レポート
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祭りだ! 政だ! 看護祭りだ!

2024.08.06

取材 高山真由子

「神奈川県看護連盟ポリナビワークショップ」開催

2024年1月20日(土)、神奈川県川崎市にある聖マリアンナ医科大学医学部大講堂にて、神奈川県看護連盟ポリナビワークショップ「祭りだ!政だ!看護祭りだ!~語り合う!現在の看護とこれからの看護~」が現地とオンライン配信のハイブリッド形式で開催されました。

神奈川県看護連盟がこれだけの規模のイベントを開くのは13年ぶりのことで、看護と政治が密接に関わっていることを多くの看護職に知ってもらうべく、企画した青年部運営メンバーたちは仕事の合間を縫って準備を進めてきました。
3人の政治家をゲストに迎え、前半は講演・シンポジウム、後半はグループワーク・模擬選挙と盛りだくさんな内容。普段身近に感じにくい政治について、参加者(現地160人、オンライン配信37人)は具体的に考える機会を持ちました。

はじめに、1月1日に発生した能登半島地震で亡くなられた方々への黙とうを捧げ、開会の挨拶に立った青年部の長島享史さんは「講演を通じて医看護や政策を考える有意義な時間にしたい」と述べました。

 

菅義偉衆議院議員・前内閣総理大臣
講演:医療・看護への期待

菅前総理は、まず能登半島地震への被災者に哀悼の意を表し、避難所での保健活動や災害支援ナース、DMATやDPATに参加している看護職に深い感謝の意を述べました。

医療・看護の現状について「少子高齢社会の進行、人口減少が急速に進むことが大きな社会問題となっており、特に少子化の影響によりサービスの担い手の確保が課題だ」とし、「保健医療を推進していくにはさまざまな場において多職種と連携しながら地域の人々の健康を支える看護職の役割がますます重要になる」と指摘しました。

また、「タスクシフト・タスクシェアはこれまで以上に推進し、業務効率化による生産性向上・看護サービス向上をはかっていきたい。医師等の判断に基づき一定の処置ができる看護職は今後増加すると見込まれる」とも述べ、特定行為研修を修了する看護師や診療看護師(NP)などが活躍する未来を描きました。

最後に菅前総理は、看護職確保のためにキャリアアップに伴う処遇改善の必要性にも触れ、「人材確保のためにはキャリアアップにともなう処遇改善が必要。今回の診療報酬改定では看護職員については令和6年度にベア2.5%、令和7年度には2.0%を実現していく」と報告。「看護職の皆さんには、今後さらに研鑽を積んで活躍してもらいたい」と、看護職への期待を寄せて講演を終了しました。

ボリナビに参加した菅義偉前首相と小泉進次郎衆議院議員

国会議員からのビデオメッセージ

続いて、友納りお参議院議員、石田まさひろ参議院議員、河野太郎デジタル大臣がそれぞれビデオメッセージを寄せました。
友納議員は、3回の国会を経験した中での看護の動き、厚生労働委員会で実施した質問について報告しました。
石田議員は「現場の課題をすぐに解決することは難しいが、議員には皆さんの意見が届いている。今日の機会を通して政治家たちと直接やりとりをする政治の身近さを感じてほしい」と話しました。
そして、河野大臣は「急速な人口減少と高齢化を迎え、今後の医療を考えたときに最新の技術を導入することで人手不足にも対応し、医療の質を上げていくことにチャレンジすることが必要。並行して、ロボット技術を介護報酬に反映させていくことを進めており、次の診療報酬改定にも反映されることが期待される」と話しました。

政治と看護の関わりを考えたシンポジウム

次に、小泉進次郎衆議院議員、川崎修平神奈川県議会議員、岡山尭憲日本看護連盟幹事、辻本陽子さん(神奈川県看護連盟青年部)によるシンポジウムが始まりました。シンポジウムの司会を務めた青年部の安斎亨さんは冒頭の挨拶で「言葉と言葉、魂と魂をぶつけあうのがポリナビ。熱いメッセージを受け止めて明日への力に変えていきましょう!」と会場に意気込みを伝えました。

小泉進次郎 衆議院議員

「政治に無関心でいられても無関係ではいられない」
小泉議員は聖マリアンナ医科大学病院の勤務犬「モリス」と登壇し、会場は一気に和やかな空気に包まれました。

「皆さんからの何気ない一言が政治家に気づきを与えてくれて、そこから世の中が変わっていく。1つの政策で政治に関心を持ち続けることは難しいかもしれないが、政治家に関心を持つこと、つまり政治家の人生に興味を持つことで皆さんに政治を身近に感じてもらえる」と話し、「皆さんの人生の転機は何ですか?何歳のときにどんなことがあったから看護職に就いたのか思い出してください」と参加者に問いかけました。

そして、「私たち政治家も人生の転機が政治家として歩むきっかけになっている」とし、自身が中学2年生の出来事に触れ、強烈な地元愛が生まれた結果、地域に恩返しをしたいと思ったことが政治家を目指す転機となったと振り返りました。小泉議員は「1人でも関心を持てる政治家がいたら、政治や政策に関心を持てるようになるのではないか。そういう政治家でいられるよう、原点に立ち返る大切さ、向き合う心の準備と姿勢を考えていきたい」とまとめました。

川崎修平 神奈川県県議会議員・自民党神奈川県青年局長

「政治は身近なものと知ってほしい」
「身近なことから政治について考えてほしい」と話す川崎議員は、普段当たり前に目にしている信号機の設置を例に挙げ、住民の陳情から設置まで行政や警察との議論によって進んでいくことを説明しました。

また、能登半島地震で多くの災害支援ナースが派遣されている中で、法令に根拠がなくボランティア扱いで不安定な活動が余儀なくされている現状を指摘。神奈川県では県議会の働きかけにより身分が明確化され、2024年4月から運用されることを報告しました。川崎議員は「それも政治によって実現したことの1つ。このように政治が皆さんの仕事に直結していることを感じてほしい」と結びました。

岡山尭憲 日本看護連盟幹事

「日本看護連盟青年部の取り組み 各都道府県青年部に期待すること 看護の未来・これから」
岡山幹事は「看護師になりたくてなったものの、なったことを後悔する人は一定数いる」という看護界の現状を示し、「解決のために看護の団体だけで変えられることもあるが、政治の中で変えていくものもある。未来を待つのではなくどうしていきたいのか自分自身で考え、行動する時期に来ている」と投げかけました。

また、看護の現状を議員に伝えるにはスライドや動画だけでは限界があるとし、実際に夜勤などの現場を視察してもらい、現状を知ってもらう取り組みを挙げ、このような活動によって言葉で伝えられないことを理解してもらえるのではと指摘しました。その上で「看護職が増えること、給与が上がることも大切だが、現状を知った上でどのような対策が必要なのかを、皆で一緒に考えてほしい」と訴えました。

辻本陽子さん(神奈川県看護連盟青年部)

「一言で言うと看護師は何をする人だと思われますか?」
辻本さんは冒頭、小泉議員と川崎議員に質問を投げました。それに対し、小泉議員は「自分自身の入院経験や妻の出産から”伴走者”のイメージがある。医師よりも会う回数が多いので身近な存在」と返答し、一方、川崎議員は「安心を与えてくれる癒しの存在」と回答しました。

それを受けて辻本さんは「看護師の仕事は法律上『診療の補助』と『療養上の世話』とされているが、なにより24時間、医療の最前線で患者さんと向き合う唯一の存在。患者さんの心に向き合うことはとても大変なことであると同時に看護師という職業の醍醐味であり、やりがいでもある。だから皆さんは看護師を続けているのではないですか」と会場に投げかけながら、議員に現場の看護師の仕事に対して、さらなる理解を求めました。

さらに辻本さんは、政治に関心を持つ看護職が少ない現状を受けて「看護の未来を変えていくには1人ひとりの力が必要。若い世代の感心をどうやって集めていけばよいか」、また「看護師へのタスクシフトは進んでも看護師から他職種へのタスクシフトが進まない現状がある。このままでは看護本来の役割ができなくなる懸念もある」と課題を整理し、2人の議員に問いかけました。

 

小泉議員はタスクシフトについて、同様に導入が進まない「ライドシェア」を例に挙げました。当初、ライドシェアについてタクシー業界の反発を受けていた三浦市で、19時以降にタクシーが少なくなることを受けて、2024年4月から神奈川版ライドシェアが始まることが決まったことを紹介しました。さらに、小泉氏は「これから労働人口が少なくなる社会において、医師や薬剤師、行政など多職種とのコネクションをいかに持つかが大切。そして看護職の現場でやりたいことがあったら、抵抗する側に味方をつくることだ」と話しました。

岡山幹事はこれらの意見を受けて「団体主導だけでなく現場発信も大事。自分たちから、自施設・自部署を変えていこう」と参加者に呼びかけました。

シンポジウム司会の安斎さん(左)とワークショップ司会の藤本泰博さん(右)

盛り上がった会場

学びの場となったシンポジウム

未来の看護界を思い描いたグループワーク

プログラム後半は参加者も主体的に参加するグループワークで始まりました。参加者が4人のグループになり、
①次世代教育
②給与・副業
③ 魅力ある未来の現場づくり・医療DX
④働き方・キャリアアップ
の4つのテーマに分かれ、今後の看護界がどうあるべきかをディスカッションしました。

その後、4つのテーマを政党名に置き換えて、各グループの代表者4人が党首として登壇し、模擬政策提言が行われました。
どの党首も初めてとは思えない堂々とした演説を繰り広げ、参加者から多くの質問が寄せられると党首間でも質疑応答が展開し、いつしか聴衆は看護の未来を託せる党はどこかを真剣に考えていました。

そして、川崎市宮前区から借りてきたという本物の投票箱を使って参加者が市民として1つの党に投票する模擬投票を行いました。開票の結果、③のテーマである「魅力ある未来の現場づくり・医療DX党」が最多の26票を獲得し、党首である成澤知華穂さんがダルマに目を入れました。

4人の党首による模擬政策提言

後ろの席に振り返ってのグループワーク

本物の投票箱が登場

当選した成澤さんがダルマに目玉を

格差のない正当な看護職の給与表を

終わりに、神奈川県看護連盟の奥本信子会長が「青年部のエネルギーを感じた楽しい時間でした。3人のゲストの講演を聴いて政治の身近さを感じてもらえれば」と挨拶しました。

奥本会長は、54年前に自身が看護学生だった頃、「薬剤師教育は4年(当時)なのに、なぜ看護教育は3年で大学教育がないのか?」と疑問に思い、看護学生連盟に入って「看護教育を大学教育にすべきだ」と署名活動をしたことを振り返りました。そして、そのような経緯で現在では看護大学が全国に300校を超えていると看護教育の変遷について述べました。

さらに、看護師の給与について、戦後しばらくは医師と看護師の給与に大差はなかったものの、昭和26年にできた准看護師制度により中学卒業でとれる看護の資格ができたことから、看護師の給与が一般従業員相当に大きく下がったこと、また看護師は主に女性の職業だったため、男女格差も生じたとし、「格差のない正当な看護職の給与表をつくることが必要だ」と、奥本会長は訴えました。

政治を味方にすることで看護の環境を変えられる

閉会の挨拶に立った青年部代表の椿美智博さんは「人の命を助けたいと思い、救命救急を志したが、多くの方が亡くなる現実に遺族の心のケアが必要と考えた。しかし、どれだけグリーフケアに時間をさいても診療報酬を得られず、そこに人員をさけば救急の現場はまわらない」と訴えました。

ポリナビを企画した神奈川県看護連盟青年部の皆さんと奥本会長(前列左から4 番目)はじめ役員の皆さん

さらに「必要な看護を実施するための環境を整えるためには政治が必須だと学んだ。次世代の若い人たちが自分の環境に嘆くようになる前に、政治を味方にすることで看護の環境を変えられることを知ってほしい」と締めくくりました。会場にはゲストと開催に尽力した運営メンバーへの感謝の拍手が鳴り響き、ポリナビは閉会しました。

(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2024 MAR-JUN)

日本看護連盟のコミュニティサイト アンフィニ
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