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その身体抑制は大丈夫!?判例解説⑪

2022.04.04

友納理緒(弁護士)

今回のテーマは「身体抑制」です。最高裁判所は、平成22年1月26日の判決で、看護師が行った身体抑制の違法性について正面から判断を示しました。とても参考になりますので、ここでご紹介します。

こんな事例です

夜間せん妄の傾向があった女性入院患者Aさん(80歳)が、「看護師らが抑制具(ミトン)を用いて両手をベッド柵にくくりつけた行為は違法だ!」と主張して、 損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

『看護師の行為は違法ではない』
入院患者の身体抑制は、その患者の受傷防止のために、必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許される。 本件には、次の①〜⑥という事情があり、看護師らが、Aが転倒・転落により重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であり、違法ではない。

①抑制当日のAの状況

Aは、せん妄状態で、深夜頻繁にナースコールを繰り返し、車イスで詰所に行ってはオムツの交換を求め、大声を出すなどしたうえ、 興奮してベッドに起き上がろうとする行為を繰り返していた。

②Aの転倒歴

Aは、80歳で高齢。かつ、4カ月前に他病院で転倒して骨折。さらに、10日ほど前にもせん妄状態で①と同じ行動を繰り返して転倒していた。

③看護師の対応

看護師らは約4時間にもわたり、Aの求めに応じて汚れていなくてもオムツを交換し、お茶を飲ませるなどして落ち着かせようと努めたが、 興奮状態は一向に収まらなかった。

④看護師の勤務体制

当直看護師3名で27名の入院患者に対応しており、そのうち1名が長時間Aに付きっきりとなることは困難であった。

⑤投薬できず

Aには腎不全があり、薬効の強い向精神薬を服用させることができなかった。

⑥拘束時間

看護師は、Aの入眠後すぐにミトンをはずしており、拘束時間は約2時間程度。

チェックポイント1

切迫性(すぐに抑制しないと患者に危険が差し迫っていること)
根拠:①②

チェックポイント2

非代替性(他に転倒・転落の危険を防止する適切な手段がないこと)
根拠:③④⑤

チェックポイント3

一時性(必要最小限度の方法であること)
根拠:⑥

※なお、本判決が、チェックポイント3点の要素を含め本件における諸事情を総合的に考慮していることには注意をすべきです。

臨床現場のみなさんへ

本件のように、抑制が許される場合でも、患者さんのご家族が、抑制された状態を見て驚き、それが病院や医療者への不信感、ひいては後の紛争につながることはあり得ます。 患者さんやそのご家族には、事前に抑制の必要性を説明し、同意を得ておくとよいでしょう。

そして紛争解決という観点からは、医療機関は、チェックポイント3点を意識して、身体抑制を必要と判断した経緯、看護の経過などを記録に残しておくことが重要になります。 もちろん、この記録には、ICの実施や同意を得たことも書きましょう。

なお、本判決の後、「やむを得ないと認められる事情」があったのに抑制帯を使用しなかった事案で病院側に責任があると判断されたものもあります。(広島高裁岡山支部平22・12・9判決)。

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著者プロフィール

友納 理緒  とものう・りお

弁護士・土肥法律事務所・第二東京弁護士会所属
2003年 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業 (看護師、保健師免許取得)
2005年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了
2008年 早稲田大学大学院法務研究科修了
2011年 弁護士登録
2014年 土肥法律事務所開所 / 衆議院衆議院議員政策担当秘書として出向(~2016年12月)
2020年 公益社団法人日本看護協会参与に就任

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