2025.03.03
福田 淑江 Fukuda Yoshie( 日本看護連盟 常任幹事 )
日本看護連盟機関誌N∞[アンフィニ]の2024年秋冬号(No.551)の巻頭対談で、石田まさひろ参議院議員は、看護職の「量を守り、質を追求する」ことの重要性を、7つのポイント【本記事の表2】を示しながら指摘されました。そこで示されたポイントを考える上で、前提として「看護職の人手不足と働き方改革」についての現状認識と2040年問題をはじめとする未来の予測が必要となります。本稿では、日本看護連盟常任幹事の福田淑江氏が人手不足と働き方改革が看護に与える影響を詳細に解説します。
看護職と2040年問題
1)人口減少の状況と未来の予測
「2040年問題」とは、2040年代に日本の高齢者人口がピークを迎え、同時に生産年齢人口(15~64歳)が急減し、国内経済や社会保障の維持が危機的状況に陥るとされる問題の総称です。
2025年に、人口の多い団塊の世代は75歳となります。そして、2024年の高齢化率は29.3%と過去最高に達しました。「3人に1人が65歳」という時代が訪れたわけです。
今後、人口減少、少子高齢化が進展する日本は、生産年齢人口の減少が加速し、「現役世代の急減」というフェイズに移行します。そして2040年は、高齢化率が約35%に上昇し、生産年齢人口は2025年より16.6%減少すると推計されており、人手不足がさらに深刻化するといわれています(図1)1)。
リクルートワークス研究所の「Works Report2023 未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」2)では、2040年に約1100万人の労働供給が不足するとしています。この規模は、2022年の近畿地方の就業者数に匹敵します。特に「介護サービス」職種や「保健医療専門職」など「生活維持に関わるサービス」に関連した職種の不足が顕著で、その結果、「週4日必要なデイサービスに、スタッフ不足で3日しか通えない」「医療スタッフがいないため診察まで長蛇の列ができる」「救急搬送先が確保できず、救急車の立ち往生が常態化する」など、必要な医療・介護サービスを受けられなくなると警鐘を鳴らしています。
このように、2040年の日本の医療・介護現場は深刻な危機に直面することが予測されています。高齢化による医療・介護需要の増大、そして看護職を含む働き手の不足が、看護の未来を揺るがしていま す。この「2040年問題」を解決するためには、人手不足への具体的な対策と生産性向上の取り組みが不可欠です。加えて現場の声を反映した政策提言を通じて、労働環境の改善や看護職の確保を目指すことが急務です。
2)現在の看護職の就業状況
2020年の看護職の就業者数は173.4万人ですが、2040年には、訪問看護を含む介護分野での需要の増大に伴い、210.1万人が必要であると推計されています3)。しかし、18歳人口は、2005年には135万人、2024年は106万人でしたが、2040年には82万人に減少すると推計され、今後、看護職を目指す若者が減少することが見込まれます。
18歳人口の減少は看護師養成機関にも影響を及ぼします。2023年度の看護系大学・養成校の入学状況4)では、大学の充足率は101.4%でしたが、3年課程は89.3%、2年課程は71.1%という状況であり(表1)、定員割れで閉校に至るケースも出てきています。今後、18歳人口の減少により閉校が加速される可能性もあります。
一方、就業中の看護職員の平均年齢は、図2のように1996年は36.9歳でしたが、2022年は44.1歳に上昇し、中年層、60歳以上の高年層の看護職が増えています5)。
現場では「募集しているが、新卒の応募者がいない」「看護職員が不足して、一部の病棟を閉鎖している」など、すでに人手不足が顕在化しています。2023年の日本看護連盟会員が就業している病院を対象とした調査では、2023年4月の看護職員の採用状況は、応募者数が採用者数に満たなかった病院が約半数(52.2%)という結果でした。500床以上の大病院でも約4割の病院(38.8%)は応募者数が採用者数に満たないという厳しい状況になっています。
2023年10月には、1992年12月に「看護婦等の人材確保の促進に関する法律」(人確法)第3条の規定により制定された「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」が30年ぶりに改定されました。その中では、生産年齢人口が減少する中での看護師等の確保の重要性があげられ、「看護師等の養成」「病院等に勤務する看護師等の処遇の改善」「研修等による看護師等の資質の向上」「看護師等の就業の促進」等について総合的に進める必要性があるとしています。
「看護師等の養成」については、看護師等養成所の整備・運営の支援の重要性、看護関係資格の取得を目指す社会人経験者の教育訓練の受講支援の重要性が明記されていますが、将来必要となる看護職の確保が難しいことは想像に難くありません。
人手不足対策への2つのキーワード
シンクタンク・コンサルティング機関であるパーソル総合研究所の調査報告書「労働市場の未来推計2030」6)では人手不足に対する対策として、「女性」「シニア」「外国人」の就労促進、「生産性の向上」をあげています。
また、リクルートワークス研究所が出した「未来予測2040」7)では、人手不足に対する対策として「機械化・自動化」「シニアの小さな活動」「仕事におけるムダ改革」、そして「ワーキッシュアクト(Workish act)*」の4つをあげています。
「ワーキッシュアクト」については、今回、その言葉を初めて知りました。「ワーキッシュアクト」という言葉は新しくつくられたもので、その定義を下記(*)に示しています。活動そのものは、これまでもなされてきたもので、「自身の家族以外の高齢者や介護が必要な方の生活の手伝い」「介護・医療施設の活動補助や運営の手伝い・参画」「各種ボランティアの活動」などです。地域活動と看護の融合により、新しい形の労働供給の創出が可能となり、人手不足の一助になるのではないかと思います。
*ワーキッシュアクト
「慈善活動」「ボランティア」「コミュニティ活動」「副業」「趣味」または「娯楽」などと呼ばれてきた活動のうち、結果として誰かの困りごとを助けているものの集合体である。
例)収入を伴う副業・兼業/町内会・自治会・マンション管理組合などの地域活動/趣味・娯楽を通じたコミュニティへの参加/農作業や自然保全などの活動/町づくりや町おこしの活動など
さらに、厚生労働省の「2040年を展望した社会保障・働き方改革」8)では、「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」するために「2040年時点で、単位時間当たりのサービス提供を5%(医師は7%)以上改善」するという具体的な数値目標をあげています。そのためには、ロボット・AI・ICT等の実用化の推進、データヘルス改革、タスクシフティングを担う人材の育成、シニア人材の活用推進等を必要としています。
以上のように、2040年に向けた人手不足に対する対策としては、限られた労働資源の中で「いかに労働供給を増やすか」、労働需要を減らすために「いかに生産性を向上させるか」がキーワードになると考えられます。
石田まさひろ参議院議員の掲げる看護政策の重要性
石田まさひろ参議院議員は、前述したN∞[アンフィニ]2024年秋冬号の巻頭対談において、2040年の未来を見据え、「量を守り、質を追求する」ための7つのポイントをあげています(表2)。このポイントを、前述した「いかに労働供給を増やすか」「いかに生産性を向上させるか」の観点から整理します。
1)いかに労働供給を増やすか
慢性的・構造的な労働力不足時代にあって、石田議員は「労働供給を増やすことは難しく、量を守ることが精いっぱいかもしれない」と話されています。
その「量を守る」方法としては、人材確保のための公的制度である「①ナースセンターの機能充実」をあげています。「ナースセンター」が職業紹介だけでなく直接看護職を雇って過疎地に派遣したり、看護職の働き方について病院に提案する機能を持ったりするなど、「抜本的な見直しの必要性」をあげています。看護職の確保困難な地域をカバーするシステムの構築が、今後の地域医療を守る上では必須 といえます。
また、「⑦卒前・卒後の教育の連動と生涯教育の充実」においては、プラチナナースの活躍に触れています。プラチナナースが、“生涯看護師”でいるために、柔軟で自由な学び合いの場をつくり、生涯を通じた学びを支えることに言及しています。2022年において就労している60歳以上の看護職は、就業者全体の12.8%を占めています9)。高齢者の就労促進は進められていますが、人生100年時代において、プラチナナースの質を担保することは専門職としての責務と言えます。
一方、現場の看護職は55歳以降になると給与が一律に何割か減額されることもあり、フルタイムで働くプラチナナースのモチベーションを下げています。今後、看護職の「シニアの活用」を促進するためには、適正な評価に基づいた処遇の改善が課題になるのではないでしょうか。
2)いかに生産性を向上させるか
次に「生産性の向上」については、「②看護職の業務の整理と効率化」「③看護職の働き方の抜本的見直し」「④科学技術を活用した看護の革新的な向上」などをあげています。看護本来の業務とは何かを明確にし、看護記録等の効率化、他職種や看護補助者等にタスクシフト/シェアできるものは何かなど、専門職としての視点で選別する必要があります。
科学技術の活用では、AIやロボットの活用があります。看護職が行っている業務で、機械やロボットで代替できるものはテクノロジーの進化とともに、機械やロボットに移行していくことが必要です。例えば、入院生活の送り方などのオリエンテーションは、入院用ロボットが患者のベッドサイドまで自立して移動し、モニターに動画を流して説明する、患者がタブレットで基本情報を入力するAI問診を導入する、患者見守りロボットの活用など、遠くない将来、医療の現場の日常的な光景になるかもしれません。
しかし、このような新しい技術を使って看護力を高めるには研究開発など予算が必要になります。そのため、予算措置に関する課題もあります。
さらに石田議員は「⑤医師不在地域での看護師の活用拡大」をあげています。医師がいないため遠隔診療も難しい過疎地域や離島で、資格を持った看護師が医師の行為の一部を行うことは、多くの国民の賛同が得られるものであり、国民にとって必要な制度であり、しっかり進めていきたいと話されています。
これに関連して、日本看護協会は「ナース・プラクティショナー(仮称)の制度化」を政策提言に盛り込んでいます。ナース・プラクティショナーの教育としては、日本NP教育大学院協議会が「診療看護師」として872名を認定しています(2024年4月現在)。また、日本看護系大学協議会は「ナースプラクティショナー」として15名を認定しています(2024年6月)。地域における医師の偏在に、さまざまな対策が講じられていますが、医師の高齢化などにより、地域によっては医師不在、診療の縮小などが起こっています。地域医療の維持が困難の場所で、医療を確保するために、ナース・プラクティショナーの1日も早い制度化が待たれるところです。
これに関連して、2024年、医師の働き方改革として時間外労働の上限規制が始まりました。病院によっては診療時間の縮小、受け入れ患者の制限等の課題も発生していますが、救命救急センター、心臓血管外科等の急性期の領域で、診療看護師の活用によって、医師の超過勤務の縮減に効果を上げていることもニュース等で取り上げられています。チーム医療の一環としてタスクシフトの推進が、今後の医療体制の確保に必須であるといえます。
政策提言の必要性
就労する看護職の労働環境を改善し、2040年問題に対応するためには、現場の努力だけでなく、さまざまな政策提言が必要です。そのためには、国政における制度成立に向けて活動する看護職国会議員の存在はなくてはならないものです。
2024年度は診療報酬改定において「ベースアップ評価料」の新設など、医療職の処遇改善が進められましたが、2026年度の以降については未定です。引き続き看護職の処遇改善に取り組む必要があります。
また、看護職員の確保のために看護師等養成機関への補助金増額や、教育環境の整備などの財政支援の拡充も必要です。さらに、生産性向上を目指すために日本版ナース・プラクティショナー(仮称)の制度化には、保健師助産師看護師法の改正が必要になります。
このように、立法の場に看護職国会議員の存在はなくてならないものです。さらに、私たち看護連盟会員は看護職国会議員の政治活動を支援するだけでなく、地方議員とも連携し、地域特性に応じた看護職確保の仕組みを構築する活動を続ける必要があります。
看護職の国会議員を国政に送りだす意義
「看護職における2040年問題」は、深刻な人手不足と生産性向上の課題に直面することになります。この問題を解決するためには、政策提言を通じて国や自治体に現場の声を届け、制度改革や財政支援を促進することが必要です。
そのためには看護職国会議員を国政に送りだすことが重要であり、それにより未来の医療・看護、そして介護体制を支える基盤を構築することが可能になります。ひいては持続可能な社会の実現につながると考えます。
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2025 年早春号 No.552)
(cover image by 写真AC)
[引用文献](URL はすべて2025.1.6 閲覧済)
1)厚生労働省:2040 年に向けた人口動態・医療需要等 https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001090217.pdf
2)リクルートワークス研究所:Works Report 2023 未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる https://www.works-i.com/research/ report/item/forecast2040.pdf
3)厚生労働省:看護師等(看護職員)の確保を巡る状況 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118192.pdf
4)令和5 年看護関係統計資料集,日本看護協会出版会,p 62-64,2024.
5)日本看護協会ニュースVol.672,2024 年3 月号 https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/ky_202403_tabloid.pdf
6)パーソル総合研究所:労働市場の未来推計2030 https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/roudou2030/
7)前傾2)
8)厚生労働省:2040 年を展望した社会保障・働き方改革について https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21483.html
9)日本看護協会:プラチナナース活用促進 サポートBOOK https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/support_book_2024_2.pdf.
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