2020.03.26
佐藤友美さん(ラ・メゾン・ド・スークル 代表取締役 / ケーキデザイナー)
東京世田谷区で、シュガークラフトのお店「ラ・メゾン・ド・スークル」を経営する佐藤友美さん。実は、看護師・保健師の資格を持っています。バリバリの臨床経験もある佐藤さんが今のお店を出すまでのお話や、お菓子と看護の関係について伺いました。
佐藤さんは東京育ち。それが、北海道の看護大学に入学しました。
「家から離れて、雪国で一人暮らしをしたかったんです。たまたま合格したのが、看護大学でした。小さい頃からお菓子づくりをしたくて、看護の勉強をしながら、お菓子の学校にも通おうと思い描いていました。あまり看護師になる気はなかったんです。大学の先生も、必ずしも看護師にならなくてもいいよ、と言っていましたし。のびのびと勉強させていただきました。実習は辛かったですが(笑)」
結局、入学した大学の周辺にお菓子の学校はなく、看護の勉強に専念することに。大学を卒業し、佐藤さんは東京に戻り、大学病院に就職しました。
「最初は無我夢中で働きました。大学病院では、研究もあって、院内や学会で発表もしました。お菓子のことを考える余裕はありませんでした。3年目から少し余裕ができて、お菓子の教室に通うようになって、やっぱりこれやりたい、と思うようになりました」
大学病院に5年間勤めたあと、佐藤さんは、シュガークラフトを習得するためにロンドンの学校に入学します。
「勤めていた病院は5年経つと、管理職のコースか、そうでないコースかを選択するんです。私はどちらも嫌だったので(笑)、すっぱりとケーキデザイナーになる決心をしました。それで、シュガークラフトの本場であるイギリスに行って勉強しました」
佐藤さんは、ロンドンで1年間、シュガークラフトの技術を学び、資格を取得。
「もう1年ロンドンで勉強しようとも思ったのですが、お金もないし、コンテストで賞もいただいたので、あとは日本で勉強しよう、と。青山(東京都港区)のシュガークラフトの部門があるお店に、むりやり押しかけて働かせていただきました(笑)。そこで3年間、修行させていただきました」
ケーキデザイナーは、日本ではまだ耳慣れない職業ですが、アメリカなどでは、パーティの際にケーキデザイナーにオーダーするのがステータスなのだそうです。日本でも、結婚式のウエディングケーキなどで注文されるようになってきました。
「修行の身とはいえ、ケーキ屋さんのお給料は、看護師とは比べものにならないほど安いんです。お金を貯めるのにいろいろアルバイトもいっぱいやりました。保健師の資格があるので、健診の会社で仕事ができたのは幸運でした。今も、年に1〜2回お声をかけていただいて、保健師としてイベントのお手伝いをすることがあります」
佐藤さんは、平成18(2006)年に会社を設立し、独立します。
「いろいろやりたいことがあっても、雇われの身だと、できないことがあります。個人でお菓子の依頼を受けたものを、お店から送ることはできません。また、シュガークラフトは壊れやすいし、湿気にも弱い。それで、ずっと保存できるケースを考案して、特許も取りました。あ、シュガークラフトは食べられますよ。でも、日本では食べる人はあまりいません。会社起業は考えていませんでしたが、ケーキの材料に個人だと仕入れできないものがあって、会社を設立しました」
自宅で会社を起ち上げ、お菓子は通信販売し、お菓子教室も始めました。会社名は「ラ・メゾン・ド・スークル」。フランス語で、砂糖のお家という意味。ロンドン帰りなのに、なぜフランス語?
「ロンドンでは和菓子屋さんでアルバイトをしていたんですが、お隣にメゾンデュショコラという、フランスのチョコレート屋さんができたんです。フランス語ペラペラの友だちが〝チョコレートのお家〟って意味だよと教えてくれました。その時、自分のお店は、メゾン・ド・スークルにしようと決めました。砂糖と佐藤をかけています(笑)」
注文も順調に増え、お菓子教室も軌道に乗ってきて、平成20年に今のお店を開きました。
「自宅ではそろそろ無理かなと思って…。世田谷区の創業支援事業から融資を受けられるというので、思い切ってお店を借りました。開店準備で、いろいろトラブルもありましたが、なんとか開店できました。湿気が大敵なので、壁には珪藻土を使っています、それでも夏場は除湿器です」
お店は、現在週に3日だけオープンしています。それ以外では、通信販売や、イベントでお菓子教室を行ったりしています。老人ホームにお茶会やお誕生会のお菓子を届けることもあるそうです。
「低糖質のケーキもつくっているので、そういうのを届けたりしています。糖分を気にされているお客さんに勧めることもあります。こういう時、保健師や看護師の経験が生きてきます。保健師の仲間で、栄養指導をがっちりやっている人がいるので、低糖質スイーツのヒントをもらったりしています。また、老人ホームに出す場合だと、嚥下の問題もありますよね。見た目のきれいさよりも、安全第一ですから。そういった相談にのれるのも、私の強みかもしれません」
「お店が開いてない日も、けっこう忙しく働いています(笑)。お客さんから、お店でお茶ができるといいのに、と言われることがあります。カフェができるといいなと思いますが、今のお店ではそのスペースはないので、もう少し広いところに移りたいですね。あと、スタッフを入れて毎日お店を開けられるようにもしたいですね」
(写真:紀善久)
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