看護職としての視野を広げる上で、自分が経験したことのない領域の看護職や、多様な背景を持つ看護職と交流することは、今後のキャリア形成を考える上で、とても重要なことです。
看護連盟では、研修会やイベント等を通して、参加してくれた人にできるだけ多くコミュニケーションを図る機会を設けています。こうした場で、意見交換ができることも一つのメリット(価値)になりうると思います。
また、看護連盟の研修会の特徴として、看護職国会議員に出会い、直接話すことができます。時には現場の悩みを看護職国会議員に伝えた結果、解決策が政策として実を結ぶこともあります。これは極めて合理的な問題解決手段になり得るのではないでしょうか。
2022年、診療報酬に「看護職員処遇改善評価料」が新設されました。この評価料が実現する過程では、神奈川県看護連盟青年部が県内の2431人から回答を得た調査結果が政治を動かしました。
PTSDや不安神経症、うつ、不眠症に関する診断相当の質問を調査項目とし、コロナ禍における看護職の心の状態を客観的データにして提示しました(図5)。この結果が後押しして実現したのが看護職員処遇改善評価料です。
「看護の未来を待つ」のではなく「看護の未来をつくる」ことができる。これが政治の力であり、看護連盟の活動です。看護連盟と看護協会が連携し、現場の看護職のために、そして会員のために取り組んだ結果は、まさにメリット(価値)になり得るのだと思います。
合理的な価値を実感する=「理解」
ここまで「Z世代を考える上では、合理的な価値が重要である」と述べてきました。最後にお伝えしたいのは「理解」を得るということです。どれだけ客観的に合理性のある価値を説明したとしても、Z世代が腑に落ちて「理解」できなければ、実感にはつながりません。日常的に多くの情報に触れているZ世代は論理的思考を持ち合わせていますから、理解を得るためにはどのような言葉を用い、どのように説明するか、あるいは誰から伝えるかというのも重要な要素であり、まさにレコメンド機能です。
そして、対象を的確に捉えて対応するのは看護職のわざ(業・技)です。そのスキルを活用しない手はありませんね。
Z世代は合理的価値を実感することが必要な世代ですから、特性を正確に認識し、それぞれの対象に合わせて理解を得る丁寧な働きかけが重要になります。Z世代との日々の関わりの中で、この点を少し意識しながら実践することが求められると思います。
「会話」と「共感」を大切に
4月に入職される新卒者は、おおよそ2020〜2021年に18歳を過ごした世代です。
先日、看護学校で看護学生さんと意見交換をさせていただきました。その学生さんたちは、高校の修学旅行にも卒業式にも行けず、看護学校の入学式にも出席できませんでした。さらには学生生活においても同級生と会うのはオンラインの画面が多く、基礎領域の実習では、臨地実習ができずに学内でペーパーペイシェントを用いてアセスメントをしたという声も耳にしました。
新興感染症によって多くの制約を受ける学生生活は、誰も経験したことがありません。こうした世代を理解するためには、「会話」し、「共感」することが重要です。私たちがそうであったように、未来の看護現場を牽引するのは次世代なのです。
【参考文献】
廣瀨涼:あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか-Z世代を読み解く- / 一般社団法人金融財政事情研究会 2023.
ジェイソン・ドーシー、デニス・ヴィラ:Z世代マーケティング-世界を激変させるニューノーマル- / ハーパーコリンズジャパン 2021.
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2024 MAR-JUN)
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