2021.10.14
友納理緒(弁護士)
今回は、介護施設で働く看護職にかかわる裁判例(大阪地裁平成24年3月27日判決(判時1384号236頁))をご紹介します。コロナ禍において、感染対策などの面で大きな役割を担うみなさんです。その注意義務の水準がどのようなものかについて確認しておきましょう。なお、事例は介護施設におけるものですが、医療機関以外で働くみなさんにも参考になるものだと思います。
平成21年10月27日、介護老人保健施設で看護師から浣腸を受けたA(80歳女性)さんが、直腸壁を損傷し、その後、敗血症により死亡してしまいました。
そこで、Aの家族は、本件施設の看護師には浣腸実施にあたり、手技上または体位選択上の注意義務違反があったと主張して、死亡慰謝料の損害賠償を求め、裁判を起こしました。
『看護師に浣腸時の体位の選択について過失があった』
要支援・要介護1~5の者を短期入所などの対象者とし、看護師が常駐して、下剤の投与や座薬の挿肛、浣腸の実施など、一定の医療行為を行っていた。
このような本件施設の態勢や療養介護の内容からすると、本件施設で医療行為に従事する看護師に求められる注意義務の水準は、特に安全確保の面に関していえば、一般の医療機関における看護師が医療行為を行う際に求められる注意義務の水準と比較して、同程度のものと解するのが相当である。
平成17年頃から、医療安全情報として、立位による浣腸の危険性が指摘され、浣腸は左側臥位を基本として慎重に実施すべきことが一般の医療施設に徐々に普及し、平成19年以降遅くとも平成21年10月当時には、看護師を含めた医療従事者にとって一般的に認識されていた(なお、本件看護師も、看護学校の教育で、ベッド上で側臥位になって浣腸するよう指導されていた)。このような本件浣腸当時の浣腸の体位に関する一般的な医学的知見の内容からすると、本件看護師には、本件施設においてAに浣腸を実施する際には、特段の事情がない限り、立位ではなく左側臥位で実施すべき注意義務があったと認めるのが相当である。
→看護師がトイレで立位の状態でAに対し浣腸を行ったことは体位の選択の点で不適切であった。
本判決のポイントは、特に安全確保の面に関していえば「一般の医療機関における看護師が医療行為を行う際に求められる注意義務の水準と変わらない」とされているところです。そのうえで、裁判所は浣腸が行われた平成21年10月27日の時点における医療水準を判断しています(この医療水準の判断の仕方も参考になります)。
他方で裁判所は、別の裁判例において、看護水準は、①看護師の専門分野、②医療機関の性格(人的・物的設備の充実度・規模など)、③所在地域の医療環境の特性などによって異なると判示しておりますので、この関係が気になるところです。
もっとも、本判決は、明確に「特に安全確保の面に関していえば」と示していますので、少なくともこの点については、一般の医療機関における看護師の水準と変わらないことを認識しておきましょう。
著者プロフィール
弁護士・土肥法律事務所・第二東京弁護士会所属
2003年 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業 (看護師、保健師免許取得)
2005年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了
2008年 早稲田大学大学院法務研究科修了
2011年 弁護士登録
2014年 土肥法律事務所開所 / 衆議院衆議院議員政策担当秘書として出向(~2016年12月)
2020年 公益社団法人日本看護協会参与に就任
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