2026.10.05
友納 りお( 参議院議員/保健師・看護師/弁護士 )
日本看護連盟 常任幹事 岡山尭憲( 聞き手 )
今回の「巻頭インタビュー」では、看護職の「給料」や「働きやすさ」に直結する「2026年度(令和8年度)診療報酬改定」(6月1日施行)について深掘りします。
看護師・保健師であり、弁護士資格も持つ友納りお参議院議員は、医療・看護政策をはじめ、幅広い政策課題に取り組んでいます。中でも医療安全対策の負担軽減やハラスメント対策、看護記録のあり方など、現場のリアルな課題解決に奔走しています。そんな議員に、かつてない水準となった今回の診療報酬改定の裏側と、現場の看護職が注目すべきポイントをうかがいました。
物価高騰というかつてない危機と「歴史的改定率」の舞台裏
Q.今回の診療報酬改定に向けた国政の動きについて教えてください。
診療報酬は2年に1度改定されますが、そのたびに「改定率」をきちんと確保することが、私たち医療系議員の至上命題であり、とても重要な役割です。
改定率の交渉は非常に難しく、国も歳出を抑えたいので低い改定率を提示してきます。それに対して私たち医療系議員はもっと高くすべきと主張する立場です。これまで「実際の現場を見てほしい。今、多くの病院が赤字になっており、それなりの改定率を確保しないと医療現場がもたない」と、ひたすら働きかけを行ってきました。
Q.なぜ、それほどまでに医療機関の経営が厳しくなっているのでしょうか?
診療報酬というのは国が定める「公定価格」であり、病院・医療機関等の意思で勝手に価格を上げることができません。
かつて日本がデフレで物価が下がっていた時代には表面化しなかった問題ですが、今はインフレの時代です。
物価が上がり、光熱費が上がり、人件費が上がり、病院から出ていくお金はどんどん増えているのに、入ってくるお金(公定価格)は一定のままです。これでは病院・医療機関等の収入が減り、看護職の皆さんの給料を上げたり、ボーナスを支払ったりする原資がなくなってしまいます。
Q.その危機感が、今回の高い改定率につながったのですね。
はい。懸命な活動の中で、「診療報酬を物価などの上昇に対応させていく」という仕組みを新たに入れることができました。初・再診料等及び入院料とは別に算定できる「物価対応料」の新設です。これまでは国にそうした仕組み自体がなかったのです。
この新しい仕組みと、年度末にかけて予算をしっかりと確保した結果、前回の本体改定率が+0.88%だったのに対し、今回は「+3.09%」というかつてない大幅な引き上げ(3%台に乗せること)を実現することができました(「厚生労働省:令和8年度診療報酬改定について」参照)。
予算といえば、1月に衆議院議員総選挙があったため、国会での予算審議が遅れ、成立が危ぶまれました。 しかし、成立しないと、今回の診療報酬改定に物価上昇に対応するための財源ができず、きちんと皆さんのところに届けられないので、医療の現場にとっても、今回の予算は大変重要でした。
「確実な賃上げ」と待望の「夜勤手当」への還元
Q.確保された「+3.09%」という改定率は、現場で働く看護職の給与にどう反映されるのでしょうか?
今回の診療報酬全体の改定率である+3.09%の中には、人件費に使うように目的が限定されている部分が含まれています。
これを原資として、実際の現場で働く皆さんの給与については、2026年度、2027年度それぞれ+3.2%の賃上げを実現するという明確な目標が打ち出されました。さらに、看護補助者や事務職員については、本体+5.7%という、より高い引き上げ目標が設定されています。
Q.ベースアップ評価料の対象となる職員の範囲にも変更があったと聞いています。
事務職員や40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師も対象となりました。ただし、経営者や役員等は除きます。また、ベースアップ評価料の評価体系も見直されています。
2026年3月末の時点でベースアップ評価料の届出を行っていない保険医療機関に対しては、入院基本料等に減算規定(ペナルティ)が新設されるなど、国として確実な賃上げを促す強い仕組みになっています。
さらに、2024年3月と比較して継続的に所定の賃上げを行っている医療機関には、より高い点数で評価する仕組みも導入されました。
Q.給与面に関して、もうひとつ現場の関心が高いのが「夜勤」の処遇です。人手不足が最も深刻な部分ですが、こちらについてはいかがですか?
夜勤をする人が足りないという問題に対しては、これまでも夜勤加算をつけるなどの対応をしてきましたが、さらに手厚くしていく必要があります。
今回の診療報酬改定での大きな前進として、夜勤職員の確保を行う観点から、看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料による収入を「夜勤手当の増額」に用いることが可能になりました。「恒常的に夜間を含む交代制勤務を取っている職員に支払う夜勤手当は、毎月支払われる手当に準じて、基本給等に含めて良いことにする」と明確化されたのです。これにより、夜勤を担う皆さんの頑張りに、より直接的に報いることができるようになります。

「ICT活用で配置柔軟化」への期待とエビデンスなき推進への危惧
Q.人口減少社会が進んでいます。看護の質を落とさずに対応するための「業務の効率化」も急務です。DXやICTの活用についてはどうお考えですか?
人口減少社会が進む中、人手不足に対して 「人を増やす」 という解決策だけに頼ることには限界があります。そのため業務を効率化していくしかありません
今回の診療報酬改定でもひとつの流れとして、「見守り、記録、医療従事者間の情報共有に関し、ICT機器等を組織的に活用している場合は、1日に看護を行う看護職員の数等の基準の柔軟化を図る(本則の1割以内)」という仕組みが入りました。この 「配置の柔軟化」というのは、看護師の配置人数を減らしてもよい、ということです。
Q.「配置を減らしてもよい」というのは、現場の「人を増やしてほしい」という実感とは逆行しているようにも感じますね。
まさにその通りです。現状では人手を増やしたいぐらいですよね。私も危惧している点が1点あります。それは、「ICT機器を入れれば業務が効率化する」という因果関係はあるにしても、「ICT機器を用いれば、人を減らしても看護の質が落ちず、安全である」というエビデンス(科学的根拠)は現状出てきていない、ということです。
もちろん、本当に人手が減っていく中で看護の質を落とさず提供する方法は考えなければなりません。しかし、エビデンスがなければ、これ以上この政策を前に進めるべきではないと私は思っています。何より、ICT機器は業務の効率化というよりも、私たちが「本来の看護」に集中できる時間をつくるために用いていくべきものです。
Q.国政の場では、そうした現場と制度のギャップについても厳しく議論されているのですね。
はい。そうしたことを1つひとつ議論しているのが、この国政の場なのです。制度をつくって終わりではなく、それが現場の皆さんの負担にならないか、本当に適切な評価につながっているかを常に注視していく必要があります。
「骨太の方針2026」にも示された今後の診療報酬改定の方向性
Q.内閣府から出された「骨太の方針2026」でも物価の変動に対して、診療報酬で適切に対処することが明記されていますね。
「骨太の方針」は正確には「経済財政運営と改革の基本方針」といいます。この中で「高齢化や高度化等への対応が必要な医療給付費については、経済が成長し賃上げが継続する『強い経済』の構築に向けた取組を進める中で、診療報酬に経済・物価動向等を基本的に反映」とはっきり述べられました(「内閣府:経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)」参照)。
予算を確保し、政策を前に進めるという意味では、この 「骨太の方針」 の中に 「看護」 に関わる文言をしっかり明記することがとても重要です。今回も 「骨太の方針」の原案にはなかった「医療人材の実効的な養成・確保の方策について検討するとともに、看護職員の質の向上や潜在人材の活用を含む偏在対策等を推進する」や「訪問看護の適切な実施」などを「全世代型社会保障の構築」の項目に入れこむことができました。
Q.最後に、全国の読者へメッセージをお願いします。
診療報酬の仕組みは少し複雑に感じるかもしれませんが、皆さんの働く環境やお給料に直結する非常に大切なものです。今回の改定によって、病院の経営も含めて少し改善する部分もあるのではないかと思っています。
現場の皆さんには、それぞれにさまざまなご意見があると思います。これからもぜひ、施設訪問などを通じて皆さんのリアルな声をお聞かせいただき、しっかりと国政の場で取り組んでまいります。
東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒。
同大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了。
早稲田大学大学院法務研究科修了。
都内医療機関に看護師として勤務後、都内法律事務所を経て、土肥法律事務所を開所。
2022年、参議院議員通常選挙で初当選。
2026年の高市政権で環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官を務めた。
(掲載:日本看護連盟機関誌N∞[アンフィニ]N∞ 2026 夏号)
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