2022.05.26
長谷川翔さん(メディカ出版代表取締役社長)
メディカ出版は、看護を中心にした医療専門出版社として、多くの専門雑誌・書籍を発行し、また、セミナーも多く開催していて、お世話になった会員も少なくないでしょう。近年は、外国人の介護士・看護師の養成支援も行っています。メディカ出版の現在とこれからについて、長谷川社長にお話をうかがいました。
編集者はこれからプロデューサーになっていく
メディカ出版は、1977年にラマーズ法の啓発セミナー事業から始まりました。基幹事業は出版事業で、現在、看護系を中心に専門誌を発行しています。2012年頃からは看護学生向けの教科書および国家試験対策の模擬試験事業を展開しています。また、臨床の看護職に向けたe‐ラーニングを運営したり、清拭をするための器材の代理店販売といった物販事業もしております。社員は、非正規の方を入れて170名くらい。その半数が編集部門です。
雑誌は、企画、取材依頼、制作から執筆まですべて編集者がやります。オールラウンドに経験が積めるというところは当社の強みだと思います。
今、編集者をプロデューサーのような役割に変えていこうとしているところです。今までは、雑誌と増刊号を作ることが編集者のミッションでしたが、これからは一つのテーマを、デジタル、紙、セミナーと、ユーザーや読者が求める形に加工して届けるようにしたいと思っています。
インターネットの台頭とコロナ禍の影響
コロナ禍になって、書店では、医療看護の書籍の売り上げの減少幅が一番大きいと言われています。それだけ医療従事者が抑制的に動いているのだと思います。雑誌の年間購読や、看護部向けのe‐ラーニングなどの発注も減少しています。コロナ禍の対応が逼迫していて、それらの優先順位が下がったとか、経営が悪くなって、ということだと思います。
また、インターネットのYouTubeの台頭も大きいと思っています。YouTubeにチャネルを持つなど、個人がメディアを持つ動きが大きくなり、無料で学べるコンテンツが増えてきています。それで元々あった髪のコンテンツにお金を払う基準が厳しくなってきていると思っています。
当社もただ手を拱いていたわけではありません。コロナ禍の前から準備をしていた新規事業で、昨年の月から、FitNs.(フィットナス)というサブスクリプション・サービスをスタートしました。我々の持っている専門誌やセミナー動画のコンテンツが月々980円(税別)で使い放題・読み放題のサービスです。専門月刊誌冊1,800円のところ、サブスクでは半額の980円/月で全領域を見ることができますから、異動や転職で領域が変わった際にも便利です。このサービスの認知をもっと上げていきたいと考えています。なぜ外国人の看護師・介護士の養成支援を?
営業をしていて、病院長や看護部長からお話をうかがうと、人材不足で悩まれている所がとても多かったのです。団塊の世代もいなくなっていくのをどうカバーするのか、と。そこで、当社も何かお役に立てないかといろいろ考えました。そして、たどり着いたのが外国人の看護師・介護士養成支援でした。
この事業を立ち上げたのは2016年ですが、2013年頃から候補地に行ったり、いろいろ調査をしていました。その結果、まずフィリピンから事業を始めることにしました。フィリピンでは海外で収入を得ようと思っている医療資格者が多いことと、英語圏であることが決定の大きな要因です。英語が話せない日本人は多いのですが、単語がわかってボディーランゲージができれば、ある程度通じますから。
出版社である以上、教育にこだわり養成支援していく
当社の場合、大きく分けてEPA(経済連携協定)のルートと留学生のルートで養成支援を行っています。これから特定技能制度による介護が始まりますが、我々は出版社である以上、一貫して教育にこだわっています。単なる「人送り」「人材紹介」をするつもりはありません。
最終的には、外国人を受け入れたいという介護施設や病院側が候補者に会っていただいて、採用を決めていただきます。それまでは、現地の学校に我々の日本語教育カリキュラムを委託し、候補者を育てています。
採用された介護施設からは、日本人より倍くらいコミュニケーション能力が高いと言われるくらい、好評価をいただいています。日本で稼いだお金を故郷に送って、家族を幸せにしたいという気持ちがあるからでしょうか、仕事に対する意欲が高い人が多いです。
どこの施設や病院でも、来てくれて本当によかったと言われております。
参考) *「EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者受け入れパンフレット」
どんな人たちが日本にやってくるのか
EPAルートで日本に来るには基本的な要件があり、フィリピンの場合は看護師免許を持っているか、あるいはそれに準じた現地の認定資格を持っているかが最低条件になっています。留学生ルートは特に要件がありませんので「日本で成功したい」という意欲があるかどうかで、候補者を選考しています。このため、医療や介護に直接は関係のない、教育学部や物理学科の学生もいます。
看護師として働きたい人はいますが、現実問題として日本の看護師国家試験に受かるのは簡単ではありません。今のところ、我々のルートの中には看護師として働いている方はいません。実際問題、看護の勉強をしながら介護福祉士として働くことになるので厳しいと思います。それに比べ、介護福祉士の国家試験の合格率は50%ですので、介護福祉士として、そのまま日本にいれればいいと考える人が多いです。この事情を説明して理解してもらった上で、介護の方に来ていただいています。
ちょうど今日、とある病院でミャンマー人1期の研修生名中名が介護福祉士国家試験に受かったという報告をいただきました。
その病院は当初、外国人の受け入れに消極的でしたが、今では毎年6名を採用し、20名近く外国人が働いていると思います。「彼らが来てくれて現場の雰囲気がよくなった」とおっしゃってくださり、全体で受け入れていく機運を上手く作っている成功事例だと思っています。
去年までの累計で約160名の来日を支援したことになります。ミャンマーからも受け入れを始めており、2か国合算の人数です。内訳は、EPAルートが約100名、留学生ルートが約30名、ミャンマーからが約30名です。また、15名から20名くらいの来日が決まっているので、これまで180名ぐらいを養成しました。
フィリピンの場合は30代前後、ミャンマーの場合は20代前半の人が多いですね。フィリピンの場合は、公用語が英語なので日本に来るまでに、グアム、カナダ、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど他の選択肢があります。それらの次の職を探したいとき、日本が選ばれます。
ミャンマーの場合、2018年前後に「日本ブーム」があって、日系企業に就職したい、もしくは日本で働きたいという若者が増えました。18歳、16歳でN3(日本語能力試験のレベル)を持っている者もいます。
教育に力を入れているから定着率も高い
今のところ、病院や施設に紹介した候補生のなかで自国に帰ったのは、3名のみです。その3名とも、勤め先も納得したうえで帰国しています。
外国人招聘ビジネスの競争は年々激しくなっています。制度上、現在ではEPA、留学生、技能実習生、特定技能制度の、4つのルートがある状態です。技能実習生は簡単に受け入れられるので、多くの病院や介護施設が、技能実習生がいいと言われるのですが、実は経費的にも、人材の質に関しても問題は少なくありません。
技能実習生に比べ、EPAや留学生ルートの候補者はたしかに当初はコストがかかりますが、長期的に働ける人材を確保できます。また、留学生の場合、3年間研修を受けて働き始めますが、技能実習生は、2〜3か月の研修でもう働き始めます。特定技能の研修となると、1〜2週間です。そんな人たちが働く施設に、自分の親を預けたいでしょうか。
近い将来、会社名から「出版」の文字が消える?
この外国人の養成支援も、社長の趣味の延長くらいに、社員たちは当初思っていたことでしょう。それが、ようやく事業として形になり始めました。これをきっかけに、社内で新規事業をやる雰囲気づくりはできたのではないかと思っています。
看護の世界では、年前からタスクシフト、タスクシェアと言われていますが、今でも課題の一つです。しかし、シフトしたりシェアしたりする相手がいないのです。数をどう確保して、その数の人たちの質をどう上げていくのか。その選択肢の一つが、我々が取り組んでいる外国人スタッフかな、と思います。
また、今いる看護職を辞めさせない仕組みをどう作るかも課題です。当社では、臨床の看護職向けのe‐ラーニング「CandYLink(キャンディリンク)」など、いかに辞めさせずに育てるか、スキルアップさせる仕組みも作っています。
今は出版社を標榜いていますが、年後にはメディカ出版という屋号自体が古くなるんだろうなと思っています。いろいろな取り組みを進めているところですが、社員がそこを理解してくれていることに、本当に感謝しています。
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2022 JUN-AUG)
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