レポート
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ほっとハグくむ…ママサロン
助産師と秩父圏域1市4町の取り組み

2020.04.07

埼玉県秩父圏域の1市4町(秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町)では、毎週水曜日と金曜日に「ほっとハグくむ…ママサロン」を開催しています。産前・産後のお母さんのいろいろな心配事に、助産師が相談に乗ります。担当は、ベテラン助産師の峰岸まや子さんと髙橋律子さん。

今回は横瀬児童館の図書室の一角が相談スペース。3か月になる男の子を抱いたお母さんが相談にやってきました。お母さんは、その子だけでなく、上の子の話もしながら、最近の心配事をいろいろ峰岸さんと髙橋さんに伝えます。体重を測って、首のすわり具合をチェック。「体重の増え具合は順調、心配ないですよ」「だいぶしっかりしてきましたね。また様子を見させてください」との言葉に、お母さんも安心した様子で帰っていきました。
昨年、母子保健法が改正され、各自治体で「産前・産後サポート事業」への取り組みが努力義務化されました。横瀬町で始まった「ほっとハグくむ…ママサロン」は、秩父圏域の広域事業になりました。「産前・産後サポート事業」の先例でもあります。「ほっとハグくむ…ママサロン」の取り組みを紹介します。

髙橋律子さん(助産師)
峰岸まや子さん(助産師)

埼玉県ママサロン
峰岸さん(左)と高橋さん
「ほっとハグくむ…ママサロン」チラシ
「ほっとハグくむ…ママサロン」チラシ

 

「ほっとハグくむ…ママサロン」がスタート

峰岸 横瀬町役場に、住所変更届を出しに行ったら、たまたま幼馴染みの職員さんに会ったんです(笑)。横瀬町は、新しい町長になって、町役場の組織改正を行ったところでした。平成28(2016)年に、健康づくり課から「子育て支援課」が独立し、横瀬町で初めての女性の課長として、幼馴染みの彼女が就任されたんです。
聞くところによると、横瀬町も少子化が深刻なので、子育て支援の窓口を一本化して、お母さんたちが相談しやすいようにするというのが、課を創設する目的でした。もちろん、それまでもいろいろな子育て支援事業は行っていたようですが、産前・産後ケアの部分が手薄なのではないかということで、フィンランドのネウボラのような、切れ目のない子育て支援を行えないか、助産師に参画してもらいたいと考えていたようです。
そこに、私たち助産師が気軽にお母さんたちの相談できるようなママサロンをしたらどうかと提案して、すぐに子育て支援課で「ほっとハグくむ…ママサロン」(以下「ママサロン」)として取り組もうということになりました。

髙橋 峰岸さんと私の間では、以前から「ママサロン」をやりたいなと話していました。横瀬町が取り組みたいというのは、ちょうどいいタイミングだと思いました。
峰岸 平成28年9月に、町議会議員に議会で「産前産後・子育て支援」について質問してもらったんです。そこで、町長と担当課長から「ママサロン」の事業に取り組みますと答弁していただきました。このように議会で取りあげてもらったので、その後、事業がスムーズに進むことができたんだと思います。そして、平成29(2017)年1月から、試験的に「ママサロン」を週1回金曜日に、この児童館で始めました。1月から3月までは試験期間ということで実施して、4月から横瀬町の正式な事業となりました。

1市4町の広域事業へ

峰岸 「ママサロン」を始めたところ、けっこう反響があって、お母さんたちもたくさん来るようになりました。その様子を他の市や町の議員も視察にいらっしゃって、6月ごろから秩父地域の広域事業にできないかと話が盛り上がりました。医師会にも相談に乗ってもらい、1市4町(秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町)で「ママサロン」を始めることになりました。
平成29年9月の定例記者会見で、秩父市長が、1市4町で「ほっとハグくむ…ママサロン」を「ちちぶ定住自立圏事業(以下、定住)『妊娠・出産・子育て包括支援事業』」として始めると発表しました。それで予算もつき、事務局は秩父市で担当していただき、平成30年3月までは定住の新規事業として、次年度からは継続事業となって今に至っています。また、この事業は新聞でも何度か紹介してもらいました。基本的に、この横瀬児童館で毎週水曜日と金曜日に開催していますが、ここだと遠くて行きにくいというお母さんたちの声もあり、今年度から、各町の児童館などで巡回相談も始まりました。

 

横瀬児童館の図書室が相談コーナー
横瀬児童館の図書室が相談コーナー

 

情報は氾濫しているけど、気軽に相談できる場所がない

峰岸 「ママサロン」では、だいたい1人30分くらい、いろいろなお話を聞いています。やっぱり、おっぱいと離乳食の相談が一番多いでしょうか。体重を測って欲しいとか、おっぱいが足りているんだろうかとか…。なかには週2回の相談だけでは心配な人もいますので、そういう場合は保健師さんにつないで、訪問したり、声かけしてもらったりしています。ただ、秩父市以外は小さい町で、みんな顔見知りですから(笑)、ご近所さんから、あそこに行ってみたら、とか言われることもあるみたいです。生まれてから1年間くらい、相談にいらっしゃいます。

髙橋 1日だいたい4~5人が相談に来ます。多い時で10人くらい。年間で400人弱の人が相談に来ます。気軽に来られるように、予約は取っていません。他の人が相談しているときは、少し待ってもらいます。児童館なので、待っている間、子どもたちを遊ばせることもできますし、他のお母さんと話し合うこともできます。お母さんたちは、やはり子育てが不安で、ストレスが溜まっています。核家族化で、身近におじいちゃんおばあちゃんもいないし、気軽に相談できる相手もいません。このような気軽に相談できる場が必要です。

峰岸 そもそも、今のおじいちゃんおばあちゃんも、一人っ子だったりして、小さい子と接した経験がほとんどなくて、相談相手にならないこともあります。また逆に、インターネットなどで情報が氾濫していて、どの情報が正しいのかわからなくなって、混乱する部分もありますね。

 

いつでも相談できるという安心感を持ってもらうことも大切

峰岸 横瀬町は今、人口8000人くらいで、年間50人くらいしか生まれていないんです。出生数をどうにかしなければいけないと、これは横瀬町だけではなく、秩父地域全体にも言えることですが。

髙橋 この事業で、第一子のとき相談しに来た人が、次の子が生まれてまた相談に来るケースも増えてきました。頼りにされているのだと思います。多くのお母さんが2人目、3人目を産みたいと思ってくれるといいなと思っています。

峰岸 そういう意味でも、この事業は続けることが大切だと思います。また、相談に来ない人にとっても、心配事ができたらいつでも行けるという安心感があると言われます。利用者はそんなに多くはないのですが、お守りみたいな存在かもしれません。また、里帰りで相談に来る人もいます。その点もオープンにしていて、秩父地域は子育てしやすいと思ってくれるといいな、と思います。

 

ママサロン
ママの方を見てごらん

政策とは生活を支えること、産前・産後ケアは国をあげて取り組むべき重要な施策

峰岸 秩父地域の人口は毎年減少していて、大きな課題となっています。今後、ますますお母さんたちが安心して出産・子育てできる環境の整備は重要だと考えます。こういう事業を広域で行っているところは、まだ少ないと思います。秩父地域のような山間地や過疎地では、助産師がいないところも多いと思います。このように、いくつかの自治体が共同で助産師をおいて、事業化するのはよい方策だと思います。この事業は、まさに生活を支えることだし、議員や首長さんともお話しさせていただいて、政策とは生活を支えることだなと改めて思いました。今や、子育ては一つの町だけでは対応できなくなってきています。例えば、里帰り出産の受け入れるところがないなどという問題も出てきています。すでに国をあげて考えなければいけないところまできているのかもしれません。どこにいても、同じように助産師のケアが受けられるようにするのは、国の重要な施策だと思います。

(広報部 千葉明彦)

機関誌N∞[アンフィニ]2020年春号掲載

日本看護連盟のコミュニティサイト アンフィニ
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