2020.09.27
明石 伸子 (日本マナー・プロトコール協会 理事・事務局長)
Q1 あいさつをしなければならないことは分かっていますが、親しくない人には自分からできません。 誰にでもあいさつができるようにするにはどうすればよいでしょうか。
A : あいさつは人間関係のスタートと言われるように、どんな状況でもきちんとできるようでありたいものです。特に、医師や先輩の看護師、 その他のスタッフといった仕事の仲間に加え、患者さんやそのご家族など、多くの人との関わりがある医療の職場では、その施設内の誰に対しても 感じよくあいさつをすることが大切です。そのポイントについて確認しましょう。
Point1 : あいさつは社会性を示すバロメーター
会社の人事部が新入社員に求める第一条件は「誰にでもきちんとあいさつができること」だそうです。このように、あいさつをすることが大切であることは
わかっていますが、実際には、家庭や職場、近隣の人たちに対して、その都度きちんとあいさつができる人はあまり多くないようです。特に、同じ会社内であっても、
顔を知っている程度の人にはあいさつをしないのかもしれません。
その理由は、以下のようなものではないでしょうか。
●あいさつをしない理由
1 さほど親しくない人には声をかけづらい
2 相手は自分の存在に気づいていないかもしれないと思うから
3 あいさつをしても相手が返してくれないと嫌な思いをするから
4 考え事などをしていて、相手に気づかなかった
5 相手は他の人と一緒だったので、遠慮してしなかった
6 急いでいたので、面倒だった
一方、あいさつをしたのに相手からあいさつを返してもらえなかった経験は誰しもあると思いますが、その時の気持ちはどのようなものでしょうか。
●あいさつをしたのに、されなかったときの気持ち
1 相手に無視されたようで、嫌な気持ちになった
2 相手に対して何か失礼なことをしたのではないかと心配になった
3 こちらがしたのに、相手が返してくれないと寂しい気持ちや不愉快になった
4 機嫌が悪かったのかと思い、相手に不信感を抱いた
5 あいさつをしなければよかったと後悔した
このように両方を比べてみると、あいさつをしなかったのは安易な理由でも、されなかったほうは深刻な気持ちになっていることがわかります。 「あいさつ」とは、人と会ったときに短い言葉を交わしたり、あるいは軽いお辞儀をするという簡単な行為だからこそ、それをしない人に対して不信感や不快感、 嫌悪感などを抱くとともに、それもできない人は「社会性のない人」「コミュニケーションのとり難い人」「協調性のない人」「感じの悪い人」というネガティブな レッテルが貼られることになるのです。
Point2 : あいさつ習慣は、まず「会釈」から
このようにあいさつを「するか」「しないか」は、人間関係に少なからず影響を与えます。そこで、職場や学校ではあいさつ習慣を身につけさせるために
「オアシス運動」が行われています。その内容についてはご存知の方も多いでしょうが、積極的なコミュニケーションをはかっていくことを目的に、
状況に合わせて以下のようなあいさつ言葉を交わし、あいさつが交わされる環境づくりを推進しようというものです。
オ おはようございます:朝、人に会ったときに積極的にあいさつをする
ア ありがとうございます:何かしてもらったときに必ず感謝の言葉を伝える
シ 失礼いたします:その場に出入りするときや、人の前を通るときなど
ス すみません:何かを依頼するときや、お詫び
このように「オアシス運動」とは、誰もが知っている簡単なあいさつ言葉の励行ですが、しかし、実際にあいさつができない人は、こうしたあいさつ言葉を交わすことができません。 そこで、まず実践してもらいたいのは、人にあったらとにかく頭を下げること、いわゆる「会釈」をすることです。「会釈」は軽いあいさつ行為なので、どのような状況でもできるはず。 廊下などで人にすれ違ったときも、声をかけるのがためらわれても、とにかく軽く頭を下げれば、相手を無視したことにはなりません。
もちろん本来は、明るく元気な声で誰とでもあいさつ言葉を交わすことが理想ですが、恥ずかしくてあいさつができないような人は、まず「会釈」をすることから始めてみましょう。 すると、相手からあいさつ言葉をかけてもらうことが多くなるはずです。言葉をかけてもらえれば、こちらも同じようにあいさつ言葉を返せばよいのです。 あいさつは、まず実践することこそ大切。そのためには、人とすれ違ったらまず会釈をする習慣を身につけましょう。
Q2 同僚のA子さんは患者さんとあいさつを交わした後も会話が弾んでいますが、私は会話に発展しません。どこが違うのでしょうか。
A :あいさつをすることが人間関係のスタートであっても、毎日、型どおりのあいさつしか交わしていなければ、それ以上の関係には発展しません。 A子さんのあいさつと、あなたのあいさつは何が違うのでしょうか。あいさつをきっかけにスムーズなコミュニケ―ションをはかるためには、 以下のようなポイントが大切です。
Point1 : アイコンタクトをとって、明るい表情で爽やかなあいさつを
あいさつは相手を認めることです。ですから、あいさつをする時はしっかり相手の目を見るようにしましょう。また、いつも穏やかで明るい人は、
相手に「あいさつをされない不安感」を抱かせません。こうした日常生活における信頼感は、忙しい医療の現場では特に大切です。天気の悪い日でも、
忙しいときでも、状況に関わらず常に変わらない態度こそ、社会人としてあるべき姿でしょう。
Point2 : コミュニケーションをとるには、あいさつ言葉に〝一言〟を続ける
「オアシス運動」のあいさつ言葉は、職場で交わされる最低限のもので、いわば「社交辞令」のあいさつです。したがって、それしか言わないのは、
それ以上の関係を求めていないととられても仕方ありません。
相手に親近感を与えるためには、誰もが交わすあいさつ言葉に加えて、過去・現在・未来において相互の関係だけに関わるプラスアルファの一言が必要なのです。 例えば「おはようございます。今朝は寒いですね」とか、「すみません、前を通りますがよろしいでしょうか」「こんにちは、今日の体調はいかがですか」というように、 状況に合わせた一言が加わると印象が変わります。
このように、相手のことを「気にかけていること」を伝える一言は、親近感を高めるとともに「おはようございます。本当に寒いですね」や「どういたしまして、ご心配 なく」「お陰様で大丈夫です」など、相手からもプラスアルファの言葉が返ってくるはずです。このようにすれば「あいさつ」を「会話」に発展させることができます。
Point3 : さらに、相手の気持ちや状態を聞いてあげましょう
人は誰でも、自分のことを気に掛けてくれ、心配してくれると嬉しいものです。特に、健康を損ねて入院や通院をしている人にとっては、その気持ちはより一層強いものでしょう。
そこで、ポイント2のような一言を「いかがですか?」「どうですか?」などのような言葉に変えてみるのもよいでしょう。このような質問は、相手がどのようにも受け取れて、
そして返事がしやすいと言われます。
具体的に尋ねられたら「体調」や「食欲」「熱」「痛み」などを付け加えるとよいでしょう。あいさつ言葉に続いて、こんな一言を続けてみると、 関係性が深まるだけでなく、相手の状況や気持ちも聞き出せます。
誰もが明るくあいさつを交わしているか、そうでないのかによって、院内の雰囲気や印象が大きく異なります。
そうした雰囲気をつくるのは一人ひとりの心がけです。
温かく、思いやりに満ちた環境は、病気やけがの治癒効果も高まるはず。医療現場には、こうした社会人としての基本こそ大切ではないでしょうか。
著者プロフィール
NPO法人日本マナー・プロトコール協会 理事長
青山学院大学卒業後、日本航空客室乗務員、会社役員秘書などを経て1996年CS(顧客満足度向上)コンサルタントとして独立。
2003年NPO法人日本マナー・プロトコール協会を設立し、文部科学省後援「マナー・プロトコール検定」の実施を通じてマナーやプロトコールの普及に力を注ぎ、講演、研修などで活躍。
その他、ゆうちょ銀行社外取締役、吉野家ホールディングス社外取締役、NHK経営委員、学習院女子大学非常勤講師など。(2020年4月現在)
「NPO法人日本マナー・プロトコール協会」
マナーを学びたい方に
協会が実施する通信教育講座「マナー・プロトール検定2級完全合格講座」は、ビジネスマナー、テーブルマナー、冠婚葬祭、季節の贈答、日本のしきたりなど、
日本人として社会人として必須のマナーやプロトコール(※)に関する知識が学べ、さらにこの講座を一定基準以上で修了した方には、文部科学省後援「マナー・プロトコール検定」の
2級が在宅で受験できます。
※プロトコールとは、本来は国家元首間の会談などの公的な国際儀礼のことを指します
「マナー・プロトコール検定完全合格講座」
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