2023.09.11
2022年、「国家公務員医療職俸給表(三)級別標準職務表」(以下:医療職俸給表(三))の改正と「看護職処遇改善評価料」の新設が実現しました。今後の展望や看護職国会議員・日本看護連盟・日本看護協会の連携の必要性などについて、石田まさひろ議員と友納理緒議員に語っていただきました。
コロナ禍を機に看護職の処遇改善が前進しました。現在、全ての看護職の処遇改善が実現するよう、日本看護協会はキャンペーンを行っています。
一方で、ロシアのウクライナ侵攻の影響による、急激な物価の高騰が生じ、それに対応した給与の引き上げが必要になるという、新たな問題が生じています。
物価は本当に右肩上がりですね。民間の企業では物価高への対応が進み、この春の春闘でも近年にない賃金の上昇を決めたところも多かったです。
昨年実現した「医療職俸給表(三)」の改正と「看護職処遇改善評価料」の新設によって、多くの病院では少しでも看護職の給料が上がるようにと努力をしています。しかし、急激な諸物価の高騰により、医療機関や介護施設等では運営に大きな打撃を受けています。運営に影響が出ている状況で、看護職だけ処遇を改善することは非常に難しく、医療機関や介護施設などの収入を増やすことが急務となっています。
実際に看護職の給料が上がっている病院もありますね。金額はそれぞれですが、ベースアップをしたところは多いです。給料がアップすると、働く看護職側の気持ちや意識が上がることはもちろんですが、ベースアップは、単に一時的な「お疲れさまでした」という話ではなく、退職金や年金まで影響するのでとても重要です。
ただ、難しいのは医療や介護の現場で働く人たちの給料の原資となる診療報酬は公定価格として全国一律で定められていること。前回決まった診療報酬や介護報酬の点数が必ずしも現状に合っているわけではないので、次回の改定に向けて対応が必要です。
そこが大きな問題なんです。
ですから、次の診療報酬や介護報酬の改定のときに、物価高に見合う分の収入アップを実現しないといけない。これまで診療報酬アップにつながる理由としては「高齢化が進んで患者さんが増えること」が1つ。そしてもう1つは医療技術の進化。たとえば昔はCTスキャンだったが、今はMRIになるなど「設備にお金がかかる」こと。
大きく分けると、この2つがあります。この10年以上、診療報酬は、高齢者数の自然増に関するものしか上がっていません。しかし、来年度の予算見積もりの中では、「物価高や人件費のアップにもしっかり対応できるように、といったことを入れるか入れないか」で大議論になりました。
この点について、政府は6月16日に、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)を閣議決定しました。
この中で「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」と記されました。
診療報酬を決めるときに、「物価高騰・賃金上昇、経営状況、人材確保の必要性」が認められたことは、とても大きいことです。
この一文が入っているか入ってないかでは、天と地ほどの差があります。入ったことはとても大きな意義があると思います。
その一文を入れるために、私たち看護職議員を含む医療系の議員は、自民党の政調全体会議で、一生懸命手を上げて、今の医療現場の厳しい状況を訴えてきました。
はい。
そして、日本看護協会、日本看護連盟、私たち看護職議員が一緒に、総理大臣に要望書を提出し、看護職の処遇改善を可能とするための必要な財政措置を求めました。いろいろな背景、ストーリーを経て、自分たちの声が届いたことはとても大きな手応えを感じました。
日本看護協会、日本看護連盟、国会議員が力を合わせた結果だと思います。
8月の末に決まる来年度予算の概算要求、そして年末の来年度予算案で診療報酬・介護報酬などの改定の大きな方向性が見えてくるわけですが、防衛費や子育ての予算も大幅にとらなければならない中で、どこまで確保できるか……。でも、絶対に確保しなければなりません。
大企業を中心に社会全体の賃金が上がっていく中で、医療・介護の現場だけが上がらなかったらどうなるのか。「看護職が給料の高い他の仕事に移る」という選択肢が出てくるかもしれない。他の職種も同じです。となれば大切な人材の流出につながります。
ただでさえ医療・介護の現場は人材不足なのに追い打ちをかけることになります。人材の流出を防ぐためにも、給料の引き上げを必ず実現させなければなりません。
先ほどの骨太の方針に、「物価高騰・賃金上昇、経営状況、人材確保の必要性」という一文が盛り込まれた理由のひとつに、「看護職が頑張っている」ことが周知されたことも大きかったと思っています。もちろん、これまでも頑張っていたのですが、コロナ禍において、看護職が最前線で厳しい状況の中で頑張ったことが社会で評価され、感謝されている空気があります。
昨年実現した「医療職俸給表(三)」の改正と「看護職処遇改善評価料」の新設では、看護職だけが上がっています。それだけ社会が「ありがたい!看護職の処遇をなんとかしたい」という流れがありました。これまでの現場の努力があったからこそ、看護職・医療職ではない議員も応援してくれましたね。
昨年の選挙のとき、私は各地で多くの先生方に応援していただいたのですが、街頭演説でも「まさに医療現場などで看護職が頑張っている。今、支援しなくてどうするんだ」といったことを訴えてくださいました。それが選挙の結果にもつながったとも思っています。前回の選挙より当選の順位が2つ上がったのです。
コロナ禍で皆さんが、ご自身の生活を犠牲にすることもありながら、真摯に患者さんと向きあってくださったから、この結果があります。そして、今こそ、看護職の環境改善に対する変革に全力で取り組まなければならないと感じています。
現場の努力は、しっかり国政の場に届いています。それは政治家たちが政策を進める上の大きな力になっています。
現場で起きていることを私たちが伺い、それを国政の場で発言する。そのようにして、政治とつながっていることを皆さんにも実感してほしいと思います。
現場とのつながりという点では、例えば、私の場合、参議院の厚生労働委員会や内閣委員会、法務委員会など、さまざまな場で質問をさせていただくのですが、エビデンスなしに質問することはできません。
昨年、外来の人員配置や産業保健師が現場でどれくらい対象者に関わっているかなどを質問した際、日本看護協会にエビデンスをご提供いただきました。
現場の皆さんには、忙しい中にご回答いただいており、ご負担もあると思いますが、それが公的な場での主張の根拠となるのでとても感謝しています。もちろん、日本看護協会だけでなく、国会に議員を送り出す日本看護連盟の存在も重要です。この協会と連盟の連携があってこそ、皆さんの声を政策という目に見えるものにできるのです。
「医療職俸給表(三)」の改正と「看護職処遇改善評価料」が新設されたきっかけは、看護連盟の調査です。
神奈川県看護連盟の青年部がコロナ禍における看護職のメンタルヘルスに関する調査を行いました。そこで、うつ病と診断されてもおかしくない人が4割、不眠症が5割、といった結果が出たのです。これを私が厚生労働委員会で発言し、さらに看護問題小委員会などで訴えた。それにより、看護職の置かれている状況が国政の場に伝わり、非常に注目が集まりました。
そして、「もちろんお金を渡して済む話ではないけど、とにかく国として早急にできることは処遇改善だ」と話がまとまり、「看護職処遇改善評価料」という看護だけ特別なことができたんです。さらに、この流れが「医療職俸給表(三)」の改正につながりました。現場の声、状況が明らかになったことが政治を動かしたんです。
こんなに国民が看護職に感謝しているのに、現状はこんなにひどかったのか!なんとかしなければ!という空気が大きな力となりました。
私が国会で質問している内容は施設訪問などで、皆さんから聞いた話がもとになっているものが多くあります。議論の中で、「あ、この制度のここの話は、この前、あそこで聞いた件だな」と気づきます。
たとえば、直近では、愛知県のある病院を訪問した際に見学させていただいたワンストップ支援センター(性犯罪の被害者の支援を行う施設)で伺った話を参考にして、法務委員会で被害者支援の重要性を訴えました。犯罪被害者支援は、国にとっても重要課題です。ワンストップ支援センターはまだ、法律上位置づけられた施設ではありませんが、それが認められれば交付金も出しやすくなります。委員会で質問すると議事録に残りますから、とても意義があると思います。
「こういう状況をどうにかしたい!」という声はとても重要です。それを少しでも良くすることが私たちの仕事なので、どんどん発信してほしいです。それと、もうひとつ「現状ではまだできていないけれど、こんな看護をしたい」とか「うちの病院はこんなチャレンジをしているので、これをもっと広げていきたい」ということなども教えてほしいです。また、自分の病院自慢、看護自慢など取り組みももっと教えてほしい。今、看護は大きな変化のときです。皆さんの前向きな声は、看護の未来、目指すべき場所のヒントになるのです。
今、石田先生と、日本看護協会が厚生労働省などに出した要望について、担当部署と協議をしています。その際、具体例があると、「こういう素晴らしい事例があるのだけれど、これを支援できないか」と役所に打診しやすいですし、役所としても、支援の方法を具体的に探しやすいと思います。
そうですね。また、「こうしたい」という思いは具体的であればあるほどいいです。漠然と「人を増やしてほしい」より、「うちの病棟のこの部門に、こういう理由であと1人増員してほしい」という話になると、いろいろな交渉がしやすくなります。
皆さんにお伝えしたいのは「自分の病院のことだから……」と遠慮しないで教えてほしいということです。
その声が、制度を変えるきっかけになるかもしれません。
皆さんの悩みは、国で解決できること、病院内で解決する問題、そして個人で解決する問題とさまざまあるのではないでしょうか。具体化することで、ご自身の心の整理にもつながると思うんです。
気軽に何でも話してほしいですね。私たちは同じ看護の仲間ですから。
現場でお話を聞くと、業務効率化など、いろいろな工夫をしている方がたくさんいるんですよ。
マスクもユニークでしたよね。最近、夜勤と日勤でユニフォームを変える施設が増えているのですが、ユニフォームでは費用がかかる。そこで、ある病院ではマスクの色を変えることにしたのです。マスクならコストがかなり抑えられるし、一目で識別できるという良いアイデアでした。こういったお話を聞くと、この取り組みを他でも応用ができないかな、と考えるヒントになるんです。
皆さんのお話は、今すぐ政策につながらないかもしれないけど、必ずどこかで生きてきますよね。
新人議員の立場からすると、当初は「国会でどれだけ看護の問題を解決できるのだろうか」と思っていたのですが、一見、看護と関係なさそうな議論の中にも、看護に関する問題が含まれることがあります。
そんなとき、「看護の現場の声を届ける国会議員がいなかったら、どうなるのだろう」と、ちょっと不安にも感じました。政治が皆さんに身近なものなんだということを知っていただけたらとてもうれしいです。
皆さんの声を、所属している看護連盟を通じてでも良いですし、直接、SNSのサイトやメールで送っていただきたいと思います。それが、私たちの活動の支えとなります。また、私たちの活動は、活動報告やSNSで発信しているので、ぜひ見てください。
(2023年6月23日対談)
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2023 AUG-2023 OCT)
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