2020.05.25
平成30(2018)年10月、長野県松本市の郊外に、一軒家を改築した「雲のポッケ」という、障がい児・者デイサービス施設がオープンしました。 障がいをもつ子どもたちの生活介護・放課後デイサービスを行っています。 そんな施設を利用するお母さんたちの声に耳を傾けました。
坂井葵ちゃんのお母さん
坂井:葵はいま7歳、てんかん性脳症です。
出産時は特にトラブルはなく、生後4か月検診の時に首が据わってなくて、
病院を紹介されてリハビリを始めました。
1歳半くらいのときにてんかん発作が出始め、
薬を飲み始めたんですが、段々ひどくなり一時期は寝たきり状態で、意思疎通も困難な状態でした。
入院治療して発作はコントロールできるようになりました。
笑ったり、反応はだいぶ出てきて、今は口から食べられます。
三輪:お母さんは看護師さんですが、葵ちゃんがこういう状況になってお仕事はどうされましたか?
坂井:仕事はしばらくできないと思い退職しました。 以前勤めていた病院のPTの方から、ここができるので、働いてみないかと紹介されました。 以前は訪問看護をしていましたが、高齢者を看ていたので、初めての経験ばかりです。 看護師として、すごく成長させてもらっていると感じます。 アットホームな環境ですごく働きやすいし、親の視点からも、こういう場所なら安心して預けられると思います。
三輪:仕事を辞めることについて、ご主人は何か言われましたか?
坂井:全然。私の気持ちを尊重してくれました。 ただ、家に籠ってストレスが溜まることを心配していました。 療育施設に通い始めて、他のお母さんと話す機会が増え、段々心が開けて、 前向きに物事を考えられるようになったと思います。
三輪:今は、こちらは常勤ですか?
坂井:週2、3回です。内勤の他に保育園に訪問看護で行っています。 医療的ケアの栄養注入の必要なお子さんがいて、その時間に合わせて訪問しています。 今日は、これから葵が養護学校からポッケに来て、私が訪問看護に出るので、入れ替わりです。 それも、ここがあるからこそできるんです。なかなかこういう施設はありません。 よく話に聞くのは、卒業後の行き先がないことです。
三輪:養護学校は、高等部まで…。
坂井:その先は施設がないので、医療的ケアが必要な子どもたちのことを考えると、何とかできないかと思います。 また、ここもそうですが、送迎がない。送迎の時間は貴重です。 葵を学校まで送るのに車で25分くらいかかります。 往復すると1時間弱。親が送らないといけません。
三輪:成長とともにいろいろと課題は出てきますね。
坂井:葵のおかげで、私はいろんな人と出会うことができましたし、
こんなにいい経験もさせてもらいました。葵には辛い思いをさせているかもしれないけど、
その分葵が幸せになるように一所懸命やってあげたい。葵には本当に感謝しています。
(インタビューを終えると、林さんご夫妻は葵ちゃんや放課後学童の利用者を迎えに養護学校へ、坂井さんは訪問看護に出掛けて行きました)
古畑明日見ちゃんのお母さん
古畑:明日見は今10歳、小学校4年生です。染色体異常、13トリソミーです。
三輪:出産された時にわかったのですか?
古畑:羊水検査でわかりました。異常があるだろうとは、妊娠初期にエコー検査で分かっていました。 エコー検査の結果からネットでいろいろ調べて、13か18トリソミーかも、と。 嫌なことばかり書いてあって、どうしよう、なんでうちの子が、と思っていました。 それでも産むことは決めていましたので、出産後の対応のために、妊娠後期に羊水検査で確認となりました。 羊水検査ではっきりわかって、その日は思いっきり泣きました。 それで、気持ちがガラッと変わりました。 何千人に一人という子がうちに来るなんて、すごいことなんだと思ったら、気持ちも楽になって…。 だから、産む時も産んでからも、特に悩むことはありませんでした。
三輪:しばらく入院されていたと思いますが、今と同じように人工呼吸器を付けた状態でお家へ帰られたんですか?
古畑:呼吸器を付けたのは2、3年前です。 最初は、気管切開で酸素を流していましましたが、肺炎を繰り返して段々肺が弱ってきて、 呼吸器を付けていた方が本人も楽だろうということで。
三輪:お家へ帰られてからは、お母さんと一緒に過ごす生活ですね。何か在宅サービスを利用されていましたか?
古畑:退院してからは1週間に3回くらい訪問看護をお願いしました。 お風呂に入れていただいたり、気切のガーゼ交換とかしていただいて。 3歳になる前から療育園に通い始めて、いろんなお友だちやお母さんたちと知り合いになりました。 坂井葵ちゃんとも何年か一緒でした。
三輪:養護学校へ行っている間、お母さんは?
古畑:呼吸器装着なので別室待機で、ずっと学校にいます。 でも、制度が変わって徐々に呼吸器装着の子どもでも、親が学校から離れられるようになりそうです。 学校内では、学校看護師さんに吸引や栄養注入をしていただいています。
三輪:ここは、どこから紹介されたんですか?
古畑:学校に市役所や福祉サービスの方が集まった時があって、 その時に林律子さんもいらして、こういう施設ができると話されたんです。 それで、少しずつお願いすることになりました。
三輪:明日見ちゃんを預けた時、心配しませんでしたか?
古畑:ここは安心してお願いできました。 それまで、ショートステイとかレスパイト入院とか全然やったことがなくて、 明日見が入院している時もずっと付き添っていました。 でも、ここは明日見のことを知っている方が大勢いるので、安心できました。 赤堀さんも望月さんも、こども病院にいて、明日見が生まれた時からお世話になっていたので。 今は、ポッケに週1回は基本来ていて、学校がお休みの時も受け入れていただいています。
三輪:ここを利用するようになって、明日見ちゃんやお母さんに変化はありましたか?
古畑:私は、預けている間に、用事を済ませたり、 家でちょっと休んだりできるようになりました。 明日見は、ここに来るのが好きみたいです。 帰りの車の中でニヤニヤしてるとき、今日はきっと楽しいことがあったんだろうなって…。
三輪:おもちゃは、ワイルドなピストルとか、お父さんが見つけて買ってくるそうですね?
古畑:目と耳が悪いのですが、それでも音とか光は分かるから、 明日見が持ちやすいもの、と探していたらピストルになったみたいです。 明日見も、好きみたいです。ぬいぐるみとかは、渡してもポイって感じ。 13トリソミーは短命で合併症も重くて寝たきりの子が多いって聞きますけど、 明日見はおかげさまで合併症も軽く済んで、これだけ動いたりいろいろできる。 だから、産んでよかったというか、後悔は全然していないです。
※2020年4月26日、古畑明日見さんは、一生懸命生き、10歳の短い命を閉じられました。心からご冥福をお祈りいたします。
窪田雄大くんのお母さん
窪田:雄大は14歳、小頭症で脳性麻痺です。 1、2年くらい前から部分的な発作を起こすようになりましたが、それまでは全く元気で、 全部介助が必要ですが、ほとんど医療的ケアはありません。
三輪:お母さんは、お仕事をされていますか?
窪田:はい、看護師です。
坂井さんと一緒で、ここをお手伝いをしながら、雄大も利用させていただいています。
林律子さんが相談支援委員で雄大を担当していて、雲のポッケを立ち上げるので手伝って欲しい、と声をかけていただきました。
私はバレーボールをやっていて、日曜日は試合や行事が多くて、そういう時に雄大を見てもらえるといいなと思っていました。
また、下に妹と弟がいて、成長につれ各自のライフサイクルがうまく回らないという課題も出てきました。
小さいうちは医療的ケアもなかったので、そのまま連れ回せましたが、大きくなると難しくなって…。
そんな時雲のポッケが日曜日も開所するとのことで、利用させていただいています。
三輪:ここで働く前は、どこかで勤務されていた?
窪田:ここを利用していて呼吸器を装着しているお子さんの学校にタイムケア看護師として学校にも行っていました。
三輪:ここが始まって、雄大くんと一緒に来て、仕事もして…。
窪田:彼も一緒に利用させてもらうことで、すごく助かりました。 雄大は週2回ここに来ていますが、私は、保育園の訪問看護と訪問看護とタイムケア看護師として学校にも行っています。
三輪:雄大くんはここに来た時に入浴ですか?週2回。
窪田:助かりました。雄大はお風呂が大好きなんです。 毎日入れてあげたいけれど、ちょっと大変ですから、ここでお願いできるのは助かっています。
三輪:今は中学生で、この後高等部に行って、その先のことは、どんなふうに考えていますか?
窪田:その先は、肢体不自由とか、重症心身障がい児という枠で考えるのでしょうが、 通える所の見通しは付いていません。 今は、こういう場所があるので安心ですけど、大人になってからのことを考えると、選択肢がないかな…。 医療的ケアの必要なお子さんと違って、雄大たちは、それほど病院に行く必要がありませんが、 だからと言って、普通の動けるお子さんたちと一緒に過ごすのも難しい。その中間の施設があると嬉しいです。
三輪:人との関りが必要ですよね。
窪田:そうですね。雄大たちと一緒に楽しくできる同級生たちもいます。 でも、そのお子さんたちにも居場所がなくて…。 こういうことを皆さんに知っていただいて、何が必要かというところを分かっていただけるといいのですが。
三輪:こういう施設で頑張ってるスタッフもいれば、 楽しみに通ってきてくださる子どもさんやご家族もいらっしゃるということを、 私たちも、みんなに知らせたいと思います。ありがとうございました。
窪田:是非お願いします。ありがとうございます。
スタッフの皆さんも、利用者の皆さんも快くインタビューに応じてくださいました。
勢いでできたという雲のポッケを、利用者とスタッフがともに育てているのを感じました。
お母さんたちは障がいのあるお子さんとただ向き合う毎日から、
家族との時間や自分自身の時間を持ち、さらに仕事を始めることもでき、はつらつとした印象を受けました。
一方で、お母さんたちの不安は共通して、子どもたちの成長に合わせた課題です。
養護学校は高等部までで、その後はそれぞれの子どもの障がいの程度にぴったり合う施設がないということです。
家族との生活も大切にしつつ、社会とつながりも継続できる居場所が必要と皆さん訴えていました。
今回の取材に際しては、赤堀さんをはじめスタッフの皆さん、そして利用者の皆さんに大変お世話になりました。改めて御礼申しあげます。ありがとうございました。
(写真:千葉明彦)
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