インタビュー
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よい看護を、 どこでも、ずっと

2025.12.23

第27回参議院議員選挙を終え、石田まさひろ議員が三選を決めました。引き続いて看護の課題に対して、友納りお参議院議員と共に取り組んでいくことが期待されています。
そこで、N∞[アンフィニ]25年秋冬号では、石田議員と友納議員のお2人に、2040年に向けて今後取り組んでいくことについてお話しいただく「Wインタビュー」を行いました。
聞き手は看護師でもある日本看護連盟の岡山尭憲常任幹事です。

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【聞き手】
岡山 尭憲 Okayama Takanori

( 日本看護連盟 常任幹事)

 

医療機関の経営危機に早急に対応 高市総理が就任会見で明言

ーー今日は、直面している問題から2040年のあるべき姿まで、「看護の課題」とそれにどう取り組まれていくのかについて、両議員におうかがいしたいと思います。まず昨日(25年10月21日)、高市政権が発足しましたが、全国の医療機関が直面する危機的状況への対策は、新政権でも引き続き推進されると考えていいのでしょうか? 医療機関の赤字経営が改善されなければ、看護職の給料も上がりません。「処遇改善」という点から看護職の関心も高い課題だと思います。

石田

2026年の診療報酬改定に関しては、前政権の方針で、医療機関の経営危機や賃上げについて診療報酬で手当てすることが決まりました。それはもちろん引き継がれます。
加えて、高市総理は就任会見で「診療報酬・介護報酬の改定の時期を待たずに、経営の改善・従業者の処遇改善につながる補助金を措置する」と明言しました。

これは、2025年度の補正予算で前倒して取り組むということですから、年内には動きがあると思います。

友納

補正予算での手当ては、総裁選の時からずっと高市総理がおっしゃっていたことなので、私たちもきちんと実現されるように後押しをしていきます。
診療報酬改定については、2年分を見越して賃上げの手当を行うのか、もしくは自動的に上がる仕組みを入れるのか、そこはまだ見えていません。
診療報酬改定はまだ要求段階ですから、しっかりと予算を確保できるように引き続き働きかけていくことが重要になります。

 

地域の看護学校の減少や「看護記録」の見直しは喫緊の課題

ーー参院選を終えた今、喫緊で取り組むべき看護の課題について、どのようにお考えですか?

石田

看護の課題としては、1つは診療報酬改定の“中身”の話で、「記録手続きをどう減らすか」が挙げられると思います。
これは以前から私たちが言い続けてきたことですが、ようやく厚生労働省の担当部署で専任担当者が付いて、作業が動き出しました。
あとは、いかに現場の感覚とズレがないように削減していくか。その具体的な議論に入ったところです。

石田 まさひろ 参議院議員

1990年東京大学医学部保健学科卒業後、聖路加国際病院(内科)・東京武蔵野病院(精神科)勤務。
その後、日本看護協会で政策企画室長として看護関連政策の立案・調整に従事。
日本看護連盟に移り、38歳で幹事長。2013年比例区(全国)にて参議院議員に初当選し、現在3期目。

 

ーー研修会などの場では、参加者から「この記録って本当に必要なの?」といった声がよく上がっています。今後、変化を期待していいということですね。

石田

はい、期待していてください。頑張ります。

友納

今、石田先生がおっしゃったのは診療報酬に関わる記録のお話ですが、診療報酬に関わらないものも含めて、看護記録全体をどうするかについては、引き続き議論していく必要があります。
記録が業務の負担の3割を占めるといわれる状況の中、記録そのものの量を減らすのか、もしくは、例えばAIとかデジタル技術を活用して記録の方法を変えることで負担を軽減するのか。「減らす」と言ってもいろいろな方法があると思います。

友納

ただ、各地の現場を訪問して感じるのですが、皆さんが「記録を減らす」と言う時の「記録」がそれぞれに違っているように感じます。そのあたりは、現場の皆さんにさらに詳細にお話を聞き、整理をしながら取り組んでいかなければならないと考えています。

友納 りお 参議院議員

東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒。
同大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了。
早稲田大学大学院法務研究科修了。
都内医療機関に看護師として勤務後、都内法律事務所を経て、土肥法律事務所を開所。
2022年、参議院議員通常選挙で初当選。高市政権で環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官を務める。

 

石田

「記録を見直す」と聞くと「減らす」ことをイメージすると思いますが、決してそれだけではありません。よりよいものにする、必要なことはきちんと書くといったことも含めて「記録を見直す」ということだと思います。
その中で診療報酬で対応できることをまずやりましょう、という話で、これで終わりではないですよね。

友納

そう、記録全体を見たほうがいいですね。

石田

最終的には医療安全の在り方といった話まで広がる話だと思います。

 

ーー人手不足、人材確保についてはいかがですか?

石田

私が考える一番の課題は、地方の看護学校が大きく減っている現状をどうすればいいのか、という問題です。都道府県ごとに状況はかなり違いますが、看護専門学校の場合、入学定員に対する充足率が5~6割台の県もあります。

石田

そもそも子どもの数が減り、しかも看護師になりたいという人も減っている中で、すでに看護学校がなくなり、数年後には卒業生がいなくなる地域も出てきています。
来年度予算の中で、学生が減った看護学校を別の学校の分校のような位置付けにして教育を継続できるようにする事業が始まる見込みですが、それはあくまでも短期的で小規模な対策に過ぎません。

 

ーー分校として存続できても、入学希望者がいなくなればいずれは立ちゆかなくなりますよね?

石田

「看護師の養成をどうするのか」という根本的な問題は残ったままです。

友納

それと合わせて、潜在看護師の復職支援も重要ですよね。
人口減少社会では、いくら看護職を増やそうと思っても、元々のパイ自体が小さくなっていくわけですから。これも以前から取り組んでいることではありますが、なかなか進んできていません。

友納

復職支援は、基本的にナースセンターの得意分野ではあると思うのですが、ナースセンターの今のキャパシティでは復職を希望する全ての人に必要なだけの支援ができるかというと、現実的に難しい。ナースセンターにプラスして、何かほかの手段も使いながら、復職のための教育をして現場に出てきてもらう方法も考えるべきです。そのあたりを、もう少し道筋を立てて考えなければいけない時期が来ていると思います。

友納

これから入ってくる新人の数が限られるのだから、今働いている人に働き続けてもらうこと、そして今働いていない人にも働いてもらうことを全てセットで取り組んでいかなければ、看護師の確保にはつながらないでしょう。

 

ーー看護師免許を取っても看護師として働かない人は、年々増加しています。また、看護から他業種への流出も増えています。人口減少社会を迎え、今後、数の確保は一層難しくなることが予想されますが、そうした状況でよい看護をしていくためには、考え方を変えていく必要があるのでしょうか?

石田

そうですね。看護学校の件も、ナースセンターの件も、急いでやらなくてはいけないことではありますが、根本的な解決策にはなり得ないと私は思っています。
もうそろそろ、「数の確保」から一歩議論を進めて、例えば「今、5人の患者を看ている看護師が、どうすれば10人を、しかも看護の質を高く看られるようになるか」といった“質”に重点を移した議論を進めていかなければならないと思います。

石田

そうなると、「個人の質」をどう上げるかという話ですから、今までとは発想がまったく違ってきます。養成の数よりも、むしろ養成の質や、生涯教育の中身をどうするかといったことが重要です。

石田

さらに、AIや機械への代替や、タスク・シフト/シェアをどうするかという、医療現場の構造そのものを変えるという話にならざるを得なくなる。「そこをどうキックオフするか」が、今まさに問われています。
やるとすれば、さまざまな観点で丁寧かつ大胆に取り組まなければならないので、これはとても大変です。

 

質の高い自律した看護には1人ひとりの「哲学」が不可欠

ーーAIやデジタルの活用もこの先取り組むべき課題です。友納議員は内閣府でAI政策担当の大臣政務官も務められましたが、看護におけるAI活用はどのように考えていくべきでしょうか?

友納

もうAIやデジタルは私たちの生活に入り込んでいて、医療にも確実に入ってきます。
石田先生がおっしゃった通り、それをうまく看護が活用するということと合わせて、AIやデジタルの導入によってタスク・シフト/シェアを進めることも重要だと思います。
看護の本来的な業務、つまり患者さんに対峙して行う業務は、AIには決して置き換えられない業務ですよね。

友納

その一方で、ほかの職種の中には、AIやデジタルを活用すると、確実に業務が整理され、効率化される職種があります。今までは、国がタスク・シフト/シェアの旗を振るものの、現場にお任せしているところがあって、ほかの職種に渡そうとしたら「いや私たちも忙しいから」と断られることもありました。しかし今後、AIで業務が整理できる職種との間ではタスク・シフト/シェアがもっとしやすくなると思います。それに合わせて、看護が専門性を発揮してやらなくていいことは、もう他職種に行ってもらっていい。

友納

とはいえ、看護側も「看護が専門性を発揮してやるべき業務」の整理がまだ十分できてはいないのではないでしょうか。例えば「療養上の世話」はかなりグラデーションがあって、無資格者でもできる高齢者の日常生活上の支援や社会サービスの部分と、看護が専門性を発揮する医療の業務の整理が、私たち自身もできていないところがある。この先5年ほどの間に、デジタルやAIは一気に医療現場に入ってきます。そのタイミングで、看護が専門性を発揮すべき業務を明確にしておき、ほかの職種に渡せるものは一気に押し出していくという作業が必要になってくると思います。

石田

確かにそうですね。
さらに言えば、これは「国が基準を示すべき」というような話ではなくて、実は個人個人が「看護って何やるんですか?」っていうことを問われている。国が何かを示して看護師が「はい、わかりました」ではないでしょう。

 

ーー今のお話は、日本看護協会の「看護の将来ビジョン2040~いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護~」(以下:新ビジョン)につながるお話だと思います。新ビジョンでは、2040年に向けて看護がめざすものとして、「その人らしさを尊重する生涯を通じた支援」「専門職としての自律した判断と実践」「キーパーソンとしての多職種との協働」を掲げています。

友納

そう、本当に「自律した看護」ですよね。
それぞれの臨床現場でも、自分たちで判断ができれば、その判断を基に、看護の専門性を発揮する以外の業務は他職種に渡していけるわけですから。

 

石田

新ビジョンには、そういう考え方が表れていると思います。加えて「自律した看護」は自分で判断できるだけでは終わらず、看護の「哲学」も持たなければいけないと思います。
AIの性能がどんどん上がってくると、電子カルテのデータをビッグデータとして分析して、ラウンドに行く時に患者さんの名前を入力するだけで「最低でもこれとこれはチェックして」とか「ここは気をつけて」というポイントがすぐに出てくる。

石田

さらにその情報をSNSの情報とリンクさせて「この人はこういう性格だから声かけに気をつけて」「こういった言葉がキーワードだよ」ということまでわかる。そういう時代は、そう遠くないうちにやってきます。それを聞くと、AIが最低限必要なことをカバーしてくれてよいことのように思えるかもしれないけれど、逆に「深い看護とは何か?」という自分の哲学がなければ、AIに自分が飲み込まれてしまう。

 

ーーAIに使われないように自律した考えを持たなければならない、ということですね。

石田

その通りです。
自分の看護観だとか価値観、人生観、哲学というものをきちんと考えていくトレーニングを、それぞれの現場の仕事の中でしていかなければならない。つまり、臨床看護の力を高めるため、哲学を含めた「看護の力」を1人ひとりが高めるために、仕事と合わせて教育プログラムを展開することが求められると思います。
病棟業務の見直しをするにしても、業務を切ったり貼ったりするだけでなく、徹底した事例検討を必ず行う習慣を付けるなど、看護を深める作業を業務の中に組み込むことが欠かせません。

石田

それこそが「AIの世界」の看護師に大事なことで、AIを使えば業務整理ができるということだけではない。誰かがやってくれるとか、マニュアルをつくりましょうという発想から抜け出して、1人ひとりの看護をいかに深めていくかを日常的に意識して働く状況をつくらないと……。

 

スポットワークや兼務、働き方の多様性が拓く看護の未来

ーー石田議員の今のお話の中に、次の時代の「よい看護」の一端が見えたように思います。2040年には今よりさらに若年人口が減少し、人口減少が激しい地域では、医療をはじめとするインフラの維持も困難になることが予測されています。1人ひとりが看護の質を高め、「よい看護を、どこでも、ずっと」提供していくために、これからどのようなことに取り組んでいけばよいのでしょうか?

友納

「どこでも、ずっと」という話で言えば、ポイントは2点あると思っています。

友納

1点は「多様な働き方をつくる」という視点です。例えば、愛知県看護協会がスポットナースの事業を始めましたが、いわゆる“スキマバイト”のようなものは医療安全的にできなくても、やはり忙しい時間帯に認知症の患者さんに付き添って歩いてくださっている方がいれば、負担の軽減につながりますよね。「場所を限定する」「業務を限定する」形で、より多様な働き方をつくっていくことは、可能性があるかもしれません。

友納

もう1点は「多様な働き方を叶える環境をつくる」という視点です。今、看護師が働く場は、いろいろなところに広がっています。例えば来年度、全国の自治体で「こども誰でも通園制度」がスタートしますが、これは医療的ケア児も対象にしているので、実施する保育園などには看護師が必要です。子ども政策に力を入れている自治体の中には、保育園でも医療的ケア児を受け入れ始めていて、そこにも看護師が必要になってくる。ただ、自治体ごとに報酬がバラバラで、報酬がかなり低いところもあるようです。

友納

多様な場で看護師が活躍できることは素晴らしいのですが、まだ全ての場所で看護師が働く環境が整っているわけではない。
訪問看護もそうです。働き方改革を進める方向で診療報酬・介護報酬が改定されてきましたが、訪問看護ステーションは1つひとつが小さく、なかなか対応が難しいところがあります。

 

ーー看護師が専門性を発揮できる「場所」ができるだけでなく、「働く環境」としてどうかという視点が必要なのですね。

友納

「こども誰でも通園制度」を医療的ケア児まで広げよう、という理想は、素晴らしいと思います。

友納

でも「では、そこで働く看護師の処遇はどうするの?」ということも同時に考えないと、結局、せっかくの制度が使えないということになりかねません。看護は専門性を発揮できる分野がたくさんあるからこそ、制度をつくる段階から、その専門性を十分発揮できる環境には何が必要かを考えて、あらかじめ制度の中に組み込んでいくことがとても重要だということです。
皆さんがよりよい看護を提供するために、処遇の面も含めた働く環境をしっかり考えた上で制度をつくっていく。そうした目線を持たなければいけないと、強く感じています。

 

石田

今の友納先生の話を聞いていて、「兼務」もポイントになり得るんじゃないかと思いました。

石田

保育園で働く人は保育園だけ、訪問看護は訪問看護だけ、病院は病院だけというように働く場所を固定してしまうと、これからの人口減少社会では現場が回らなくなる。
その意味でも兼務は必要でしょうし、さらに言えば、先ほどお話しした「看護を深める」ためには、“点”で関わるのではなく、“線”や“面”で関わっていくことも大切ですよね。今日は病院で働くけど、明日は退院した患者さんの家を訪問する。または、今日は子どもを看るけど、明日はおばあちゃんを看る。そういう多様な働き方、「どこでも、誰でも、いつでも」という働き方をすると、人の全体像や一生のつながりが見えてくると思うのです。

石田

人口減少に対応するという意味でも、もっと連続して人のことを看るという意味でも、自由な兼務、いろいろな仕事を同時にしていくことが求められていると思います。そういうことも、友納先生が話していた課題の1つの解決方法になるのではないでしょうか。

ーー今日のお話から、目の前の課題にとどまらず、質の議論への転換、自律した看護のために哲学を持つことなど、1人ひとりの看護師が本質的な課題に向き合う時代が来ていることを強く感じました。今日はさまざまな視点から看護の課題についてお聞かせいただき、ありがとうございました。

(2025年10月22日収録/構成:丸山こずえ)

(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2025NOV-2026FEB )

石田まさひろ政策研究会

 

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