2023.02.18
昨年10月、給料が上がった人がいました。上がらない人もいました。気が付かない人もいました。
「処遇改善」という言葉をたびたび耳にするようになりました。
なるほどと思った人もいれば、どういうことと首を傾げた人もいたでしょう。このあたりのことを、看護連盟の取材班(?)が、今回の処遇改善に取り組まれた石田まさひろ参議院議員に聞いてきました。
誰が看護職の給料を決めているの? 診療報酬の「看護職員処遇改善評価料」ってどんな意味がある?
伊藤:診療報酬に「看護職員処遇改善評価料」が、10月から新設されました。これによって、看護職の給料が上がりました。でも、すべての病院がこの「評価料」を申請できるわけではないと聞きました。真面目に仕事をしている看護職、みんなの給料を上げられないのでしょうか。
石田:上げたいと思いますし、上がるべきだと思います。そのために給料は誰が上げるのか、ということを考えなければなりません。
基本は、雇う側の病院と雇われる側の看護職が交渉して給料を決めます。労働組合が代表で交渉する場合もあるし、個人でする場合もあります。つまり、給料は、自身で決めるものなのです。そこをよく理解し、日頃の仕事に取り組むことが大事です。
逆に、誰かが上げてくれるだろうと待っているだけでは給料は上がりません。
伊藤:「処遇改善評価料」となっていますが、一時金が出るだけで、ベースの給料はそのまま、という声も聞きます。このあたりは、病院によって違うのでしょうか。また「看護職員処遇改善」と「看護職員等」ではないのに、他のコメディカルにも支給が可能と聞きました。なぜでしょうか。
石田:そもそも岸田政権は、看護職だけではなく、すべての働く人の賃金を3%上げたかったのです。でも、給料は国では決められません。ですから、国が影響を与えられる公的価格の仕事である医療や介護、保育の分野で賃金アップを誘導することによって、あらゆる仕事の給料が上がることを期待しているわけです。
病院としては、コロナ禍で赤字で大変だ、給料アップなどの余裕はないと思っているかもしれません。しかし、国の調査によると、確かに患者は減って医業収入は下がっていますが、補助金が入っているので、ほとんどの病院の収支はよくなっています。今が給料を上げるチャンスなのです。
他の職種の給料も上げたほうが、看護職の給料も上がりやすい?
岡山:看護以外のコメディカルもいるなかで、なぜ看護・介護・保育の給料が対象になったのでしょう?
石田:コロナ禍では、看護職がすごく頑張りました。周りからの感謝の声もたくさんありました。だから、給料が上がることに国民も共感しやすい。医師ももちろん頑張りましたが、もともと給料が高いので、これ以上、上げるレベルではありません。 一方、他の職種も頑張りました。だから、病院の判断で他職種も対象にできるようにしたわけです。
岡山:「看護職員処遇改善」を初めて目にした時、「看護」だけにつくんだ、と驚いた方もいると思います。インパクトがありました。
石田:そうですね。このコロナ禍で看護職が頑張っていたのは事実ですし、私自身、看護の代表の議員として看護が明記されているのはいいことだと思っています。ただ、先ほどお話ししたように、自分たちで給料を増やすために交渉することを考えると、看護職だけ給料を上げて、他はそのままでいいという状況より、むしろ他の職種の人も力を合わせて交渉したほうが強力です。結果的に看護職も給料が上がりやすくなるわけですから。
岡山:自分の給料は自分で上げる、しかも皆で一緒に声を上げるという考え方は、これまでほとんど持っていなかったかもしれません。
石田:看護部長くらいの立場の人とお話ししていると、看護職員以外からも声を上げてほしい、皆で声を上げたほうが結果的には看護職もよくなるから、とおっしゃいます。実際に交渉する立場であれば、そういう視点に立てるのでしょうね。
伊藤:看護部長はスタッフからの給与の不満を受け止める人くらいにしか考えていませんでした。職員皆で給料を上げていこう、という視点を持つことが必要なんですね。
石田:たとえば、ある病院では、10月分の給与明細と一緒に、看護部長からの手紙が看護職全員に配布されたそうです。給料が増えたのは、こういう理由で、看護連盟や看護協会が頑張って勝ち取った1万2000円です、と。このような働きかけは、とても大切です。
なぜ看護職の給料は「寝たきり」なの?いつか目覚めさせる王子様がやって来る?
岡山:看護職の給料は、長く勤めてもほとんど変わらない「寝たきり」給料と、よく言われます。一方で、医療は年々進化していて、看護職も、新しい知識・技術を身に付けていかなければ業務に支障が生じます。そういう努力・経験が評価されないのは、なぜなのでしょうか。
石田:「寝たきり」給料と努力の評価は、分けて考えた方がいいと思います。まず「寝たきり」給料ですが、20代のスタッフと50代のスタッフが、交代勤務によって外見上同じ勤務体制で同じレベルの看護をしているように見えてしまっています。だから「寝たきり」を変えるには、20代の看護と50代の看護は違うと、しっかり言える働き方をしなければいけません。
岡山:管理能力や、専門性などに対する評価をもっときちんとする、ということですね。
石田:さらに、看護職の給料が低い原因として、役職者が少ないことがあげられます。例えば、看護では、30人スタッフがいても師長は1人です。他の職種では5人ぐらいで役職者がいます。
伊藤:確かに現場の感覚からも、役職者の数は少ないと思います。管理的立場の人が仕事を抱えすぎて、結果として仕事が回らない。でも、管理的な仕事を分担できるスタッフがいない。そういう姿を見ているので、管理職になりたがらない人も多いと思います。
石田:今回私たちが提案した国家公務員の医療職俸給表(三)の変更は、まさにその点を意識しました。
国家公務員のみが対象とはいえ、医療職俸給表(三)を参考にして、多くの病院が給与表を作っているため、ここから民間病院にも影響を与えられるという考えです。
この改正を受けて、12月9日には厚生労働省が通知文を発出し、各医療関係団体や病院設置者に、より多くの看護現場で、看護の専門性と役割の重要性に見合った賃金体系の導入と処遇改善を求めました。
看護連盟の働きかけが医療職俸給表を動かした!
岡山:11月に国家公務員の看護職向けの俸給表である医療職俸給表(三)が改正されたというニュースがありました。大半の看護職は国家公務員ではないので関係ないと思ってしまいますが、日本看護協会は評価しているようです。でも、国家公務員看護職は看護職全体の0.1%くらいしかいないのに、なにか影響はあるのでしょうか。また、圧倒的に人数が多い役職のない一般の看護職の給料は変わらないように見えます。
石田:今回の改正は、役職者にあたる人を増やし、給料を上げるために、昇級の基準を変えるのが狙いです。これまで3級だった師長クラスの人を副部長クラスの4級に上げました。その結果、師長クラスの3級が空きましたので、ここに今まで一般スタッフのままだった人を昇級させることができます。3級相当となる基準は「特に高度の知識経験に基づき困難な業務を処理する看護師」となっていますが、私のイメージでは、日勤帯、夜勤帯において、病棟リーダーを務める力のあるスタッフも該当すると考えてほしい。
岡山:ただ「特に高度の経験知識に基づき困難な業務を処理する看護師」を判断し、線引きをするのは病院側ですよね。そこをしっかり病院が判断してくれないと、何も変わりません。
石田:先ずは、最初に申し上げたように、自分たちの給料は自分たちで獲得していく努力や交渉が必要です。
伊藤:認定看護師や専門看護師の資格をもとに、昇格を考えるという可能性はなかったのでしょうか。
石田:認定看護師や専門看護師の資格があれば3級、という意見もありました。それでは余りにも対象者が狭くなってしまいます。専門や認定は、別の手当で考える必要があるでしょう。
岡山:俸給表を変えるのは、とても難しいと聞いたことがあります。
石田:国家公務員の俸給表を変えるのは人事院の仕事で、私たちは人事院が動きやすくすることしかできません。今回はそれがうまくできましたが、おそらく医療職俸給表(三)を本格的に変えたのは、31年ぶりです。本来は、民間の給与実態に合わせて公務員の給与を変えるのが人事院の仕事なのですが、それと逆の動きを起こしたわけですから、簡単か難しいかというよりも、あり得ないことです。
実は、2021年からの公的価格評価検討委員会(看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やすため、公的価格の在り方を検討する委員会)の中で、看護師の処遇改善に関して、単なる処遇改善だけではなく、キャリアアップに伴う処遇改善についての提言がありました。この提言を受けて、人事院も動かなければいけなくなったのです。
こうした一連の流れで改正が実現しましたが、もちろん看護連盟の働きがあってのことです。ここは、会員のみなさんが強調すべきところです。
看護職の給料は、看護職自身で決めていく
岡山:診療報酬に処遇改善評価料が入ったのは、看護職として嬉しいことです。その反面、生産人口が減るなかで、社会保障に関わる費用が膨らんでいくことに看護職の給料増加も加担しているかと思うと、複雑な気持ちにもなります。
石田:それを気にするのは、私の仕事です。現場では、責任の重さと自分に見合った給料の主張をしてください。実は、看護師は待遇を国に頼ってばかりで専門職として恥ずかしくないのか、自分たちでなんとかしようという気がないのか、と批判されたことがあります。みんながそうだとは思いませんが、今後も私は環境を整えていきますので、看護師自身が自分たちの給料は自分で決めるという考えのもと、動いてほしいと思います。
努力、経験、知識、資格だけではなく「成果」が問われる時代に
石田:先ほど、分けて考えましょうとお話しした「努力の評価」についてですが、これからは経験や知識、資格だけではなく「成果に対する評価」が求められるように変わっていくと思います。今は交代勤務で、皆が同じような仕事をしています。本来であれば、それぞれに得意分野があって、それぞれ違う仕事をし、その中で評価されて給料も決まるべきだと思います。チームとよく言われますが、多様性を生かすのがチームであって、皆が同じ仕事をすることではないでしょう。皆がピッチャーの野球チームはありませんよね。それぞれのポジションが力を合わせて、はじめてチームです。
岡山:患者像も複雑化する中で、それぞれが質のいい看護を提供したという評価は難しいように思います。
石田:管理職が平等な勤務表を作るのに一所懸命になっている現状だと、難しいですよね。でも、患者さんにしてみれば、上手な人に採血してもらいたい。退院計画や退院指導だって、退院後の姿がイメージできる、ベテランや専門的な人が担ったほうがいいはずです。
岡山:私も昨年、祖父を看取るのに介護休暇を取って、初めて医療保険や介護保険について具体的に勉強しました。病棟でも退院支援に関わってきましたが、正直どこまでやれていたのだろうと改めて思いました。
石田:そういったプライベートの経験を自分の職業の経験として評価するのも、一つの考え方かもしれません。子育ての経験が看護職の経験として役立つと考えれば、休暇の期間も経験として評価の対象にできるかもしれません。いろいろなやり方があると思います。ここでもやはり、看護職の給料は、看護職自身で決めていく自分の仕事を自分で評価して給料を決めていく、という視点が大事になってくるでしょう。
伊藤:若い人にも、こういった動きを伝えていかなければ、と思いました。何より、自分たちで変えていく、という意識改革が大切ですね。
岡山:待っているだけでは何も変わらないし、何も発信しないままでは誰も取り上げようとは思わないでしょう。何かしらの戦略的な動きを持つことが必要だと思いました。本日はありがとうございました。
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2023 FEB-JUL)
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