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環境改善のカギはまず「発信」することから

2024.03.04

文:福田 淑江(日本看護連盟常任幹事)

日本看護連盟は、会員の皆さまの抱えている課題を収集し、政策提言につなげていくことを目的に、ホームページにアンケートフォーム「現場の声」を常設しています。前号で2022年度の「現場の声」の一部を紹介しましたが、今回は2023年度4〜6月の声を、担当の福田淑江常任幹事が解説します。

日本看護連盟ホームページに常設する「現場の声」のアンケートフォーム

日本看護連盟ホームページにあるアンケートフォーム「現場の声」は、都道府県看護連盟のホームページにリンクを貼るとともに、QRコードの配信、WEBアンフィニからもアクセスできるようにして、全国の会員の皆さまからの「現場の声」を集めています。

2022年度の年間回答数は160件でしたが、広報による周知活動の結果、2023年度は毎月100件を超える回答があり、10月現在で1073件の「現場の声」が届いています。本年7月からはクラウドを活用し、都道府県看護連盟と「現場の声」をリアルタイムで共有しています。

2022年度の結果と処遇改善の前進

2022年度の「現場の声」アンケート結果では「改善を望むこと」の 第1位が「給与」(76.9%)になっています。そのような中、コロナ禍において最前線での専門職としての看護職の活動が「社会の重要なインフラ」として国民にも認識され、国による看護職の処遇改善につながりました。

具体的には「看護職員等処遇改善補助事業」、診療報酬上の「看護職員処遇改善評価料」の新設、そして「国家公務員医療職俸給表(三)」の改正という大きな成果が2022年度に実現しました。

日本看護連盟としては、このような制度改正等が看護連盟会員の働く就労環境に反映され、実際に具現化されているか否かを把握し、新たな課題を探求していかなければなりません。そこで、ホームページに常設の「現場の声」を設け、会員の皆さまからいつでも意見を提案していただくようにしています。

今回は、2023年4月から6月までの3か月間に寄せられた638件の「現場の声」を分析したので報告します。「現場の声」のアンケートの質問項目は、回答者の「属性」「改善を望むこと」「自由記述」で構成されています。

分析結果の概要

1.回答者の属性

回答者の勤務機関は「公的機関」333人(52.2 %)、「民間機関」207人(32.4%)、「その他の機関」98人(15.4%)でした。
職位は「スタッフ」が420人(65.8 %)、「主任・看護師長」が172人(27%)、「副看護部長・看護部長」が46人(7.2%)でした。
年齢層別では「20歳代」が189人(29.6%)と最も多く、次いで「40歳代」162人(25.4%)、「50 歳代」135人(21.2%)の順でした(図1)。

2.改善を望むこと(複数回答可)

「改善を望むこと」は、図2および図3に示す事項から該当する項目を回答者が選択しています。

全体の結果

①給与511人(80.1%)
②人手不足473人(74.1%)
③休暇取得227人(35.6%)
④長時間勤務197人(30.9%)
⑤看護記録・看護関係書類作成の負担179人(28.1%)

の順で(図2)、「①給与」及び「②人手不足」は、それぞれ回答者の80%以上、70%以上が改善を望むこととしてあげており、他の項目に比べて圧倒的に高い割合を占めていました。

 

これを「スタッフ」「主任・看護師長」「副看護部長・看護部長」の3つの職位に分けて分析した結果が図3です。

「スタッフ」は、①「給与」(83.3%)、②「人手不足」(71.9%)、③「休暇取得」(37.4%)の順になっていました。

「主任・看護師長」は、①「人手不足」(80.8%)、②「給与」(76.7%)、③「看護記録・看護関係書類作成の負担」(40.1%)の順。

そして「副看護部長・看護部長」は、①「人手不足」(69.6%)、②「給与」(63.0%)、③「看護記録・看護関係書類作成の負担」(43.5%)の順でした。

 

このように職位により改善を望む事項には違いが見られ、「給与」に関しては「スタッフ」が83.3%(1位)と最も高く、「主任・看護師長」が76.7%(2位)、「副看護部長・看護部長」63%(2位)という結果となりました。

これを2022年度と比較すると、「スタッフ」は75%から83.3%へ増加、「主任・看護師長」は77.6%から76.7%と横ばい、「副看護部長・看護部長」は78.6%から63%に減少していました。
「②人手不足」については、「主任・看護師長」が80.8%と最も高く(1位)、次に「スタッフ」71.9%(2位)、「副看護部長・看護部長」69.6%(1位)でした。

これも2022年度と比較すると、「主任・看護師長」は74.1%から80.8%へと増加し、日々の勤務管理を行う「主任・看護師長」が最も切実に「人手不足」の改善を望んでいることが明らかになりました。

3.自由記述

自由記述について、多くの意見が寄せられました。本稿では3つの職位ともに「改善を望むこと」として1位または2位あげていた「給与」「人手不足」に着目して、自由記述の内容をまとめました。

「給与」に関する自由記述

年齢層別で見ると、「20歳代」の回答者からは、
「物価が上がっているのに賃金が上がらず、生活が苦しい」
「命を預かるという重責のわりに給与が低い」
「同じ国家試験を受けているのに、給与は地域で差がある」
「5年一貫教育の看護師の処遇改善を求める」 などの声があがっています。

「30歳代」の回答者からは、
「退院調整看護師として専従で働いているが、何も手当がない。認定看護師のような資格はないが、入退院加算を取るための専従であり、改善を希望する」
「人の生死に関わり、患者・家族からのクレーム対応、認知症患者などの暴力・暴言の対応など多岐にわたる業務を多重に行っているにもかかわらず給与が安く、仕事に見合っていない」
「年間を通じて学生指導があり、負担に感じる。負担は大きいが対価は少ない」 など、給与面で評価されていないことに対する声があがっています。

「40歳代」の回答者からは、
「給与が上がらない」
「時給が異様なまでに安い。他の業種のアルバイト金額を下回る。生命を扱う国家資格はこの程度の給与かと残念に思う。子どもには絶対させたくない仕事である」 との声がありました。

看護師の賃金を「産業系(大卒)」労働者との賃金と比較すると、「40歳代前半で7.4万円低い」といわれています。専門職である看護師としての仕事が評価されず、他の一般職との給与差に憤りを感じる声もあがっています。

「50歳代」「60 歳代」の回答者からは、
「65歳までの定年延長だが、55歳から昇給がストップするためモチベーションが保てない」
「定年雇用されてから給与があまりにも安い」
「労働内容は同一なのに、非常勤看護職の給与は安すぎる」 など、定年後の給与に対する声があがっています。

民間企業では、人手不足が深刻になる中、シニア人材の処遇を現役並みに改善する動きが出ています(日経新聞2023年7月17日)。看護師不足に対する重要な資源である60歳以上の看護師の就業が増える中、プラチナナースの処遇の改善が課題です。
一方、「国公立の施設はある程度処遇改善がなされているが、民間の医療法人や個人の施設は遅れている。設置主体毎の処遇に差があることを知ってほしい」などの声もあがっています。

「主任・看護師長」からの回答では、
「部署管理者はサービス残業が多い。業務に見合った報酬がもらえていない」
「他業種の初任給並みの給料で、命を預かる責任の重い場にいるくらいなら、看護師以外の仕事に転職したほうが精神的にも、肉体的にも楽なのではと本気で考える」
「他の医療職に比べて低賃金である」
「多様なケアを必要とする患者が増加する中で、看護職の処遇改善をしないと安全な医療が提供できなくなると思う」
「コロナ禍で個人病院は、医療廃棄物処理費用や備品代が上昇して財源が逼迫しており、給与は上がらず、ボーナスも減る一方である」
「63歳定年であるが、61歳になった時点から仕事は同じなのに給料が20%カットされる」などがあげられていました。

「副看護部長・看護部長」からは、
「昨年度、処遇改善手当が支給されたが、コメディカルにも分けられ、看護職員は6000円ほどしかもらえていない。一部は定期的に上がる昇給に組み込まれたので、看護職員たちは不満に思っている」
「国家公務員医療職俸給表(三)が改正されても、地域格差、病院間の格差は変わらない。リハビリ職員の給与が看護師より高いのはなぜか、夜勤をしてやっと同じ給与になるなんて信じられない」などの声があがっていました。

「人手不足」に関する自由記述

「人手不足」は、「主任・看護師長」(80.8%)、「副看護部長・看護部長」(69.6%)の「改善を望むこと」の第1位にあげられています。

「主任・看護師長」の回答では、
「常に人手不足状態であり、スタッフが疲弊している」
「子育て世代の時短勤務が多く、ある時間から職場に勤務者がいなくなる。計算上人数は足りているといわれるが、夜勤も組みにくく常勤看護師の負担は大きい」
「高齢患者や認知症の患者も多く、看護職の負担は増えている」
「看護補助者を増やそうとしても外国人ばかりで言葉の壁があり、すぐ辞めていく」
「介護医療院の現状の仕事内容では看護師の定数が少ない」 などの意見が寄せられています。

「副看護部長・看護部長」の回答では、
「募集しているが応募がない」
「奨学金が終われば退職、その任期途中でも退職している」
「求職者の多くが昼間の時間帯を希望している。どのような工夫をすれば必要な時間帯の人材確保ができるのか」
「再任用者は仕事が同じであるにもかかわらず給与は減少、また再任用の期間が長くなると給与はさらに減少。仕事内容が同じであれば給与の保証が必要である。このままでは再任用の確保も難しくなる」
「グループ病院からの応援や人材派遣のナースを入れても人員確保が追い付かず、施設基準を維持するために病床数を減らした」
「時短の看護師が増え、外来看護師等の調整をしても夜勤制限時間の72時間を維持できない」 などの意見が寄せられています。

「スタッフ」は、
「人手不足で妊婦や時短勤務のスタッフがギリギリまで働き続け、時間外まで残っている。妊婦が安心して出産準備ができるように勤務を配慮してほしい」
「夜勤スタッフが足りず、休憩する時間がない」
「マンパワー不足なのに、委員会や研修など臨床現場以外の業務もあり負担が大きい」
「人手不足で患者に丁寧な対応ができず、患者に迷惑をかけてしまう」
「中堅看護師が辞めることにより、指導がゆきわたらなくなる」 などがあげられています。

なお、在宅看護分野では「訪問看護は人手不足と定着率の低さが問題である。小規模が増え、地域偏在もあり解決の道筋が見えない。悲鳴を上げている」との記載もありました。

「人手不足」については、看護の質に影響しかねない実態も見えています。人材確保において看護の重要な担い手であるプラチナナースの確保も低賃金がネックとなり、確保しにくい状況も浮かび上がっています。
看護師の人材不足が病院経営への影響も出ていることも示唆されています。人材不足をカバーするためには人材育成(教育研修)が欠かせませんが、看護管理者からの発言として「看護の質の担保や実践能力の向上のために人材育成は欠かせないが、教育を充実させようと思うと人員不足で時間内開催が難しく、時間外に開催すると参加者が少ない。人手不足と教育体制の充実に矛盾を感じる」など、看護の質を維持するための教育研修の実施が困難であることをあげています。

「現場の声」から見えてきたものと今後の対応

大切な「給与」の改善状況の見える化

回答者の「改善を望むこと」の上位に「給与」があげられており、看護職に限らず日本の労働者にとって「給与」が恒常的な課題であることが明らかです。
看護職の「給与」については、具体的にどのように改善されれば、満足と言えないまでも、現場の看護師が改善されていることを実感できるかどうかを明らかにしていくことも必要とされます。

前述したように、日本看護協会と日本看護連盟の働きかけにより、2022年に「国家公務員医療職俸給表(三)が改正されました。民間の医療施設の看護職の賃金は「国家公務員医療職俸給表(三)を参考に決定されることが多い」と言われています。

今回の改正は、①管理的立場にある看護師(看護師長・副看護師長)の処遇改善と②特に高度の知識経験に基づく困難な業務を行う看護師の位置づけの明確化と処遇改善であり、認定看護師・専門看護師・特定行為研修修了者などの有資格者だけでなく、資格がなくても熟練したジェネラリストも対象とすることが可能だとされています。しかし、今回の「現場の声」からは「国家公務員医療職俸給表(三)」の波及効果が一部の病院に限られている可能性が示唆されました。

また、看護師の業務に対する適正な対価を求める意見が寄せられています。「看護職のキャリアと連動した賃金モデル(2019)」(日本看護協会)を活用し、キャリアラダー等に基づく看護師の能力を適正に評価し賃金処遇に結びつける仕組みの導入を、看護管理者と一緒に声をあげていくことが急務です。

日本看護連盟と日本看護協会が連携して「要望」し続けていく

日本看護連盟は、令和6年度の診療報酬改定において 「看護職員処遇改善評価料」の対象を全ての看護職員に拡大することを、再度要望していく予定です。

看護補助者についても、10月3日、武見敬三厚生労働大臣に「看護補助者の確保策の推進に関する要望書」を提出し、「看護補助者の賃金増の実現」を要望しています。

2020年の看護師等の就業者数は173.4万人です。今後、高齢化の進行により看護ニーズの多様化の増大が見込まれる中、2040年に向けては生産年齢人口(15歳から64歳まで)が急減し、看護職員の確保が今以上に困難になることが予測されています。

2023年2月には、日本看護協会と日本看護連盟が「時代の変化等が考慮されていない」ということで、国に対して「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」の改定を要請しました。
そして、10月6日、約30年間改定されていなかった指針がついに改定されました。「国民への良質な看護の提供」のための極めて重要な内容が示されています。

 

「現場の声」は、積極的に投稿していただいた会員の声であり、会員の全体像を示すものではありません。しかし、多くの看護師の生の声を代表していることは間違いないと信じています。
これからも、多くの会員の皆さまに、「現場の声」に積極的に投稿していただき、「改善を望むこと」の改善に向けての情報として活用してまいります。

 

cover image by 写真AC

(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2023 NOV-2024 FEB)

日本看護連盟のコミュニティサイト アンフィニ
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