2020.10.04
明石 伸子 (日本マナー・プロトコール協会 理事・事務局長)
Q1 患者さんやご家族への説明が上手くできません。話し方のポイントについて教えてください。
A : カウンセリングや施術説明など、医療の現場では患者さんやそのご家族に対して、わかりやすい説明が求められます。 誤解を招かないことはもちろんですが、良好な信頼関係を築くためにも話し方のポイントを確認しましょう。
Point1 : 聞き手のことを考えて話す
話の内容を、自分の意図するように相手に伝えるためには、相手によって話し方や言葉遣い、その時の態度や表情を変えることが大切です。
①専門知識の理解度を確認する
専門的な話をする場合は、相手の理解度を確認しておくことが大切です。専門知識をある程度理解できる場合は、相手が納得できるように質問を引き出し、それに丁寧に答えるようにします。 反対に、専門知識がない場合は、反応を確認しながらゆっくり話しましょう。
また、内容が記憶に残らないことも多いので、話を補足する資料などを準備しておくことも必要です。
②聞き手の状態を察する
相手の精神的な状態によって話の切り出し方を変えることが大切です。誤解を招かないためには、内容を整理して、結論から明確に話すことがよいとされますが、 本題からストレートに話すことでショックが大きいような場合は、相手にとって身近な話題から入るようにして、心の準備を促します。
③話す環境を整える
落ち着いて話をするためには、時間に余裕があることや、静かで話しやすい環境が不可欠です。せわしない状況で重要な話をすると、誠意や配慮がないと受け取られるので注意しましょう。
また、重要な話は、相互に誤解が生じないよう、互いに複数の人に立ち会ってもらうようにします。
④真摯な態度で話す
話の内容と、話し手の態度や表情が合っていることが大切です。特に深刻な話をする場合は、相手の気持ちになって、共感し、同調する姿勢が大切です。
Point2 : 分かりやすく、効果的な話し方のポイント
①事実を正確に伝える
相手の判断を誤らせないようにするには、誤解を招くようなあいまいな言い方や余計な話は差し控えましょう。
②伝えたいことをハッキリさせる
話し手が、話す内容を事前に整理していることが大切です。伝えたいことをハッキリさせるためには、話の最後に「あらためて申し上げますが…」などのように、 相手に対する要望や、判断を促す内容を復唱し、確認します。
③わかりやすく整理して話す
余分なことはなるべく割愛し、以下のような点に配慮しましょう。
⒜ まず全体像を示し、次に部分を伝える
⒝ 「術前」「術後」や「メリット」「デメリット」など、比較して話す
⒞ 「最も大切なことは」「次に重要なのは」など、重要度や緊急度、効果性などの優先順位をつけて話す
⒟ 「○○の結果は、△△が原因です」や「△△の原因によって○○となりました」のように、「結論」と「原因」をわかりやすく示す
⒠ 「過去、現在、未来」のように、手順や時間の流れに沿って話す
⒡ 具体的な数字を示して話す
Point3 : 聞き取りやすい話のスピードやリズム
聞き慣れない内容を相手が正しく理解するためには、普段の速さよりも意識してゆっくり話すことが大切です。聞き取りやすい話のスピードは、
1分間に300字程度といわれますが、具体的にはアナウンサーの話す速さをイメージすればよいでしょう。また、以下の点にも注意が必要です。
⒜ 重要な話をする前には意識的に「間」を取って、相手の注意を促す
⒝ 声の大きさに配慮する。特に重要なことや深刻なことは、相手の注意を喚起するために相手に近づいて少し小声で伝える
Q2 「聞き上手」という言葉がありますが、人の話はどのように聞けばよいのでしょうか?
A : 人は一般に、自分の話をよく聴いてくれる人に親近感を抱きます。特に、病気やけがで不安になっている場合は、自分の気持ちを理解してくれる人を求め、 話をすることでストレスが軽減されるようです。患者さんのよき話し相手になってあげましょう。
Point1 :「聴く」ことの大切さ
日本語には「聞く」という漢字が3種類あります。「聞く」「聴く」「訊く」です。
「聞く」は、声や言葉が自然に耳に入ってくる聞き方ですが、「聴く」は、積極的に相手の話に耳を傾ける聞き方です。
さらに、「訊く」は、質問をして、相手の気持ちや本心を引き出す聞き方と思えばよいでしょう。医療の現場では、患者さんの話を「聴く」あるいは「訊く」ことで、 以下のような効果があります。
①状況や心境が理解できる
話を「聴く」ことで、相手の情報を入手できます。患者さんの心身の状況を把握することは、適切な医療行為を施すためにも必要なことです。
②相手を認め、大切にしていることが伝わる
相手の話を「聴く」ことは、相手に関心をもっていることを示す行為です。したがって、相手は、話を聴いてくれる人に心を開くようになるのです。
③よりよい人間関係の構築につながる
人は、自分を認めてくれる人に好意や好感を抱き、その関係が続くことによって、医療効果を高めるために必要な、相互の信頼関係が構築されます。
Point2 : 相手が話しやすくなるような態度と表情
話し手が話しやすいかどうかは、実は聴き手の態度によって大きく変わります。話を熱心に聴く姿勢があれば、相手は安心して話せますが、急かしたり、
うわの空では話をする意欲も損なわれてしまうからです。
①あいづち、うなずき
きちんと話を聴いていることを示すメッセージになります。「うんうん」や「はぁ、はぁ」などのような繰り返しではなく、「そうですか!」「なるほど」など、 話の内容に応じた適度な「あいづち」と「うなずき」がよいでしょう。
②アイコンタクト
話をする時も、聴く時も、相手の目を見ることは、相手を認める原点です。目を凝視すると、相手が圧迫感を感じる場合もあるので、適度に視線をそらすことも必要です。
③表情
悲しい話には悲しい表情を、楽しい話には楽しい表情というように、話の内容に応じた表情を示しましょう。
④姿勢
人は、積極的に話を聴く場合は、少し前のめりになるものです。反対に、腕を組んだり、後ろにふん反りかえっていると、横柄な態度に思われるだけでなく、 相手に緊張感を与えるので注意しましょう。
Point3 : 話を聴く位置
座る位置は、話し手と聴き手の心理に大きな影響を与えます。それぞれのポイントを確認しましょう。
①正面に対する位置
真正面に座ると互いに圧迫感を感じます。特に込み入った話や長時間になる場合は避けたほうがよいでしょう。
②相手の位置より少しずらす
机の幅が狭く、両者の距離が比較的短ければ、話しやすい位置です。しかし、距離が長いと、よそよそしく感じます。
③角の位置
相手に近い割には、心理的な圧迫感が少ない位置です。親近感も高まりやすいので、患者さんとの話し合いなどに活用するとよいでしょう。
「話すこと」と「聴くこと」は、相互理解に不可欠な要素であり、また、よりよい人間関係の構築には、2つがバランスよく取られることが大切です。 「よい話し手」であり、「よい聴き手」になるために、今一度、自分自身の患者さんへの接し方を見直してみましょう。
著者プロフィール
NPO法人日本マナー・プロトコール協会 理事長
青山学院大学卒業後、日本航空客室乗務員、会社役員秘書などを経て1996年CS(顧客満足度向上)コンサルタントとして独立。
2003年NPO法人日本マナー・プロトコール協会を設立し、文部科学省後援「マナー・プロトコール検定」の実施を通じてマナーやプロトコールの普及に力を注ぎ、講演、研修などで活躍。
その他、ゆうちょ銀行社外取締役、吉野家ホールディングス社外取締役、NHK経営委員、学習院女子大学非常勤講師など。(2020年4月現在)
「NPO法人日本マナー・プロトコール協会」
マナーを学びたい方に
協会が実施する通信教育講座「マナー・プロトール検定2級完全合格講座」は、ビジネスマナー、テーブルマナー、冠婚葬祭、季節の贈答、日本のしきたりなど、
日本人として社会人として必須のマナーやプロトコール(※)に関する知識が学べ、さらにこの講座を一定基準以上で修了した方には、文部科学省後援「マナー・プロトコール検定」の
2級が在宅で受験できます。
※プロトコールとは、本来は国家元首間の会談などの公的な国際儀礼のことを指します
「マナー・プロトコール検定完全合格講座」
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