レポート
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「患者」を守り「国民」を守る〜私はナースの予備自衛官〜

2024.08.09

福元 優一さん( 鹿児島看護連盟 青年部 副委員長 / 公益財団法人慈愛会 今村総合病院 )

皆さんは「予備自衛官」をご存じですか?
予備自衛官等は、ふだんは会社員・自営業・学生などそれぞれの本業を持ちながら、有事などの際に防衛招集や災害招集などに応じて自衛官として任務に就く非常勤の特別職国家公務員です。
まず、病院勤務の看護師である私が、予備自衛官になるまでの経緯をお話ししましょう。

「予備自衛官」になってみよう!

2011年3月11日、東日本大震災が発生した。当時の私は「大変なことが起こった」と認識し、鹿児島からは遠い東北の地に「何か手助けすることはないか」と模索しつつもDMATの資格もないため、義援金を多めに出すことぐらいしか選択肢が浮かばない日々を過ごしていた。

そんなあるとき、知人から連絡があった。「息子が自衛隊なんだけど、予備自衛官制度があるんだって。それで、私も試験を受けて予備自衛官になろうと思って。ふと、福元さんのこと思い出してね。体力も力もありそうだし、一緒に活動したら楽しそうだし、なってみない?」とのこと。

うん? 予備自衛官? それって自衛隊員だった人が、辞めてから、またなるやつじゃなかった? 何で俺? というのが率直な感想であった。人より体力あると言っても、話を聞いたその当時で36歳、大丈夫なの? と思いつつも取りあえず前向きに検討することにした。

調べていくうちに、1年間に5日間の訓練に参加しないといけないなど、3つの問題があることがわかった。

①家庭の問題

当時、結婚3年目で、まだ子どもはいない状況であったが、妻の趣味やストレス発散の手段が「旅行」であった。5日間の訓練のことを話すと「5日も!そこで休んだら旅行いけないじゃん」との反応……。そこで、まずは奥さんへの懸命なプレゼンから始まった。その結果、最後は「そういうの好きそうだし、あなたがしたいならしたほうがいいんじゃない」と応援してくれて、ここは何とかクリアできた。

②副業の問題

予備自衛官には、年間8万8500円(交通費は別途)の手当が支給されるため、副収入が発生する。私の病院の就業規則では、副業は禁止となっているが、他のどの病院も同じような規則になっているのではないかと思う。
しかしよく調べると、予備自衛官は公務員でも認められる副業であることがわかった。当時の看護部長に調べた内容をプレゼンし、許可をもらえた(予備自衛官制度のことを初めて聞いたらしく認知度が低いためか、「とりあえず試験に合格したらまた来なさい」との返答ではあったが……)。

③試験の問題

調べていくうちに、自衛隊の経験がない一般の人は、まず「予備自衛官補」になり、その後、所定の教育訓練を受けた後、「予備自衛官」として任用されることがわかった。
そして、予備自衛官補になるためには「採用試験」を受けなければならないという。英語が、大・大・大の苦手である私にとって危機だったが、身体検査と適性検査、面接と小論文で、英語はなく、ホッとした。

さて、3つの問題が片づいて、まず「予備自衛官補」をめざすことになった。

予備自衛官補は「一般公募」と「技能公募」に分かれている。技能には、衛生(医師、歯科医師、薬剤師、診療放射線技師、理学・作業療法士、栄養士等)、語学(通訳等)、法務(弁護士、司法書士)、通信(無線)、情報処理(ITストラテジスト等)、整備(自動車整備士等)などの区分があり、看護師は「衛生」に分類される。

募集年齢は「一般」が34歳未満で「技能」は53歳未満。予備自衛官補から予備自衛官になるまでは、一般が3年以内に50日間の教育訓練を実施、技能は2年以内に10日間の教育訓練実施と異なる。技能は教育訓練をクリアしやすくなっている。

前置きが長くなったが、私は採用試験準備を進め、東日本大震災翌年の2012年春に試験を受け、合格した。そして2012~2013年に10日間の教育訓練を修了し、ついに予備自衛官としての活動が始まった。

左:招集中に着用する被服が似合いすぎる筆者  右:病院で本当の姿で活躍する筆者

 

「予備自衛官」って何をしている?

では、ここからは予備自衛官について、“ていねい”に説明いたします。

冒頭で簡単に述べましたが、陸上自衛隊のホームページでは、予備自衛官について「普段はそれぞれの職業に従事しながら、訓練招集命令により出頭し、予備自衛官として必要な知識・技能を維持するため年間5日間の訓練に応じます。防衛招集には、予備自衛官から自衛官となって、駐屯地の警備や後方支援等の任務にあたります。大規模な災害発生時においても大臣が特に必要と認める場合には、災害派遣に応じることとなります。また、国民保護等招集により出動し、国民保護の任務に就くこととなります」と 説明しています(一部抜粋)。

つまり、有事(戦時)には、前線に駐屯地より自衛官が派遣されるので、手薄になる可能性がある駐屯地の警備を、もしくは前線から離れた場所での後方支援(イメージ的に野戦病院等)を担当するのです(防衛招集)。そして、テロなどの武力攻撃事態においては、住民の避難・救援の支援や武力攻撃災害への対処を行います(国民保護等招集)。また、大規模災害時においても招集があります。

私たち技能班は、まず予備自衛官補の時代に技能班全体(全国それぞれのブロックに分かれて)で教育訓練があり、敬礼、銃の扱い、自衛隊の規律等を学びます。

予備自衛官になった後は、それぞれの地域の駐屯地で訓練を受けます。その中でも医療班(自衛隊では「衛生隊」と呼ぶ)は、医療班だけが集まって訓練があります。訓練の日程は個人の選択可能です。例えば、1年間で5日間行わないといけない訓練を、5日間とも医療班での訓練とするか、もしくは駐屯地だけの訓練とするか、あるいは、2日と3日に分けて駐屯地と、医療班での訓練にするかなどです。私的には、最初は医療班だけの訓練をお勧めします。

それはなぜかと言うと、自衛隊での訓練レベルが同じ仲間であることと、医療行為に特化した訓練であるからです。一般の駐屯地での訓練では、元自衛隊のメンバーが多く、一般人では聞かない用語が普通に使われていたり、そこでの当たり前の行動が経験の浅い人には理解できなかったりします。もちろん、そこはまわりが優しく教えてはくれますが、私は体つきからなのか、白衣より迷彩服が似合うため、見た目が元自衛官みたいで、こちらから聞かないとまわりが気づいてくれませんでした(笑)。

訓練の中で必ず行う訓練の1つが、銃の分解・結合、そして射撃です。銃は分解できるところまで分解し、その後、再び撃てる状態まで結合していくのですが、1つでも部品が足りないと射撃ができない状態となることには驚きました。私が最初扱った銃は64式小銃といい、その名の通り1964年に採用された銃ですが、製造から60年近くになる銃なのに、ピカピカに磨かれていて今だ現役なことに、さすが自衛隊と感じました。

また、扱う銃は職種によって異なり、医師・薬剤師等は9㎜拳銃、私たち看護師は小銃です。小銃での射撃は、射撃場で200m先の的を狙い、実弾を使用しての訓練となります。

私は訓練を始めて、最初の疑問がこの射撃でした。命を救う職業であり、みんなのために役に立ちたいはずなのに、なぜ殺傷能力のある小銃なのか? 
これに関しては「有事での後方支援時等で敵からどうしても患者や仲間を守らないといけない際、渡された銃の扱いをできていないと守れないことがあるからだ」と聞いたことがあります。今までそういう発想はなかったのですが、今は、日本国内で実弾を扱う貴重な経験が毎年できると、前向きに捉えています。

銃の扱い以外の訓練に関しては、必ず行う訓練と、その場所(駐屯地)オリジナルの訓練があります。私の経験上、特に医療班は医療系に関連するオリジナル訓練が多い感じがします。
今まで経験した訓練として、自衛隊のテント作成(自衛隊では「天幕」と言う)、戦術止血帯C-A-T(Combat Application Tourniquet)を使った1人で自分自身に行う止血方法の訓練や、自衛隊の救急車(自衛隊では救急車を意味する「アンビュランス」を略して「アンビ」とも呼ぶ)に患者を搬送する訓練、さらに実際使用する搬送用ヘリ(CH-47J)に患者を搬送する訓練などがあります。ヘリでは、実際の場面を想定しプロペラの音が大きいので、手信号などを行いました。

そのほかには、チームをつくり、味方が負傷しているであろう建物内に入り、トラップなどを注意し、そして敵を警戒しながら、チームで負傷者を救助する訓練、前線に倒れている味方を、チームで援護射撃するなどを行いながら警戒し、そして連携を取りながら警戒区域に応じて、さまざまな匍匐(ほふく)前進の種類を使い分けながら負傷している味方に担架を持って近づき、担架に負傷者をのせて危険区域から脱出する訓練などもありました。

また、実際の災害などでは、どのような流れで連絡が来るのか、どのようなことを行うのかの説明もありました。実際、2020年の熊本の水害では予備自衛官に招集がかかり、現地の避難所で活躍(看護師は健康管理、理学療法士はリハビリや下肢静脈血栓予防体操等)したと聞いています。私もそこに赴き、力になりたかったのですが、コロナ禍で県外に出ることができませんでした。次回招集が来たら、その分まで頑張ろうと思っています。

(毎日新聞2018 年10月11日/自衛隊大阪地方本部ホームページより)

 

予備自衛官の魅力

①新たな発見がある

私は、看護師になるまでさまざまなアルバイトや職業を経ていますが、学生から看護師になった方も多いと思います。「他の職種も経験したい」と思ったら、多くの場合、看護師を辞めないとできないでしょう。しかし、予備自衛官なら、看護師を辞めずに経験することができます。

また、自衛隊という組織の中に入らないと見えない世界も刺激的です。例えば、日常では聞くことのない自衛隊での用語(例えば「舎前に集合」→舎とは寝泊りしている隊舎のこと、その前で集合する。「ジャー戦」→ 下肢はジャージで上半身は迷彩服つまり戦闘服の状態のこと)も、それなりに新鮮です。さらに、自衛隊の基地などに入らないと買えないグッズや、お土産も楽しみの1つです。

訓練中は、基本的に駐屯地から外に出ることはできないのですが、そこでの自衛官と同じ食事や銭湯もいい経験です。ただし、本職の自衛官並みに訓練をしていないのに、同じ食事の量を食べてしまうと、訓練に来ているのに太って帰ることになるので気をつけています(笑)。

②仲間が増える

医療班で集まる場合は、県外からも予備自衛官が集まるので、そこでのコミュニティも魅力です。ここには、嫌々来ている人はいなく、前向きに考えて参加しているメンバーしかいません。一緒に過ごしているのが心地いいのです。このようなきっかけがないと、出会うことはないメンバーなので絆は深くなります。

予備自衛官はもともと自衛官だった人が多く、そういう方が多い駐屯地だと、さまざまな経験を聞くことができ、それも楽しいです。医療職の予備自衛官のメンバーの中には、これがきっかけで自衛官と結婚した人もいらっしゃいます。

医療班での訓練は、メンバーが同じであることも多いので、今では1年に1回の同窓会のような感じになります。自由時間は盛り上がったりするのも楽しいです。

予備自衛官には女性看護師も多い

訓練で増える看護職の仲間たち

③視野が広がる

看護師の仕事ばかりしていると、看護師の目線だけになりがちですが、ここでの経験・体験・考え方などに触れることで、自分の人生の視野が広がると思います。日本にいながら、銃に触れることもその1つですし、日本の国防についても初めて触れる内容だったりします。止血法やテント設営なども、よい経験となっています。

④お金がもらえる

前述したように、予備自衛官になると年間9万円近くの手当があります。しかし、ついついお土産やグッズ、そして新たな道具を買ってしまい過ぎることもあるので、そこは注意が必要かもしれません(笑)。

実弾訓練は貴重な機会

チームで負傷者を救う訓練

駐屯地での食事

現場での食事

 

能登半島地震であらためて思う予備自衛官の大切さ

1月に発生した能登半島地震に対して、予備自衛官等は最大100人を招集することとなりました。その内訳は、医師・看護師が10人で、他90人は常備自衛官と同様の任務に当たることができる即応予備自衛官とのことでした。 100人の募集に対して400人の応募があったとのことですが、私は全然驚かなかったのです。なぜなら、訓練を一緒に行っている衛生隊のメンバーは、志高く嫌々しているメンバーはいないからです。

今回、九州からは遠い災害現場だったため、今のところ私に声は掛かっていませんが、声が掛かったらすぐにでも駆けつけ、少しでも役に立ちたいという思いは強く持っています。

「類は友を呼ぶ」と言います。建設的で前向きな考えのグループには、前向きな考えを持つメンバーが集まり、自分も前向きになれ、人生も前向きになり、いい風が吹くというのが私の持論です。訓練で集まるメンバーも、ここでしか出会わなかったであろう、さまざまな経歴の持ち主ばかりで、それもまた私を刺激します。

皆さんも、看護師という職業だけでなく前向きに考えられる職業や団体や研修に参加してみませんか。やる後悔と、やらない後悔なら、やる後悔をしませんか。うまくいかなったとしても、いろいろな経験を積むことができると思います。

今回、私の投稿を読んで初めて予備自衛官を知った方も多いかもしれません。国がピンチのときに、自分の能力を活かして手助けできるこの制度について、もっと知っていただきたいし、もっと参加してもらいたいと思います。興味が湧いたら、まずはインターネットで「予備自衛官」を検索してみてください。さまざまな人の体験談・動画が見つかります。自衛隊の公式ホームページにも内容が詳しく記載してあります。気になるときは、それぞれの地域に地本(地方協力本部)があり、サポートしてくれます。

最後に一言。私は体格がガッチリしているので、そういう人しか予備自衛官にはなれないと思われがちですが、そんなことはありません。華奢な女性や、細身の男性もメンバー内にはいますから、そこは安心してください。
ここでしかない体験や経験、出会いもあると思いますので、ぜひ参加してみてください。私も体力が続く限り頑張っていきたいと思っています。

予備自衛官等制度の詳細はこちらから

(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2024 MAR-JUN)

日本看護連盟のコミュニティサイト アンフィニ
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