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ナースのための判例解説③
医療機関における暴力について

2020.04.20

友納理緒(弁護士)

2017年3月、千葉地方裁判所で、ある判決が出されました。
この事件は、私たちと同じ看護職(准看護師A・B)が、精神科に入院中の患者に対し暴行し、けがを負わせ、そのけがを原因とする肺炎により2年後に死亡させた疑いがあるというものです。事件発覚当時、暴行の状況とされる動画が公開され、大きく報道されましたので、覚えていらっしゃる方も多いかと思います。検察は、両者の行為を「看護とかけ離れたもの」として、懲役8年(傷害致死罪)を求刑しました。

裁判の結果


【准看護師A】→罰金30万円

そもそもは被害者にズボンをはかせる目的であった。被害者が突然伸ばした左足が自分にあたったことに腹を立て、頭を1回蹴ったもの。 ただ、死因との因果関係が明らかではなく、暴行罪にとどまる。

【准看護師B】→無罪

暴行は認められず、共謀もない。

今回の裁判例から考える

本事案の詳細はわかりませんし、暴力は決して許されるものではありませんが、この看護師らが問題とされる行為に至るまでには報道されていない様々な事情があったのかもしれません。 皆さんの中には、術後不穏やせん妄、精神疾患や認知症等、患者さんから暴行を受けるリスクの高い現場で働かれている方も多くいらっしゃることでしょう。暴言や暴行は、直接身体を傷つけることがなくても、精神的に大きなストレスを与え、時には職務の遂行を困難にすることもあります。 このストレスは、個人で解消することは困難ですので、医療機関としては、医療者のため、ひいては患者のために、適切な環境整備を行う必要があります。

過去の裁判例

過去には、看護師が入院患者からの暴力により傷害を受けて休職した事例において、裁判所は、次のように判示しています(東京地裁2013年2月19日判決)。

 ○○病棟においては、看護師がせん妄状態、認知症等により不穏な状態にある入院患者から暴行を受けることはごく日常的な事態であり、病院は、看護師が患者からこのような暴行を受け、傷害を負うことについて予見ができた。
 したがって、病院としては、そのような不穏な患者による暴力行為があり得ることを前提に、看護師全員に対し、ナースコールが鳴った際、(患者が看護師を呼んでいることのみを想定するのではなく、)看護師が患者から暴力を受けている可能性があるということをも念頭に置き、自己が担当する部屋からのナースコールでなかったとしても、直ちに応援に駆けつけることを周知徹底すべき注意義務を負っていたというべきである。

臨床現場のみなさんへ

暴言・暴力対策としては、事前・発生時・事後と段階的に対策することが重要です。 「暴言・暴力は絶対に許さない」という強い姿勢を示したうえで、マニュアル等を作成する事前の対策が重要であることはもちろんですが、疾病などによる影響がある以上、病院において暴力行為を根絶することはできませんので、発生時・事後の対策も重要となります。その際には「個人ではなく組織として対応すること」「必要に応じて毅然とした法的対応を行うこと」「被害者のケアには柔軟に対応すること」を心がけていただければと思います。

(掲載:機関紙アンフィニ2018年春号)

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著者プロフィール

友納 理緒  とものう・りお

弁護士・土肥法律事務所・第二東京弁護士会所属
2003年 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業 (看護師、保健師免許取得)
2005年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了
2008年 早稲田大学大学院法務研究科修了
2011年 弁護士登録
2012年 都内法律事務所 (新宿区) に勤務
2014年 衆議院議員政策担当秘書として出向(~2016年12月)

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