2022.03.14
池川 充洋さん(株式会社ケアコム 代表取締役社長)
ナースコールシステムのトップメーカーであるケアコムは、看護職は医療の多職種連携の中心となるべきと看護QI作りに取り組む一方、群馬工場で農場を運営しています。
健康づくりの場としての農場とは?
池川社長にお話を伺いました。
培ってきたIOT技術で健康に有効なモデルを構築してグローバルに展開したい
ケアコムは、ナースコールシステムの製造と販売を行っており、おかげさまで日本では約6割のシェアがあります。グループ会社のヘルスケアリレイションズは、厚労省等が推進している地域包括ケアシステムの情報連携部分を開発・提供しています。岩手県をはじめ12か所ほどの地域で導入頂いており、高齢化が進む中、QOL維持・改善に向けた医療と介護の情報連携をご支援しています。そして、もう一社療養環境の改善を目的とした多面的な研究を行っているケア環境研究所があります。
私たちの強みの一つは、ナースコールシステムを利用し療養環境情報を顕在化し、オンデマンドで伝達・共有すること。もう一つは、ヘルスケアリレイションズが行っている医療と介護の情報連携です。集積情報を解釈して、健康維持・増進、さらには患者、利用者の方々の安全を守るために、また寛解後再発しないように生活を整えるためにフィードバックします。私たちが培ってきたIOT技術で、データを集積する道具を持っているということ、さらには研究所によるデータ解釈からのモデル化、これらの強みを活かした事業展開がさらに発展していくことになると思います。
日本で有効なモデルを構築してエビデンスが溜まったら、グローバルに展開しこのモデルで、世界の人に健康になってほしいと考えています。
看護職が他職種連携のコーディネーターを果たすためのQI作り
病院の中では看護が中心になるべきと考えています。24時間365日患者と接しているのは看護職しかいませんし、医療と生活の両面の視点から患者に接するのは看護職だけなので。他職種との連携・コーディネート、できればマネジメントもしていただければと考えています。
そのために、看護を中心とした医療、あるいは介護も含めて、どのようなプロセス改善が、どれだけアウトカムにつながるのかを可視化することによって、看護のクオリティ・インディケーター(QI)を作ることが可能だと考えています。私自身のミッションと認識していて、全国の看護職の方たちと議論しているところです。
その看護QIの一つは、患者と接する時間だと思っています。現在の急性期医療では、患者は必ずしも十分な状態で退院するとは限りません。短期間の入院で、いかに効果をあげるか。このためには、他職種連携が欠かせません。そのためには、看護職が他職種をコーディネートして、それぞれの専門職の介入による効果を確認することが重要です。患者に接する時間が十分ないと確認できません。
そこで、看護師の移動距離、訪室時間、訪室回数の関係を調べました。これは、1回の訪室で、しっかり観察や介入を行い、患者のニーズを把握すれば、無駄な訪室が減り移動距離が短縮され、情報共有から他職種の介入効果も上がる可能性が高いというモデルです。どれだけの訪室時間があると効果があげられるか、より効率的になるのかを、調査データをもとに議論しているところです。
健康寿命延伸に向けたプログラムづくりをお客様と目指す「共創」
また、お客様とご一緒に価値を創っていく取り組みを行っております。私たちはこうした活動を「共創」と表現しています。共創の一つのテーマである健康長寿延伸に向けたコンテンツ、プログラム開発により、多くの方が健康でいられる時間が長くなり、医療費や介護給付も低減できます。
日本では、医療保険、介護保険があって、強固なセーフティネットとして、国民のみなさんのために機能しています。しかし、幸せなことばかりではありません。なぜなら、病気にならないと、あるいは要介護度が高くならないと、保険が使えません。保険は必要ですが、使わないで済むなら、使わない方がいいですよね。そして、強固な保険であるため、日本では、予防が疎かになっていると思います。私たちの取り組む「共創」は、ここを打破し、予防に結びつけたいと考えております。
農業と健康を結びつけたヘルスマネジメント・ビジネス
群馬工場周辺で行っている「農業」も、その取り組みの一つです。10年ほど前、工場の敷地の一部で野菜の栽培を始めました。周辺の学校などにも声をかけて、子どもたちと一緒に収穫して、料理して、食べたりしていました。それがだんだん広がり工場の周辺の休耕地を借り受けて、今では複数種の野菜やお米を作るようになりました。群馬県看護連盟にもご協力いただいています。
当初から、完全無農薬、無化学肥料、自然栽培でやっており、土の力を蘇らせて、本当の自然生命力のようなところで野菜を作ります。そうやって収穫した野菜は、美味しいし、健康にもいいはずです。
「農業」と申しましたが、農業は仕事になります。つまり、報酬を得られます。報酬を得るには、何らかの責任、義務、条件が生じますし、コミュニケーションも必要で、健康を維持しなければなりません。私たちは、農業を健康と結びつけたヘルスマネジメント・ビジネスと捉えています。ビジネスにしないと継続性が保てませんから。さらには、配食とかレストランを展開したいと思っています。私たちが栽培している野菜やお米を、調理・加工して、お弁当で配る、あるいは、健康のためのレストランをつくりたいと思い描いています。
食と健康は重要な関係にあります。高崎健康福祉大学の健康栄養学の学生さんたちに、私たちの農場で採れた野菜を使って調理してもらい、試食しました。看護連盟の方々にもご参加頂いたデスカッションにて有意義なご意見も頂戴しました。
もう一つは、運動と健康です。社員のなかで、健康状態が要注意の人に手をあげてもらって、農作業をしてもらい、農作業をする前と後の数値を比較しています。1か月に1クール10日、農場で作業してもらい、これを3か月続けてもらう。被験者になってくれた人のデータを見ますと、肥満だった人の体重が落ち、血糖値も改善しました。ヘモグロビンA1cもかなり低下しました。ストレスと相関があると言われる唾液中のアミラーゼの数値も改善しました。
健康づくり、自由な働き方を提供する場としての農業
私たちは、データを集めて健康を可視化するツールや、医療職の方をサポートするツールを持っていますが、それを組み合わせた情報だけでは不十分だと考えています。実際にその情報を解釈した改善モデルを活用する場が必要になります。農業のように、集う場、働く場をつくり外部との接点が刺激を生み、コミュニケーションが誘発されることが必要です。私は以前から農業をやりたいと考えてきました。農業なら、誰でも働ける場になるのではないかと考えたわけです。もちろん、農場、作物の管理をきちんとやってくれる人がいるのが前提です。そこに、ご高齢の方が働きたいと言ったらウェルカムです。フルタイムでなくても、好きな時にやってきて、1日1時間でも2時間でもいい、というような自由な仕事の仕方が可能です。
高齢者だけでなく、どんどん集まっていただきたい。そうすると、ワークシェアができて、数十人で仕事を分け合っていただいて1人当たりの収入は少ないかもしれませんが、そのかわり美味しい食事付きだったら、健康になるうえに働きたいと思う人もいるのではないでしょうか。
とはいえ、今はまだ実証したのは4人、皆わが社の従業員です。今後は、さらに4人、農場に入ってもらって、プログラムが有効であることをエビデンスで示せるようになったら、外部の方々にどんどん集まってくださいと、呼びかけようと考えています。
農業を起点にした健康づくりのモデルを構築したい
ビジネスと申しましたが、あまり儲からなくていいと思っています。継続するためには収入が必要ですが、そこに力点をおくのではなく、近隣の方や高齢者の方々に集まっていただき、ゆるやかなコミュニティの中心のひとつになればいいと思います。みんなが賛同してくれて、健康的な環境を作ったほうが長続きするのではないでしょうか。ただ、農業を起点に、健康づくりのモデルができれば、そのモデルを他地域、そして世界にも発信しこうした場を共創したいと考えています。
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