2023.03.29
我妻 佳祐さん(株式会社ライフシオン 代表取締役)
がんの治療を受けている患者さんのなかには、経済的に困っている方が少なくありません。日本では多くの人が生命保険に入っていますが、保険金は、死亡後か、余命宣告されてからでないと下りません。そうなる前からお金が必要な人もいるはず。そのような人の選択肢の一つが生命保険契約の買取りサービスです。ライフシオンの我妻さんにお話を伺いました。
日本になかった生命保険の買取りサービス
我妻さんは、大学院の時から生命保険の研究をしていました。その時、欧米では保険の買取りサービスがすでに普及しているのを知り、このサービスを日本でもできないか、と思ったそうです。
我妻さんは、大学院を修了してから13年ほど金融庁に勤め、その後外資系のコンサルタント会社に転職しました。その間、日本で保険の買取りサービスが立ち上がる様子はなかったので、自分で始めることにしました。コンサルタント会社を退職し、2022年の4月、ライフシオンを立ち上げました。
生命保険の買取りサービスとは?
ライフシオンでは、がん患者さんに対して「生命保険の買取り」というサービスを提供しています。がんに罹られた方は、仕事を続けられなくなったり、減らしたりして、収入が少なくなったり、あるいは治療費などでお金が必要になり、保険料を払えなくなるケースがあります。
しかし、保険を解約しても、返戻金が非常に少額の場合も少なくありません。ライフシオンが返戻金よりも高い金額で保険契約を買い取れば、がん患者にとって大きなメリットになります。買い取った後の保険料はライフシオンが負担しますので、がん患者は、保険契約の売却後の負担はありません。
生命保険にセカンダリー・マーケットをつくりたい
世の中にはいろいろなセカンダリーマーケット(二次市場)があります。たとえば、中古自動車の市場もその一つです。自動車を手放すときは、中古自動車販売業者が下取りし、顧客に販売します。しかし、保険の場合は、保険会社が解約返戻金額を予め決めていて、それに従うしかありません。保険契約でも、中古自動車の市場のような形をつくりたいと我妻さんは考えています。
「例えば、車を手放そうとする時は、ディーラーで下取りしてもらう場合と、中古車販売業者に査定してもらう場合の金額を比較することができます。生命保険でもそういう形にできないかと考えています。つまり、われわれが生命保険契約を査定して金額を提示すれば、生命保険契約をやめようと考えている方は、われわれの査定額と保険会社が規定する解約返戻金を比較することができます」
保険契約者は、査定額が解約返戻金より高い場合はライフイオンに契約を売却し、低い場合は保険会社で解約を選ぶか、あるいは契約を継続することになります。いずれにせよ、契約者のデメリットはなく、むしろ選択肢が増える分、契約者にはメリットになると言えます。
エイズの流行とともに普及したアメリカのマーケット
アメリカでは、保険契約の買取りのマーケットは、現在、約7億ドル、日本円で約1000億円の規模があります。19世紀には悪徳業者が貧しい人たちを食い物にするアングラマーケットのような様相でしたが、健全になった保険契約の売買が普及したのは、1980年代のエイズの流行の時でした。アメリカは公的医療保険がないので、エイズに罹って治療費がないという人がたくさん出ました。そういった方が保険契約を売って、エイズの治療費に充てたことで、この市場が拡大しました。
我妻さんは、日本でもがん患者さんに対して、同じようなことができるのではないかと考えました。
日本のマーケットとコンプライアンス
日本では、毎年約100万人が新たにがんに罹患されています。一方、日本では90%くらいの方が生命保険に加入しています。このうち1%が解約し、そのうちライフシオンが買える可能性のある契約が2分の1あると仮定すると、毎年約4000件前後のニーズがあると推測できます。「契約者にとっては、メリットの大きいサービスだと思っておりますので、日本でも普及させていきたい」と我妻さん。
生命保険契約の売買に関連すると思われる法律には、保険業法、保険法や貸金業法などがありますが、実は、いずれの法律でも、保険の買取りの規制はしていません。
「とはいえ、法律がないから何をやってもいいわけでは、もちろん、ありません。まずは、反社会勢力が入り込むことを徹底的に排除しなければいけません。それから、買い叩きを防止すること。契約者は、提示された金額が適正なものか検証できませんので、事前に算定式や査定の基準を設定して、フェアな価格を出すように心がけています」
このサービスを多くの方々に知っていただきたい
イフシオンを立ち上げた後、保険会社や金融関係からの問い合わせはけっこう来ていますが、医療関係者にはほとんど知られていないのが現状だそうです。
「やはり患者さんと直に接している医療関係者、とくに看護職の方々に、我々のサービスをもっと知っていただきたいのです。がん相談支援センターなどで調べましても、経済的な相談はかなり多いようです。そのような方に、こんなサービスがあると伝えていただければ、お役に立てるかもしれません」
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2023 FEB-JUL)
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