インタビュー
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あなたは 「今日もいい看護ができた」 と思えますか

2020.09.10

田主丸中央病院は福岡県久留米市にある343床の地域支援病院です。看護スタッフの教育に熱心な病院として知られていますが、 一方で、入院患者の高齢化、人材不足など、地方都市の病院が抱える問題にも直面しています。2019年、桑原広報委員の司会で、 田主丸中央病院の看護スタッフと、この座談会をコーディネートしてくださった福嶺副看護部長と大熊看護師長に入っていただき、 現場の生の声を発信していただきました。

取材 桑原健次 (日本看護連盟広報委員)

いま十分なケアができないのは?

桑原

看護の現場には、いろいろな問題があって、看護師はさまざまな悩みを抱えています。 いま何が一番大変なのかと言えば、 今後、高齢者が増えていく一方で、 現場では若手看護師がどんどん減っていくことではないかと思います。 お集まりいただいた皆さんは、 いろいろな工夫をされて頑張っていると思いますが、 自分たちだけではどうにもならないこともあるかと思います。 今回は皆さんのリアルな声を 聴きたいと思います。まずは、自己紹介をお願いします。

與賀田

急性期病棟で、主に循環器・呼吸器・脳外科の3科をメインに看ています。重症度の高い患者さんが多く、 また認知症の患者さんも多くいます。

諌山

外科と整形外科、一般内科の患者さんを受け入れる病棟におります。高齢の方が多く、認知症の患者さんも少なくないです。

木下

地域包括ケア病棟(以下、地域包括)におります。急性期を脱した患者さんで、施設や自宅への退院を 目指したケアを担当しています。

桑原

ありがとうございます。では、皆さんは、日ごろ十分な看護やケアができていると思っていますか。 できていないとすると、何が問題だと思いますか。

與賀田

急性期は治療に関わる業務が最優先になりますから、ケアの時間が限られます。保清(清拭)は、 全スタッフで朝一斉に回るのですが、十分に行き届かない時もあります。記録の後、時間があればするといった場合もあります。 予定入院のほかに追加入院もけっこうあって、日勤帯だけで予定入院の他に3、4人追加で入院してきます。入院患者を優先すると、 ケアの時間が十分にとれない…。

福嶺

最近、尊厳や本人らしさが大切だと言われるようになりましたが、現場では、目の前の業務と、 大切だと考える看護の あいだの葛藤は、やはりあります。これからは、もっと看護の側から発言する必要があると思います。

諌山

これまでの看護師は、仕事の範囲が広すぎたと思います。業務分担が明確でない部分は、結局看護師が担ってきました。 そのため、看護師らしい仕事ができないでいました。徐々に看護助手や他職種に任せられるようになってきましたが、 まだまだという感じがします。

日勤と夜勤忙しいのはどっち?

大熊

地域包括では、患者さんは急性期を脱した状態にありますが、十分なケアができていますか。

木下

地域包括では、自宅や施設に戻るための調整を、いろいろ行っています。
急性期を脱したとはいえ、 医療行為を必要とする患者さんも少なくありません。 例えば、夜間吸引は施設では対応できないので、 可能な時間帯に吸引できるように 調整していきます。食事介助でも、看護師による介助が必要な方がいます。 施設に戻って、 看護師が介助できるのかどうかも調整する 必要があります。入院期間は2か月間という縛りがあり、しかも13対1看護でスタッフが少ないので、 つねに時間に追われています。

桑原

地域包括では、ほとんどが高齢者の患者さんですから、認知症の方もいるでしょうし、 身体機能の状態も様々だと思いますが。

木下

離床できる方は、食事の際、必ずいすに移ってもらっています。食後は歯磨きをし、日中は覚醒を促すことで、 昼夜逆転の予防をしています。看護記録の作成は、患者さんには傍らにいてもらい、見守りながら行っています。

與賀田

急性期病棟では、日勤帯の看護師の数は確保されているので、認知症の患者さんの思いに寄り添ったケアができると思います。
しかし、夜勤帯では、せん妄とか徘徊、ライン類の自己抜去などに2~3人で対応している間に、ナースコールが鳴り、排泄介助にも 行かなければならないといった状況になります。絶対に抜管されてはいけない場合には、医師の指示で抑制することもあります。 そうでない場合は、看護師が再度入れ直せばよいと考え、抑制をしなくなりました。いろいろ工夫して対応していますが、不十分で、問題があると感じています。

福嶺

点滴の時は絶対に動かさないという時代もありましたが、今は抜けたら医師に相談するか入れ直すかを 看護師が判断するようになりました。 看護師の業務制限が、患者さんの生活制限に影響していると思います。

記録は大切だけど記録に追われると…

桑原

地域包括では、患者さんが昼夜逆転しないように工夫されているというお話がありましたが、日勤と夜勤の連携はどうされていますか。

木下

認知症の方では、今までの生活パターンが入院中にも出てくることがあります。
例えば、畑仕事からお昼を食べるためにお家に帰ってきて、 食事して昼寝をしてから、また畑仕事に出ていくという生活パターンが入院中によみがえってしまう方とか。最近では、患者さん一人ひとりの生活パターンを理解し、 記録として残し、夜勤の看護師と情報共有を行っています。特に認知症の方は、そのつど症状が違いますので、ちょっとした日常生活の行動パターンを記録に残すことで、 その方の理解が得やすくなるかなと思います。

大熊

少しの変化でも記録されて伝えられるのは、いいことですね。

木下

日中だけでなく夜間の情報も共有できると、その患者さんへのケアが行き届くと思います。しかし、記録に追われ、 業務が中断するとかえって時間がかかるので、もう少し記録が簡素化できるとよいのですが。

患者さんの生活パターンからケアのタイミングを予測する

桑原

たとえば、排泄の介助も他の業務に影響を及ぼすのではないかと思います。食事は1日3回、時間もほぼ決まっていますが、 排泄は人それぞれ回数もタイミングも異なります。患者さんによっては排泄介助もけっこうな業務量になると思いますが、他の業務に影響していませんか。

木下

転倒リスクや排泄回数などは、転入前に情報を得るようにしています。患者さんがベッドから起き上がり、ソワソワしだすと、 排泄について声をかけるようにしています。業務に追われて気づかない時もあるので、周囲のスタッフと情報共有しています。 また、ある程度予測して動くことが必要だと思います。例えば、夜のトイレは、患者さんごとに、何時、何時と記録しておくと、 その方の排泄パターンが得られます。このためには、やはり記録かなと思います。

大事なケアだけれど、他の業務に影響が出ることも

大熊

数名の患者さんがナースステーションで過ごされているのを目にすることがあります。排泄介助などは、患者さんがナースステーションで 過ごされていると、様子もわかりやすく声かけしやすくなります。患者さんがずっと部屋の中で過ごすよりは効果的なのかもしれません。 それから、昼夜逆転し、夜中に大声を出したり徘徊する患者さんが、4人部屋にいると大変ですよね。そのあたりはいかがでしょうか。

木下

そういう場合は、部屋の調整が必要かと思います。

福嶺

夜眠れない患者さんは、排泄が一番気になるのかなと思います。生活の中で、生理的欲求の一番大事なところが 対応できないと不安の要素となり、眠れなくなったり、ケアする人たちに対する苛立ちになったりします。入院を強いられると認知症も進んできますが、 患者さんの思いにすぐ対応できるかどうかが一番の課題です。

桑原

排泄介助をする際、患者さんを車椅子に移乗させて連れていったり、歩行できる方なら転倒しないように付き添っていきます。 排泄中は待っていることになるので、その間の業務は中断されます。そこに、ナースコールが鳴り、点滴のアラームが鳴り、 また配薬に行かなければいけない…。

諌山

プラレールを走る列車の風船割りゲームみたいなものです。
1周回ってきた列車が風船を割らないようにカバーする。 その間のインターバルで他の業務をしなければなりません。特に排泄の際は、その間待っていないといけないですよね。他のことに気をとられていると、 その間に転倒してしまうことがあります。夜間では、その危険性が大きくなります。

必要な看護記録とそうでもない看護記録

桑原

木下さんから、記録を残すことによって、患者さんの生活パターンを読み取ることができ、ケアに役立てているというお話がありました。 一方では、現状は記録に費やす時間がとても多く、本体の看護にしわ寄せが来ているように思うことがあります。例えば、看護診断や看護必要度の記載。 記録作成のために残業していることも少くありません。

諌山

たしかに記録は多いと感じます。ただ必要なものもあるので、どこまで簡素化ができるかが問題です。

桑原

看護記録を整理すれば、もっと患者さんのケアに時間が割けると思います。ナースステーションを見ると、みんな一斉に パソコンに向かって記録している。そんな光景を目にします。記録に費やす時間を減らし、ベッドサイドにいく時間をもっと作れたらよいなと思います。

「今日もいい看護ができた」と思えるようにするには

桑原

最後に、皆さんのところでは、スタッフは足りていると思いますか。

與賀田

全然足りていません。

木下

先ほども申したように、地域包括は13対1の看護基準ですが、一人の患者さんに関わる医療行為が増えています。

福嶺

入院される高齢者も変わってきました。昔のようにすべてお任せしますという高齢者ではなくて、自分の生活スタイルは 維持したいと求める側のニーズも大きくなっています。患者さんはいろいろな要望を持っていますが、それに応えたいけれど応えきれない現状があります。

桑原

石田まさひろ参議院議員が言っている「今日もいい看護ができた」と思える環境にするには、どうすればいいでしょうか。 皆さんも、患者さんのためにいろいろ工夫されていますが、それだけでは限界があります。記録や業務を整理して、もっと患者さんのケアができるようにするには、 やはり法律を改正し制度を変えなければならないと思います。そのためには、しっかりと現場の問題を看護職の国会議員に届けて、 政策にしてもらう必要があると思います。

諌山

今、看護師は一人でいろいろなことをやっています。検査にお連れする、オムツを替える、食事介助をする、点滴の準備や内服薬を準備し、 医師からの指示を受けて処置をするなど、当たり前のようにやっていますが、どこかおかしいと思います。これらを分業にして人材を配置することで、 本来の看護業務が可能になると思います。そうすれば、働き方改革も現実味のあるものになるのではないかと思います。

桑原

ありがとうございました。

(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2019年新春号)

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