インタビュー
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期待される「協会」と「連盟」の連携

2026.01.07

日本看護協会・日本看護連盟 両会長 対談

2025年6月、日本看護協会新会長に秋山智弥氏が就任しました。現場と政治の両方を知る髙原静子日本看護連盟会長との強力なタッグが期待されます。「Special TALK」では、秋山会長の「人となり」を髙原会長がうかがい、その後、「日本看護協会の取り組み」 や「協会と連盟の連携」の具体案を話し合いました。
喫緊の課題である看護職員の処遇改善から「看護の将来ビジョン2040」実現に向けた政治の役割まで、日本看護協会と日本看護連盟の未来を創る連携の形が明らかになります。

看護師への道につながった石田まさひろ先輩との出会い

髙原:今年6月のご就任から4カ月経過されましたね。
日本看護連盟会員の皆さんには、初お目見えとなりますので、まず、秋山会長のこれまでの歩みをお話しいただけますか?

秋山:全部をお話しすると、丸1日かかってしまいます(笑)。まず、私がなぜ看護師になったかというと、実は大学に入るまでその選択肢はありませんでした。なにより看護師に男性がいること自体知らなかったのです。ただ、医療にはとても関心がありました。小さいころは身体が弱くて、かかりつけ医の先生にかなりお世話になりました。お会いするだけで元気になるような、とてもいい先生でした。

その影響でまず医師を目指したのですが、当時、AIDSの蔓延や移植医療を巡る脳死の問題など、医療には医師だけでは解決し得ない社会的な問題がたくさんあると思ったことや、医科学が発達するにつれて、より多くの治療法を知っていることや手術経験をより多く積んでいることが優れた医師の条件になってくると、相対的に患者さんに向き合う時間が少なくなっていくのではないか、と思うようになりました。

そんなとき、東京大学医学部に保健学科があることを知り、進学しました。進学して間もなく、後輩を集めるための講演会を企画したのですが、当時の保健学科には9教室あり、各教室からリレー講演に来ていただいたうちのひとりが石田まさひろさん(現・参議院議員)でした。石田さんとの出会いで、男性看護師の存在を知り、さらにナイチンゲールやヘンダーソンの理論を紐解いていくうちに「自分のやりたいことは、医学よりも、むしろ看護学なのではないか」と気づき始めました。

髙原:石田議員も東京大学保健学科のご卒業ですね。何年上になるのですか?

秋山:2年上になります。
当時はバブル崩壊直後でしたので、まだ就職もいろいろなところからお誘いがありました。好待遇の就職先がいくつもある中で、私が看護師になることに対し、父は猛反対でしたが、自分の中では 「看護はやりがいのある尊い仕事だ」 と感じていたので、父の反対を押し切って東大病院の看護師になりました。そのときも石田さんの存在はとても大きかったですね。

臨床、高齢者施設、教育機関…
さまざまな場での看護を経験して

髙原:社会に出られてからも、さまざまな領域の看護でお仕事をされてきましたよね。

秋山:そうですね。スタートは東大病院の整形外科病棟で、4年間務めました。大学病院の整形外科ですので、一般病院とは異なり、骨肉腫など腫瘍の患者さんが多くいました。10代~ 20代の若い患者さんが多かったです。病棟では初めての男性看護師でしたので受け入れてもらえるかなと不安もありましたが、思春期の男の子たちは、女性の看護師さんに相談するのが恥ずかしいこともあって、よく頼りにされました。

一方で、そうした子どもたちの最期を看取ることも多くあり、バーンアウトした結果、退職して大学院に進学しました。
退職後1カ月もすると臨床が恋しくなり、新設の老人保健施設で夜勤専従として働くようになりました。16時間働いて大学院で昼寝(笑)するような生活を2年送りましたが、老健はとてもいい経験ができました。

1998年に修士課程修了後、新潟県立看護短大の助教授として4年間、教育に従事しました。看護大学の教員は医学部の教員のように教育・研究と臨床とをかけもつことが難しく、実習病棟の看護の質に口をはさむことができないジレンマをよく感じました。大学で教えた看護が実習先の現場で実践できていないことがよくあり、「教育は教育、臨床は臨床」みたいな乖離がありました。「教育も研究もやはり臨床の現場で行っていくことが大切で、臨床が変わっていかなければいけない」ことを痛感しました。

「研究を通して看護実践を開発・評価し、確立された実践がそのまま教科書になっていくというサイクルを臨床の場で創らなければならない」という強い思いから、2002年に京大病院の救急部・集中治療部の1スタッフナースとして臨床実践をリスタートしました。

髙原:私が初めて秋山さんにお会いしたのは、京大病院の看護部長のときの看護管理学会でしたよね。積極的に発表されていたので注目していました。

秋山:京大病院では、スタッフを2年、師長を3年、副部長を4年経験して、2011年から病院長補佐・看護部長を6年務めました。2002年当時の京大病院は 本当に看護師の数が少なく、そういう中で国内の半分以上の肝移植が行われていました。「高度な医療を安全に行うためには、やはり重症度や看護の必要度に見合う看護師の数を確保していかなければならない」という思いから、看護必要度の研究にも着手するようになりました。

日本看護協会とのご縁は、京大病院の看護部長をしていた2014年に 「看護の将来ビジョン2015」 を策定する有識者懇談会が最初だったと思います。そして2017年、京大病院を退職し、岩手医科大学看護学部新設に特任教授として就任するタイミングで、当時の福井トシ子会長から依頼があり、日本看護協会副会長の職もお引き受けしました。

その後、岩手医大の看護学部が無事に完成年度を迎え、2021年には名大病院からのオファーを受けて名古屋へ移りました。2023年には副会長の職も6年の任期満了を迎え、今年6月、日本看護協会会長に就任いたしました。

髙原:秋山会長は、臨床を経験して、学校で教育に従事し、また臨床を経験して教育に、と繰り返されていますね。とても大切なことだと思います。

 

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日本看護連盟 会長

髙原 静子 Seiko TAKAHARA

1975年東京都立松沢看護専門学校卒業
同年、東邦大学医学部付属大橋病院入職
1991年東邦大学医学部付属佐倉病院に転勤
1997年同病院看護部長
2001年日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院看護部長
2011年認定看護管理者取得
2017年東京都看護連盟会長
2023年2月より現職

 

「看護の将来ビジョン2040」 に示された「3つの目標」の実現を目指して

髙原:では、日本看護協会会長となられて、どのようなことに取り組まれたいですか?

秋山:そうですね。2015年までは、1995年に作成された 「看護業務基準」 *1に書かれていることを、看護師が実践できることがゴールだと思って、臨床や教育の現場で取り組んできました。

そして2015年の「看護の将来ビジョン(旧ビジョン)」、さらに「看護の将来ビジョン2040(新ビジョン)」*2が出され、看護業務基準に示されてきた質の高い看護実践が、より現実味を帯びてはっきりと見えてきたように思います。

新ビジョンが掲げる「3つの挑戦」の原点は1995年の看護業務基準に記された「3つの実践の責務」にあると言っても過言ではないと思います。私は旧ビジョンにも関わり、新ビジョンが会長に就任するタイミングで公表されましたから、まずその実現に向けて頑張りたいと思っています。

髙原:「看護の将来ビジョン2040」 を私も拝見しました。読みながら思ったのは、あまりに今の看護界には課題が多いな、ということです。ビジョンの中でもさまざまな課題が指摘されて、その変革を目指されています。そして3章になる「看護職が活躍する基盤となるもの」の項において、自己研鑽、キャリア形成、多様で柔軟な働き方への転換など、まず取り組んでいくことが挙げられていると思います。
この中で真っ先に進めるのは何になりますか?

秋山:新ビジョンは 「2040年にどうあるべきか」 を描き、そのための戦略が描かれているわけですが、いくらあるべき姿や戦略を描いても、そこに 「看護職がいなければ」 実現しません。

ですから、今、特に大切なのは、今働いている看護職がやりがいを持って働き続けられることです。それが3章で最初に書かれている「看護職一人ひとりのウェルビーイングの重視」なんです。喫緊の課題は、今いるナースたちがどれだけいきいきと働けるかを示すことだと思います。

髙原:そうすると、やはり「処遇」になりますよね。高市早苗さんが総理大臣になられましたが、総裁選前に候補者の皆さんや推薦者の皆さんとお話しする機会がありました。どなたも医療の危機や看護職の処遇改善については口にされていました。それはそうでしょうね。看護は国民の命や健康に関わる仕事ですから、処遇改善に取り組んでいただくことは当然です。ただ、それがどのレベルまで進めてくれるかです。

秋山: 「処遇が確実によくなったな」と実感を持てるぐらいの改善が必要ですね。それがたとえすぐにではなくても、手の届くくらいのところにあり、「今、頑張れば実現するんだ」という気持ちになるくらいでなければならないと思っています。そうしなければ、看護師はいなくなってしまいます。

髙原:国もそんなに財源があるわけではないでしょうから、極端に賃金を上げろとは言えませんが、国民の最低レベルの健康すら脅かされそうな今、健康を支える看護職の処遇改善、看護職が気持ちよく働けるように形にしていかなければなりません。
そこにおいては人材の確保も重要ですが、この人口減少時代において増員は期待できません。そうすると看護DXやITの活用も考えていかなければならないでしょうね。

秋山:国も医療分野におけるデジタル化を重要な施策として位置づけていて、その施策の1つとして「電子カルテの標準化」があります。国によって 「標準カルテ」 がつくられれば、医療機関のシステムにかけるコストが減るので、それを処遇に回すこともできるはずです。

 

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日本看護協会 会長

秋山 智弥 Tomoya AKIYAMA

1992年東京大学医学部保健学科卒業
同大病院整形外科病棟後、新潟県立看護短期大学助教授
2002年京都大学医学部附属病院
2011年より同院病院長補佐・看護部長
2017年岩手医科大学看護学部特任教授を経て、21年より名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授
2025年6月より現職

 

看護政策実現のために看護協会と看護連盟は一枚岩になる

髙原:看護職の処遇改善を早急に進めるためにも、看護協会と看護連盟の「連携」が重要です。秋山会長はどのような連携が必要だと思われますか?

秋山:私が大学に入ったとき、看護学教室の教授は見藤隆子先生でした。見藤先生はその後、東大を退官され、日本看護協会と日本看護連盟の会長を兼務されたのですが、看護政策の実現や協会、連盟の重要性についても聞かされていました。日本看護連盟は政策実現のために日本看護協会が創った組織ですから、一体となって活動するのは当然のことで、やはりその原点に立ち返るべきではないかと思っています。

今や地域の状況は本当にさまざまですから、地域独自の課題を地域の中で解決していかなければなりません。そのため、各都道府県単位でも看護協会と看護連盟が課題を共有し、その課題解決に向けた政策を実現するために共に連携していく必要があります。そのための仕組みづくりは、やはり私たち日本看護協会と日本看護連盟の重要なミッションではないかと考えています。

髙原:政策実現の前に、日本看護連盟の活動がやはり看護職の皆さんにしっかり伝わっていないことが課題と考えているのですが、いかがですか?

秋山:大学など教育の場においても、プロフェショナリズム教育は重要であり、職能団体の存在意義や政策実現に向けた政治活動についてもっと学んでおくべきだと考えています。免許取得時の職能団体への入会は専門職として当たり前になること、また看護管理者においては、政策実現のための諸活動に積極的に参画していくべきですから、可能な限り看護連盟にも入会していただくこと、これが基本的なスタンスだと思います。

ただ、連盟のような政治団体への入会については「政党」を支持することにも繋がりますので、個人の思想信条にも十分考慮される必要があり、決して強要されるものであってはなりません。しかし、その場合でも、支持する政党の中で、ぜひとも看護職や看護職に近い議員を応援していただきたいと思っています。

髙原:そう、管理者の教育は重要ですね。政策が実現して、実際に国から都道府県へ、そして各施設に降りてきたときに取り組むのは現場の管理者です。それがスムーズにいくためには1人ひとりの管理者が、普段からもっと政治に目を向けていなければ、タイムリーに情報を捉えて、病院に還元することはできません。 看護管理者の教育は、連盟と協会が連携して取り組まなければならないと、強く思っています。
では、最後に、日本看護連盟に期待することについて、一言いただけますか?

秋山:新ビジョンの「おわりに」で、日本看護協会と都道府県看護協会は、個人の力だけでは解決できない課題を組織の力で解決し、看護を発展させ、社会に貢献すると書いています。
この「組織の力」というのは、本会が要望する政策を実現していくために大変重要です。制度を変え、新たな法律をつくるためにも、また、よりよい看護を展開していくための予算を獲得するためにも、看護職の国会議員の力は非常に大きいと言えます。

そして、看護の政策実現に寄与してくれる議員を増やすことも大切です。それには、やはり組織として看護連盟の力をお借りしなければなりません。看護協会と看護連盟が一枚岩になって活動することが、いま最も求められていることだと思います。

髙原:都道府県の看護連盟と看護協会をみると、何かこだわり過ぎて連携がうまくいかないこともあるように思います。もっと気を楽にして、一緒に政策を形にしていこう、という意識をそれぞれで共有してほしいですね。これからも共に前に進んでいきたいと思います。ありがとうございました。

*1 日本看護協会「看護業務基準(2021年改訂版)」
https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/gyomu/kijyun.pdf

*2 看護の将来ビジョン2040 ~いのち・暮らし・尊厳を まもり支える看護~
https://www.nurse.or.jp/home/assets/vision2040.pdf

(2025年10月7日対談)

(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2025 NOV-2026 FEB)

日本看護連盟のコミュニティサイト アンフィニ
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