2022.04.18
友納理緒(弁護士)
ある看護師さんからこんな質問をいただきました。皆さんも気になるところだと思いますので、今回は、病院からの退去請求を認めた名古屋高等裁判所平成20年12月2日判決をご紹介します。
急性心筋梗塞の治療を受けたCさんが「医療ミスによって損害を被った」と言って入院を続け、5年以上もの間退院してくれません。困った病院は、①医療ミスはなく損害賠償の義務は存在しないことの確認、②病院からの退去(ここに注目!)などを求めて訴えを起こしました。
『患者には病室を退去すべき義務がある』
裁判所は、まず本件の診療経過において、医師・看護師の過失は認められないとした上で、病院からの退去請求について次のとおり判断しました。
病院-C間の入院を伴う診療契約は、病院の入院患者用施設を利用して、患者の病状が、通院可能な程度にまで回復するように、治療に努めることを目的とする契約である。
患者は、入院を伴う診療契約が終了した時点で、速やかに入院患者用施設である病室から退去する義務を負う。
❶医師が、患者の病状が、通院可能な程度にまで治癒したと診断した場合に、❷同診断に基づき病院から患者に対し退院すべき旨の意思表示があったときは、❸医師の診断が医療的裁量を逸脱した不合理なものであるなどの特段の事由が認められない限り、入院に伴う診療契約は終了する。
現在、Cは1人で車で外出することができるなど、日常生活に大きな支障がなく、退院しても通院加療により病状をコントロール可能である。その上、Cを扶養すべき親族が存在することもうかがわれる。よって、病院のCに対する退院請求は信義則に反しない。
最低でもこの3つの条件はクリアしよう!
1.「患者の病状が通院治療でコントロールできる」という医師の診断がある。
2.病院が患者に「入院治療の必要性がないこと」「退院すべきであること」を告げた。
3.医師の診断が医療的裁量を逸脱した不合理なものであるなどの特段の事由がない。
この判決は、患者さんに「退去義務あり」とされる3つの条件を示しています。当然のことながら、医師の診断には合理性が求められており、例えば平均在院日数短縮のために、まだ入院の必要性がある患者を退院させるというようなことが許されるわけではありません。とはいえ逆に、患者が④などの事情を理由に入院の継続を希望しても、3条件に問題がなければ応じる必要はありません。
なお、この裁判例では、病院が患者に対し裁判を起こしていることも1つの特徴です。このように、医療ミスをちらつかせて居座る患者さんに対し、病院は何もできないわけではなく、積極的に「損害賠償債務なんて負っていない」と確認する裁判ができます。
裁判で退去義務が認められれば、それを強制する手段も一応ありますので、患者さんの居座りにお困りの場合は、ぜひこの裁判例を参考になさってみてください。
著者プロフィール
弁護士・土肥法律事務所・第二東京弁護士会所属
2003年 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業 (看護師、保健師免許取得)
2005年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了
2008年 早稲田大学大学院法務研究科修了
2011年 弁護士登録
2014年 土肥法律事務所開所 / 衆議院衆議院議員政策担当秘書として出向(~2016年12月)
2020年 公益社団法人日本看護協会参与に就任
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