2020.10.03
燃え殻
扶桑社 定価 1,500+税
昔の写真を見返すと、それが赤の他人のものであっても、不思議な感動を覚える。その人がそのとき確かに存在していたことと、
もうその瞬間は戻ってこないという事実が立体化して、自分の記憶と出会うような心地がする。
燃え殻は自分の経験と思わしき出来事を、乾いた笑い、都会的な孤独、ほのかな切なさを折り込んで、しみじみとした
味わいのある小噺に仕立て上げる。レコーダーから聞こえてくる死んだ祖母の声、新宿にあるという「森」、団地の明かりが
一斉に消える瞬間を母親と妹と見ようとした屋上、友人の風呂なしアパートのこたつでMTVを見る幸せな時間。著者の人生の
出来事のようで、よく練られたフィクションのようでもある。
どちらでもよいと思う。本書で語られる小噺は、読み手の私や、この世界の誰かのものとして、記憶の回路をじんわり
満たしてくれる。夜明けに見る夢を具現化したような、アナーキーでポップな長尾謙一郎の挿絵も素晴らしい。
(大橋礼子)
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