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誤嚥の責任は誰にある?判例解説⑥(前編)

2020.10.24

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友納理緒(弁護士)

2019年、長野県の特別養護老人ホームで入所者の女性A(当時85才)がおやつのドーナツをのどにつまらせて死亡した事案で、准看護師が有罪 (業務上過失致死傷罪、罰金20万円)となったニュースが大きく報道されました(長野地方裁判所松本支部平成31年3月25日判決)。
皆さんのまわりにも誤嚥のリスクを抱えた患者さんが多くいらっしゃることでしょう。 裁判所がどのような判断で「有罪」という結論を導いたのか、少し見ておきましょう。

こんな事例です

ある日、准看護師が、食堂で利用者Aさんにおやつのドーナツを配膳しました。その後、准看護師は、食事の介助が必要な利用者Bの介助のため BさんとAさんの間に座り、Aさんに背を向ける形でBさんにゼリーを食べさせました。そして、その介助中、Aさんがドーナツをのどに詰まらせ 意識を消失し、1か月後に死亡しました。  
ちなみに、Aさんのおやつは、事故発生日の6日前に、キザミとろみ対応のもの(ゼリー系)へ変更されていましたが(この変更については 12月5日付申し送り・利用者チェック表、看介護記録に記載がありましたが、同日、准看護師はお休みでした)、准看護師はこれに気づかず ドーナツを提供していました。

検察官の主張

本件で、検察官は、准看護師には、
①Aには口にものをつめこむ癖があったのに、他の利用者に気を取られ、Aへの十分な注意を怠った過失
②窒息などに備えておやつがゼリーに変更されていたのに、その確認を怠った過失があると主張しました。

裁判所の判断

「准看護師には過失がある」→有罪
裁判所は、検察官の主張のうち、准看護師には①の過失はないが、②の過失があると判断しました。 それぞれについて裁判所の判断を見ていきましょう。

【過失①について】
Aには、嚥下障害はないものの、認知症等の影響で食物を小分けにすることなく丸飲みにしてしまう傾向があり、食事中の動向に注意すべき対象ではあった。
しかしながら、実際の食事等の場面において、誤嚥など窒息の危険が高いといえるような事態は生じておらず、准看護師が、他の利用者に比べてAを 特別注視しなければならない存在であると認識することは困難であった。そうすると、Bの間食の全介助をしていた准看護師がAの窒息に気づかなかったとしても、 そのこと自体に過失は認められない。

【過失②について】  
介護士から看護師への日々の申し送りは、申し送り・利用者チェック表に基づいて行われており、 この記載内容は、准看護師において把握していてしかるべきものといえ、少なくとも、同資料については、准看護師において勤務に当たる際に確認を求められていたと いうべきであり、その義務が認められる。
そして、Aに対する間食形態の変更は、申し送り・利用者チェック表に記載されており、これを確認していれば、被告人は間食形態の変更を知り得た。  
准看護師にはこの義務を怠った過失がある。

判例の後編は、2020年10月30日アップの予定です。

臨床現場のみなさんへ

誌面の関係でご紹介できませんが、それぞれについて弁護側からは詳細な反論が出されています。現場の業務は裁判所が考えるほど、整理されているわけではなく、 看護師にどこまでの注意義務がかされるべきなのか、難しいところです。この事件は、控訴され、高等裁判所で審理が続きますので、どうぞ皆さん、経過を見守って いただければと思います。

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著者プロフィール

友納 理緒  とものう・りお

弁護士・土肥法律事務所・第二東京弁護士会所属
2003年 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業 (看護師、保健師免許取得)
2005年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了
2008年 早稲田大学大学院法務研究科修了
2011年 弁護士登録
2012年 都内法律事務所 (新宿区) に勤務
2014年 衆議院議員政策担当秘書として出向(~2016年12月)

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