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ケアをしたら必ず記録に残そう-褥瘡の事例から-判例解説⑫

2022.04.11

友納理緒(弁護士)

今回は、手術同意書の効力のお話です。手術同意書の中には「手術の結果について一切異議を申し立てない」という文言が入っていることがあります。これがあれば、手術で何が起こっても病院は責任を問われずにすむのでしょうか? 東京高等裁判所昭和42年7月11日判決をご紹介します。

こんな事例です

Aさんがある病院で気管支形成術を受けたところ、医師が左肺動脈を損傷し、左肺葉を全摘することになってしまいました。そこで、Aさんは医師に過失があったとして損害賠償を請求しました。

【病院側の主張】
仮に過失があったとしても、Aさんは、手術前に「手術に関するすべてを一任し、仮に手術によりいかなる事態を生じようとも一切異議を申し立てない※」という誓約書を差し入れているので、病院は責任を負わない。

裁判所の判断

『病院は誓約書を理由に損害賠償責任を免れることはできない』
誓約書は、患者が開胸手術の直前に、病院に対し差入れたものであり、たとえその中に、前述(※)の記載があるとしても、これをもって手術に関する病院側の過失をあらかじめ宥恕し、あるいは、損害賠償請求権をあらかじめ放棄したものと解することは、……患者に対して酷であり、衡平の原則に反する。
(最高裁もこの判断を指示)

臨床現場のみなさんへ

今回の裁判例のとおり、手術同意書にいくら異議を放棄する条項があったとしても、過失ある医師を免責する効果はありません。同意書は、手術前の窮迫・不安な状況で差し入れられるものであることを考えると、ある意味当然ですね。

ですが、この手術同意書には、次のような重要な役割があります。

手術は、患者さんの皮膚や粘膜を切り、臓器を切除したりするもので、身体への侵襲を伴う治療行為です。そのため、患者さんの同意なしに手術を行うと、傷害罪に問われたり、損害賠償を請求されるおそれがあります。そこで、手術を法的に正当化するのに必要な同意がなされたことを証明する証拠として、手術同意書が重要になります。

なお、この同意は「十分な説明がなされたうえでの同意」でなければなりません(インフォームドコンセント)。手術を行うにあたっては、次の5つを説明すべきであるとされています(最高裁平成13年11月27日判決)。

① 術前の診断(病名と病状)

② 手術の内容

③ 手術に付随する危険性

④ 他に選択可能な治療方法があれば、その内容、メリット・デメリット

⑤ 予後

すでにみなさんの病院でも対応されているところが多いと思いますが、十分な説明がなされたうえでの同意を証拠に残すため、手術同意書に説明内容を記載したり、2つを一体のものとして保管しておくとよいでしょう。

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著者プロフィール

友納 理緒  とものう・りお

弁護士・土肥法律事務所・第二東京弁護士会所属
2003年 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業 (看護師、保健師免許取得)
2005年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了
2008年 早稲田大学大学院法務研究科修了
2011年 弁護士登録
2014年 土肥法律事務所開所 / 衆議院衆議院議員政策担当秘書として出向(~2016年12月)
2020年 公益社団法人日本看護協会参与に就任

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