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誤嚥の責任は誰にある?判例解説⑥(後編)

2020.10.30

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友納理緒(弁護士)

今回は、最近、テレビでも多く報道された誤嚥事故の裁判について扱います。第一審では准看護師が「有罪」とされていたところ (以前ご紹介しました)、第二審では、「無罪」となりました。検察側が上告を断念したため、無罪が確定しました。  
私たちの仲間である准看護師の方が無罪となったという結果は喜ばしいことかもしれませんが、この事故で一人の方が亡く なっていることも事実です。この事件から、私たち看護職は何を学ばなければならないでしょうか、考えていきたいと思います。

こんな事例です

2013年12月、ある特別養護老人ホームの入所者が、准看護師が配膳したおやつのドーナツを喉につまらせ、窒息し、意識を消失、 その後、死亡してしまいました。この准看護師は業務上過失致死傷罪で起訴され、一審は有罪となっています。なお、この入所者の おやつは、事故発生日の6日前に、ドーナツからゼリー状のものに変更されていましたが、准看護師はこれを知らずにドーナツを 提供していました。

第二審の判断:看護師は無罪

准看護師には、自ら間食の形態を確認したうえ、被害者に配膳し、本件ドーナツによるAさんの窒息などの事故を未然に防止する 注意義務があったということはできない (過失なし)

【①准看護師には、間食の形態を確認する職務上の義務があったか】
→ない
(おやつの形態変更が記載されていた)申し送り・利用者チェック表は、介護士の詰所に保管された介護資料であり、介護職員間の 情報共有のためのものである。本件施設においては、日勤看護師に対し、勤務にあたり、既に申し送りがされた過去の日付の同表を 確認するように求める業務上の指示はなく、日勤看護師がそのような確認を実際に行っていた事実もない。特別養護老人ホームにおいて、 看護職と介護職で共有されていた文書(例 療養棟日誌)とは別に、介護資料を看護師が自ら、しかも遡って確認することが通常行われて いると認めるに足りる証拠もない。
したがって、准看護師が事前に自ら介護資料を 確認しておやつの形態変更を把握していたかったことが職務上の義務に反するものであったとはいえない。

【②准看護師の過失の有無について】  
次の事実に照らせば、准看護師が、本件ドーナツで被害者が窒息する危険性やこれによる死亡の結果の予見可能性は相当程度低かった。
・Aさんについては、食品によっては丸飲みによる誤嚥、窒息のリスクが指摘されていたとはいえ、ドーナツはAさんが本件施設に 入所後にも食べていた通常の食品であり、本件ドーナツによる窒息の危険性の程度は低かったこと
・本件形態変更はあったものの、その経緯、目的に窒息の危険を回避すべき差し迫った兆候や事情があって行われたわけではなく、 間食について窒息につながる新たな問題は生じていなかったこと
・看護職員と介護職員の間には各利用者の健康状態についての情報を共有する一定の仕組みがあったが、本件形態変更は准看護師の 通常の業務の中では容易に知りえない程度のものとして取り扱われ、准看護師が事前に本件形態変更を把握していなかったことが 職務上の義務に反するとの認識が持ちえなかったこと
このような予見可能性の内容、程度に加えて、Aさんに対して食品を提供する行為が持つ意味も併せ考えるならば、本件において准看護師が 間食の形態の確認をせずに本件ドーナツを提供したことが 刑法上の注意義務に反するとはいえない。

臨床現場のみなさんへ

裁判所は、准看護師が間食の形態の確認をせずに本件ドーナツを提供したことについて「刑法上の注意義務に反するとはいえない」と述べています。 これは、本件Aさんの嚥下障害などの状況、本件施設における看護師介護士間の情報共有の仕組みなどから、窒息の危険性や死亡の結果を予見する ことができなかった准看護師について、刑事責任を負わせるほどの非難をすることができないと判断したものと考えられます。
他方、本件における民事責任は示談により解決が図られていますが、民事上の注意義務についてはより広く認められる可能性はあります (准看護師に過失ありとされる可能性もあるということ)。
そこで、私たちは、この事故を教訓として、今後このような事故が二度と起きないように対策をしなければなりません。本件における大きな問題の 1つは、看護職と介護職の間で情報の共有が適切になされていなかったということです。患者さんの生命身体にかかわる重要な情報は、多職種間であっても 共有されなければなりません。情報共有がうまくなされないと医療事故につながる危険性があります。理想は「一患者一記録」として情報を整理して 共有することです。これをすることで情報の重複も減らすことができます。
みなさんの病院でも、多職種間において重要な情報を共有することができているか、確認してみてください。

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著者プロフィール

友納 理緒  とものう・りお

弁護士・土肥法律事務所・第二東京弁護士会所属
2003年 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業 (看護師、保健師免許取得)
2005年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了
2008年 早稲田大学大学院法務研究科修了
2011年 弁護士登録
2012年 都内法律事務所 (新宿区) に勤務
2014年 衆議院議員政策担当秘書として出向(~2016年12月)

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