2024.12.03
人口減少が社会課題となる中、私たちはこれまでの価値観を変え、看護の在り方を見つめ直す時を迎えています。そうした時代にあって、石田まさひろ議員はこれからの看護政策について「量を守り、質を追求する」をテーマに掲げています。
看護の未来と発展には何が必要なのか、友納理緒議員が7つのポイントを中心に伺いました。
今回は石田先生が指摘されている「量を守り、質を追求する」ための7つのポイント(表1)に沿って、お話をうかがっていきたいと思います。
まず、全体としてのキーワードは「量を守り、質を追求する」ですが、これは、これから数年間の看護にとって重要なテーマですね。
そう、本当に大きなテーマです。これからの社会課題は人口減少、これに尽きます。これまでの社会や政策は人口が増えることを前提としてきました。しかし今、その方針を転換しなければならない時期を迎えています。それは看護の世界も同じで、私は看護が一番変えなければならないのは「人が増えたらもっと良い看護ができる」という考え方だと思っています。
もちろん良い看護をしたいという思いは、今も昔も同じです。しかし、人口そのものが減っていく中では「量を守る」ことですら精いっぱいかもしれません。その状況にあって、どう看護の質を高めていくか。そのために何をするのかが問われています。
「量を守る」という面で、先生がすでに取り組みを始めているのが、「ナースセンターの機能充実」ですよね。
ナースセンターのような人材確保ための公的制度を持っているのは、医療職の中でも看護だけです。これを活用しない手はありません。職業紹介だけでなく、ナースセンターが直接人を雇って過疎地に派遣したり、看護職の働き方について病院や施設に提案したりする機能があってもいいと思います。ナースセンターの在り方は、抜本的に見直していく必要はあると考え、すでに検討も始まっています。
現状では、看護師も雇う側の病院や施設も、ナースセンターより民間の紹介業者を利用するケースが目立ちます。なぜ無料のナースセンターではなく、有料の民間業者を使うのかに目を向ける必要もあります。
その理由の1つとして考えられるのは、ナースセンターへの登録の仕組みの複雑さじゃないでしょうか。もう少し簡単に登録できると、もっと使いやすくなると思います。登録しやすくなり、利用する看護師が増えれば、おのずと紹介先も充実してくるように思います。
ユーザー目線でシステムを変えていくことが大切なんですね。
そう思います。さらに、ナースセンターの機能充実で数の問題を緩和させながら、「量を守る」ための対策の本命として、「看護職の業務の整理と効率化」、つまり看護職の働き方の抜本的な見直しに取り組まなければなりません。
業務の整理と効率化は、私も本当に必要だと思います。まずは業務の整理が大切で、結局これができないと効率化はできません。タスクシフト/シェアも、自分たちのタスクが整理できていないと難しい。
この30年間で看護職の数は倍以上に増えていますが、「昔のほうが良かった」という感覚を持つ人がとても多い。その一番の理由はシンプルで、人の数以上に仕事が増えたからです。
診療報酬が改定されるたびに、求められる記録、提出すべき記録が増えています。「質の確保」という面ではそれが正しいのかもしれません。ただ、正しいと思うことをどんどん積み上げていった結果、ベッドサイドでのケアの時間が減っているのだとすれば、それは本当に正しいことなのでしょうか。
記録類は「書かないことを前提として、でも最低限何が必要かを考える」という視点の転換も必要だと思います。業務が整理されたら、それに合わせて現場の仕事を変えることも大切ですからね。
確かにそうですね。それに、業務整理や効率化、タスクシフト/シェアは、現場の話し合いだけで進めるのは限界があります。そこで、行政が旗振り役を務めて進めていくことも考えていかないと。
では「看護職の働き方の抜本的な見直し」については、どのようなことを考えていらっしゃいますか?
働き方の抜本的な見直しには、業務を整理した上で、優先順位を決めていくことが大切です。
例えばビジネスの世界では、緊急度と重要度によって業務を整理し、優先順位を決める「アイゼンハワー・マトリクス」という手法が使われています。これを看護に当てはめてみると、例えば急変対応や書くことが義務づけられている記録は「緊急で重要な業務」、多くの電話対応や、同じ内容で頻回なナースコールは「緊急だがあまり重要ではない業務」に分類できます。見返すことのない記録や定例報告だけのための会議は、「緊急ではなく重要でもない」業務ですよね。緊急で重要な業務であっても、効率化や計画化によって減らしていくことができるかもしれませんし、重要度の低い業務は、できるだけやらずに済む方法を考えていくべきです。
残ったのは「緊急ではなくても重要な業務」ですね。
はい。本当に大切にすべきなのは、「緊急ではなくても重要な業務」、つまり大切だけれども後回しになっている業務だと思うのです。例えば患者さんに寄りそう行為や深い事例検討がこれに当たります。これこそが、看護の質を上げ、未来を創る業務。いかにそこにエネルギーをかけられるようにするか、という発想で業務を組み立てられるようにしていきたい。
現場の看護師の皆さんは、後回しになっている本来の看護の業務に集中したい、そのためにそれ以外の業務を減らしたいという思いがありますよね。
はい。
そうです。業務整理も働き方の見直しも、どうすればベッドサイドでいいケアをしていけるかという視点で考えていかなければならないと思っています。
ただ、「ベッドサイドにいる時間が長ければそれでいいのか」ということも、一度立ち止まって考える必要はあるかもしれない。たとえ短い時間でも患者さんを深く理解し、それに合わせて行動することをベースにした看護観を意識していくことが、より本質的な「看護の質の向上」につながるのではないでしょうか。
共感傾聴は看護の基本ですが、そこから一歩進んで、相手を理解して行動するということですね。
そうですね。いずれにしても、業務の整理と効率化、働き方の見直しによって、皆さんの負担を減らすことは不可欠です。
1990年東京大学医学部保健学科卒業後、聖路加国際病院(内科)・東京武蔵野病院(精神科)勤務。
その後、日本看護協会で政策企画室長として看護関連政策の立案・調整に従事。
日本看護連盟に移り、38歳で幹事長。
2013年比例区(全国)にて参議院議員初当選し、現在2期目
東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒。同大学院保健衛生学研究科博士前期課程修了。
早稲田大学大学院法務研究科修了。
都内医療機関に看護師として勤務後、都内法律事務所にて勤務。
その後、土肥法律事務所を開所。
2022年、参議院議員通常選挙で初当選。
看護職の力になるため、看護の現場の声を聞き、政策実現に取り組む
私が全国の病院で現場の皆さんとグループワークをすると、よく話題に上るのがAIについて。先生も「科学技術を活用した看護の革新的な向上」をポイントに挙げていらっしゃいますが、看護現場へのAIやロボットの活用についてはどのようにお考えですか?
もちろん看護職が自分の目や耳で直接得る情報は大切ですが、それをサポートするようなAIやロボットはあっていいと思います。
今は24時間バイタルを取り続けられる機械がありますから、そのデータをAIで分析すれば、こんな変化をしている人は急変が起こりやすい、といったことが事前に予測できます。そういうことにAIや先端技術を活用すべきで、すでにそれを実践している国もあります。「看護は観察から」といいますが、AIの導入で観察やアセスメント力を高めることができそうです。
技術はとても重要ですが、どうしても「今やっている業務を楽にするために使おう」という発想になりがちですよね。そうではなく、「新しい技術を使って看護力をどう高めることができるか」という視点からの研究開発が必要だし、そのための予算を確保していかなければなりません。技術の活用には各病院での取り組みや努力も求められるので、感度を高くしてチャレンジしてほしいと思います。
「医師不在地域での看護師の活用拡大」は、地域の生活を支える多機能看護体制の構築が、人口減少社会の地域医療にとって急務であることに関連するポイントですね。
看護職が地域で人々を支えていくために、権限を含めた看護師の活用拡大は取り組んでいきたい課題です。医師不在地域での看護師の活用拡大は、ナースプラクティショナー(NP)をはじめとした仕組みづくりの話なのですが、今の政治や社会の中では、専門職が「私たちにはこれだけの力があります。だから資格をつくって認めてください」という話をしても、なかなか通りません。
新しい制度や法律をつくる判断基準は「患者さんや国民のニーズに合っているかどうか」です。その点では、例えば医師がいないため遠隔診療も難しい過疎地域や離島で、資格を持った看護師が医師の行為の一部を行うことは、多くの人の賛同を得られると考えています。国民にとって本当に必要な制度であることを、しっかり訴えて進めていきたいと考えています。
「地域の生活を支える多機能看護体制の構築」は、以前から石田先生が強調されているテーマですよね。あらためて、先生が考える「多機能看護体制」とはどのようなものか教えていただけますか?
昔から私は「病棟のナースステーションを地域に置く」という話をしてきました。病棟でさまざまな形で看護が提供されているように、地域でもさまざまな形の看護があってよいと考えています。
訪問看護ステーションも増えてきましたが、訪問看護だけで患者さん・利用者さんの在宅生活を支えられるかというと、現実には難しい。やはり複合的で多機能な看護が必要です。つまり、ナースコールがあって、訪問もするし、デイサービスやショートステイにも来てもらい、相談サービスも提供するような、看護の多様な機能を備えた「地域密着型の大規模多機能」なステーションが地域にあったらいいのではないか、ということなのです。
介護保険の看護小規模多機能型居宅介護、いわゆる看多機は小規模ですが、ここでは大規模というところがポイントですか? これからの人口減少社会では、大規模化しないといずれ運営が難しくなるかもしれないということでしょうか。
そうなんです。これまでは、なぜか「地域密着イコール小規模」という固定概念があったように思います。しかし、経営の安定性やスタッフの育成を提供する看護の多様性という面を考えれば、大規模であるべきでしょう。
病棟のナースステーションでは多職種が集まってカンファレンスや打合せをするし、情報が集まってきますよね。それと同じように、地域の訪問看護ステーションにいろいろな人が集まる仕組みをつくって、そこから地域の新しいケアや治療の形が生まれることもあっていい。そういうことも、これからの看護の役割かもしれません。
急性期の病床が減っていく中、「地域のナースステーションづくり」は私も急務だと思います。ただ、人口減少がどんどん進んでいくと、過疎地域では、訪問看護の体制を変えるだけでは対応しきれなくなる可能性もあるように思います。
その場所に愛着を持って暮らす人の思いはもちろん大切にしなければならないのですが、現実的に考えると、これからの日本で、高齢の方がそのような生活をすることは厳しい。
そうではなく、過疎化が進んでいる地域の高齢者は、元気なうちに同じ地域の市街地に引っ越して、知人同士がマンションなどで暮らす。田んぼや畑にはそこから“通勤”して、ケアが必要になればそのマンションに訪問看護師が行く。そういう新しい形の地域での暮らし方も、いずれは考えていく必要があるかもしれません。地域の生活を支える新しい看護体制をつくっていくことにも、力を尽くさなければならないと思っています。
人口減少が進むということは、この対談の最初にもお話がありましたが、看護職の「量を守る」ことがさらに大きな課題になっていくはずです。これからの看護職の確保という点で、「卒前・卒後の教育の連動と生涯教育の充実」を先生は取り組みのポイントに挙げていらっしゃいますね。
卒前・卒後の教育では、卒前教育の内容の充実がとても重要だと考えています。特に今、実習が見学中心になってしまい、学校を4年で卒業して現場に入っても、即戦力として働けるかというとなかなか難しいでしょう。
一方で、教育カリキュラムは非常に密になり、学生は友だちと遊んだり、アルバイトをしたりする余裕もないと聞きます。学校外の活動も、コミュニケーションや人との関わりを学ぶ機会になるはずなのに、その時間も取れなくなることが果たして本当にいいことでしょうか。
卒前教育のカリキュラムを濃くするだけでなく、卒前、さらに卒後も病院での教育で技術や技能の取得をしっかりフォローする仕組みを考えてもいいと思います。むしろ、病院側に教育機能を持たせて看護職の成長を促したり、クリニカルラダーを全国共通にしてどの病院でもラダーを歩める支援をしたり、ラダーの中に特定行為研修を入れて無理なく自然に研修を受けながら技術が身に付くようにしたりすることを検討してもよいと思います。
教育のプログラムをもう一度考え直すことも重要になりそうですね。一方で、生涯教育という面では、今、たくさんのプラチナナースの皆さんが活躍されていますが、そうした方々の学びを支えることも必要だと思っています。
そうですね。看護師は、定年を迎えて一旦職場を離れても、またチャンスがあれば、短時間でも役割限定でもいいので働ける環境がある。“生涯看護師”でいられるわけですが、ほかの職業ではこうはいきません。これは本当に看護の素晴らしいところだと私は思っています。その上で、プラチナナースの皆さんが今後さらに活躍していただくために、自分の過去の経験と技術を提供するだけではなく、若い世代から新しいことを吸収していただくことも大切だと思います。柔軟で自由な学び合いの場をつくり、生涯を通じた学びを支えることも考えていきたいですね。
プラチナナースについては、全国をまわって、多くの方と話をしていると、その働き方の多様性が必ず話題に上ります。
若い世代と同じ働き方を求めるのではなく、時間、曜日、仕事の内容に多様性をつくる、ということですよね。
プラチナナースの皆さんには、孫育てをしている方、孫育てを終えて戻ってきてくださった方や、医療機関だけでなく学童保育で働いている方など、いろいろな方がいらっしゃいます。やはり働き盛りの時のようにはいきませんから、働き方を調整して差し上げないと、と私も思います。
これからは、看護している実感、看護を受けている実感をどう高めていくか――これがあらゆる看護政策、看護管理の目標になっていくと思います。この視点を真ん中に置いて、私たちはこれから活動していかなければならない。
「看護職不足」を真ん中に置いてしまうと、人口減少が続く限り明るい未来は見えてきません。しかし「看護不足」を真ん中に置けば、業務をどう見直すか、どの業務の優先順位を上げるか、質をどう高めていくかを考え、行動することで、看護はまだまだ発展できる。それが「量を守り、質を追求する」ということです。看護の明るい未来をつくるため、これからも皆さんと一緒に頑張っていきたいと思っています。
私が子育てと国会議員の仕事を思い切りできているのは、石田先生がいらっしゃるからだと常々感謝しています。先生ご自身も子育てを経験されているので、協力していただくこともたくさんありますし、先生と一緒に看護政策に取り組んでいるからこそ、私は看護職の働く負担を軽減する子育て政策にも力を入れることができて、取り組む政策の幅が広がっていることは間違いありません。これからも、未来に向けた看護政策に取り組んでいきたいと思っています。今日はありがとうございました。
(2024年9月24日収録/構成:丸山こずえ)
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2024 NOV-2025 JAN)
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