2023.04.13
看護界にとってもD&Iは重要
Diversity and Inclusion(以下、D&I)の推進が、企業の社会的責任や成長戦略としての文脈の中で、近年重要視されるようになってきました。「Diversity(ダイバーシティ)」は多様性、「Inclusion(インクルージョン)」は包摂(ほうせつ)の意であり、「多様性を認め、包摂することにより、組織における多様な人材が活躍できる環境を整えていく取り組み」のことを指しています。
具体的には、女性の活躍促進をはじめ、高齢者の再雇用や外国人の採用、障がい者やLGBTへの理解促進などが挙げられます。さらには、仕事と育児・介護や治療との両立といったワークライフバランスの推進、すなわち多様な働き方を可能とする「働き方改革」の側面も合わせもった取り組みであることは踏まえておく必要があるでしょう。
そうした状況の中、企業の取り組みを後押しすることを目的に、令和3年にスタートしたのが「D&I Award 2021」です。D&I経営の総合ソリューションを提供する社会的企業、株式会社JobRainbow(本社:東京都渋谷区)が主催し、第二回目となる「D&I Award 2022」(注1)からは筆者も審査員を務めることになりました(表1)。
審査員 | 主な肩書 |
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白河 桃子 | ジャーナリスト |
古山 陽一 | 国際医療福祉大学 専任講師 |
星 賢人 | (株)JobRainbow 代表取締役 |
ライラ・カセム | (一社)シブヤフォント アートディレクター |
こうした社会の動向は、看護界においても他人事ではありません。国内労働人口の急減はもとより、社会のグローバル化やワークライフバランスを重視する労働観の変容など、今後の看護政策・マネジメントの在り方を考えるうえでD&Iの推進は欠かせない視点と言えます。そこで、本稿では令和5年2月14日に開催された「D&I Award 2022 認定表彰式」(以下、表彰式)について報告すると共に、D&I推進のために看護界が取り組むべき施策についても考えてみましょう。
D&I Award 2022を受賞した企業
プログラム | 登壇者 |
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主催者挨拶 | 星 賢人 |
受賞企業表彰 | 受賞企業16社他 |
審査員統括コメント | 古山 陽一 |
招待講演 | 秋本 可愛 |
事例報告 | 大賞受賞企業4社他 |
D&I Award 2022結果分析 | Award事務局 |
表彰式の概要は、表2のとおりです。応募総数233社(グループ連名含めて547社)に対してダイバーシティスコア(図1)などを基にした審査を行い、大企業、地方企業、中小企業、スタートアップ企業の部門毎に4社、合計16の受賞企業を選出。それぞれの中から1社に大賞を授与しました(表3)。筆者からの審査員統括コメント(写真1)とKAIGO LEADERS発起人として著名な秋本可愛氏による招待講演「働きながら介護をしている人が輝く社会の実現へ」の後、大賞企業4社による事例報告が続きます。
受賞部門 | 大賞企業 |
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大企業 | (株)ファミリーマート |
地方企業 | (株)ペンシル |
中小企業 | 平安伸銅工業(株) |
スタートアップ企業 | (株)SAKURUG |
大賞に輝いた株式会社ファミリーマートをはじめとする4社からは、いずれも受賞に相応しい施策や組織づくりの工夫などが報告されました。この内、本稿では「育児や介護を抱えながら働く意思を示している社員は非属人的業務、それ以外の社員は属人性の高い業務を担当する」という施策を打ち出している、株式会社ペンシル(本社: 福岡県福岡市)の取り組みに注目したいと思います。その理由は、業務分担制度を設けたことで、それ以前と比べて時間外労働時間の減少と共に、仕事の質や生産性の向上にも繋がったという点にあります。
また、大賞には至らなかったものの在宅介護事業を展開する株式会社more(本社:東京都世田谷区)が、スタートアップ企業部門にて入賞したことも特筆すべき点といえるでしょう。介護界は、看護界以上に人材の確保と質の向上に苦慮していると伝えられます。そうした状況の中、社会人経験者の介護職への転職採用に好意的な姿勢で取り組み、結果としてスタッフの8割が音楽家やエンジニアなどを経て介護職にJobチェンジした経歴をもっている、というのです。
特筆すべき点としては、人材確保に成功したという面のみではありません。多様な職務経験を介護へ反映させることを歓迎し、「ケアの質」の向上に繋げている点にあります。そうすることで、多様な利用者のニーズに応え、選ばれる事業所として規模を拡大させているのです。
看護界でもD&Iの推進を!
元日本看護協会政策企画室長で、日本看護連盟幹事長を経て参議院議員となった石田まさひろ氏も、人生百年時代に向け、二十歳代から八十歳代までの看護師が一つの組織でチームとして働くようになることを予測し、「これまで看護の働き方はとくに見直しもされず代々引き継がれてきたが、ドラスティックな見直しが必要になる」(注2)と説いてきました。
また、看護という職業は、伝統的に女性が就く仕事として認識されています。そのような看護の職場における「同質性」の高さは、活躍できる者の偏重を生み出し、それを維持し続ける構造は「多様性(Diversity)」を受け入れるうえで障壁となり得ることの気づきも必要でしょう。
今後は、看護の職場における一律の勤務体制や業務分担の在り方への抜本的な見直しを図ると共に、社会人や外国人、男性などといった看護におけるマイノリティを「包摂(Inclusion)」し、ケアの質を向上させていくという視点を有した政策やマネジメントの推進が必要とされるのではないでしょうか。それによって患者の看護に対するケア満足度をより一層高め、個々の看護職も幸福を感じられるような働き方を可能とする改革が求められているのです。それは図らずも、この時代に看護政策・マネジメントに携わるリーダ達の腕の見せどころになります。
看護界は一方ならぬ努力と英断によって、政策を実現するための政治力を培ってきました。日本看護協会参与で、看護師と弁護士の資格を合わせ持つ友納りお氏を国会へ送り出せたことは、看護政策の実現力を、これからさらに高めていくための布石となるでしょう。
今後は看護界もD&I推進を旗印に、超高齢人口減少という国難を超えて看護を取り巻く環境を、そして日本の将来をより良く変革させようではありませんか。今こそ、看護版D&Iモデルの発信を――。
注1)詳細は、D&I Award 2022特設サイトを参照
注2)詳細は、日本看護連盟サイト「看護連盟NEWS」(2019.06.05/講演会「人材活用・ 採用組織作りの最前線」で石田まさひろ参議院議員が特別講演を参照。
主な参考文献・資料
・経済産業省:新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム. https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/ (2023.3.27アクセス)
・厚生労働省:働き方改革特設サイト. https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/ (2023.3.27アクセス)
・KyawtKyawtWin・加藤里美(2022):ダイバーシティ&インクルージョンに関する先行研究の整理および研究課題.経営情報科学誌,16(2),p11-25.
・Shore,L.M.,Cleveland,J.N.,& Sanchez,D.(2018):Inclusive workplaces:a review and model.Human Resource Management Review,28(2),p176-189.
・任和子(2008):看護の質向上につながる組織風土づくり:ダイバーシティ・マネジメントの観点から.看護管理,18(8),p702-706.医学書院.
・古山陽一(2014):看護におけるダイバーシティ・ マネジメント 男性看護師のキャリア支援と,より働きやすい就労環境整備に向けて⑦.看護管理,24(11),p1061-1064.医学書院.
・古山陽一(2015):男性看護師の育児休業取得はどこまで進むのか:大阪市会での質疑を追い風に,今こそ看護版WLBの発信を.Nursing BUSINESS,9(2),p76.メディカ出版.
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