2022.03.08
平井美帆
集英社 定価 1980円
1932年、日本軍(関東軍)の暗躍で満洲国が建国され、ラストエンペラー溥儀が皇帝の座に就く。独立国とは名ばかりで、日本の植民地だった。日本本土から多くの開拓民が「夢の国」を目指した。開拓民の多くは貧困に喘ぐ小作農だった。現実は、現地人(満人)から土地を取り上げ、家屋から追い払い、満人を小作人に貶めたが、暮らしは楽ではなかった。
1944年8月、日本が戦争に降伏する直前「夢の国」は一転地獄となる。日ソ中立条約を破棄したソ連が、満洲に侵攻を開始。関東軍と政府役人はさっさと逃げ出し、置き去りにされた開拓民たちは「棄民」となった。満人は当然暴動を起こし、暴動を抑えるため、棄民たちはソ連軍を頼った。暴動が収まると、ソ連の下級兵士の残虐行為が始まる。なかには絶望し集団自決する集落も出た。ソ連兵を鎮めるため、未婚の娘を人身御供として差し出す集落もあった。本書が紹介する陶頼昭の集落もその一つ。
ソ連兵の犠牲となった娘たちを探し当て、長い時間をかけて関係を築き、取材した労作が本書。
犠牲者たちは日本に帰ってからも、汚れた者と見られる理不尽さ。犠牲者の一人は、この敗戦で「男を知った」と言う。性行為のことではない。「男は始めた戦争で、女は棄てられるって知った」「戦争で男は無力になっちゃう。女は男の人に食い物にされる」
戦争とは、弱いものを、容赦なく、むごたらしく犠牲にするものであると突きつける、怒りの書でもある。
(紹介:3月8日は国際女性デー)
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