2021.01.06
新潟県の佐渡島、両津港から車で15分ほどのところにある「ほっとハウス青木」は古民家を改装した「島の保健室」です。
2019年の9月にオープンしました。実は、ここは土屋さんのご自宅で、毎週日曜日開放していて、子どももお年寄りも自由に利用できます。
どんな思いから「ほっとハウス青木」の運営を始めたのか、土屋さんにお話を伺いました。
なお、インタビューには、新潟県看護連盟の阿部時子副会長がご協力くださいました。
保健師OBで、何か地域貢献したい
燈々会という新潟県在宅保健師の会(注1)がありまして、私は、その佐渡支部の代表を務めています。仲間が集まった時、 保健師のキャリアがあるのに何もしないのはもったいない、と話し合っていました。地域に何か貢献できる活動を考えよう、と。 そんな中に、地域に保健室みたいな場所があるといいね、という話が出ました。
ちょうどその頃、この家と出合いました。私の実家は、すぐ近くで、学校に行く時はこの家の前を通っていました。その家が売りに出されて、 これは私が買わないといけないと思いました。実家は農業をやっていて、納屋が手狭になったので、ここの納屋を使うことにしました。
母屋も壊さずに、できるだけそのまま使おうと思っていました。ただ、床は落ちていたので貼り直しましたし、下水につながっていなかったので つなげたり、トイレを2つ作り、お風呂を作り、キッチンも作りました。改装してくれた人も、地域のつながりで、相談しながら直してくださいました。 改装に1年半くらいかかりましたが、それほどお金もかかっていません。
この家は、昼間は空いているのだから、ここを使えば保健室ができると、トントンと話が進みました。
地域の人たちみんなが気軽に集まれる家
「まちの保健室」というと、お年寄りばかりが集まるイメージがありますが、子どもたちが遊びに来てもいいし、お母さんが育児相談に来る所で あってもいいと、相談しているうちに思いはどんどん膨らんでいきました。私の実家には、娘たちの本がたくさんあって床が抜けそうだったので、 こちらに本を移しました。子どもたちがマンガや本を読んだり、DVDを観たり、絵を描いたりと、安全で安心していられる場所が地域にあっても いいだろう、と思っていました。実際、本を目当てに来る子もいます。
では、何曜日に開こうか。平日は、どこかしらの相談所が開いていますし、子連れのお母さんは来られるけれど、学校に通っている子は来られません。 それで、日曜日にやろうということになりました。私もそうですが、OBといっても、継続雇用で平日はほとんどが仕事をしていますので、 その点でも日曜日が都合がよかったのです。また、月1回程度だと、当番などを決めないといけませんから逆に負担になる。 ならば、毎週開けよう、と。毎週開けることで、少しずつ周知されていけばいいんじゃない、と。長続きさせるために、自分たちのためにも、 あまり決めごとを作らないでやることにしました。それで、年末年始を除く毎週日曜日、9時30分から15時まで開けることにしました。
燈々会の佐渡支部には、今12人の保健師がいますが、このうち来れる人には、カレンダーに印を付けてもらっています。 1日中いられなくても、顔を出せる時間だけ来るのでもOKです。去年の8月ごろ、みんなで「ほっとハウス青木」と名前を決めました。
続けることが第一なので、目標を設けず、ゆるーくやってます
この家には、私たちが買ったものはほんの少ししかないので、壊れても持っていかれても、また誰かが補充してくれるだろうと、 ゆるい感じでやっています。私たちの持ち物は使い古した電気製品くらいで、他のものはもともとあったものとか、 みんなが持ち寄ったものです。
続けることが第一なので、ゆるくやっています。目標を設定すると続かないことも、みんな保健師で、知っています(笑)。
だから、実績にこだわらずにやろう、と。それでも、最近は10人以上は来てくれようになりました。
デイサービスになんか行きたくないという人も、ここに通ってきてくれて、お茶を飲んだり、相談したりして帰っていきます。お風呂に入っていきたいと
いうなら、それもOKです。そのことも想定して、風呂場も車椅子が入れるように作っています。ただ、介助する時には、事故が起こることも
想定しないといけないので、保険に入らないといけないねと話し合ってはいます。今は、自己責任で入ってください、と。
夜使いたい人がいれば貸せばいいし、泊まりたい人がいれば、どうぞ、と。将来、宿泊施設として使うことも可能なように 改装しています。「ほっとハウス」の近況は、時々「通信」を作って、みんなに送っています。仲間とはLINEでみんなつながってますので、連絡に活用しています。
ご縁でできた島の保健室
いろんなご縁で「ほっとハウス青木」を開くことができました。この家とのご縁、仲間や先輩たちの思いと、家族の理解・協力があって始められました。
私は、国立病院に勤務していた転勤族でしたが、佐渡に戻ってきて、しばらく産休代替要員として、佐渡のいろんなところで働きました。
そのおかげで、島中にたくさんの知り合いができました。その後、包括支援センターの保健師に採用されましたが、その時は島中の保健師の顔と
名前が一致するようになっていました。それが、ここを立ち上げる時も役に立っています。
家族の理解もありがたい。毎週誰かが来るとなると、一所懸命掃除しますし、片付けもします。それが、家のためにもなっていると思います
ので、逆にいいのかもしれません。
ここには、夫と末娘と私の3人が寝泊まりしています。朝起きると実家に行って、朝ごはん作って、掃除して、洗濯して、父の世話をして、 仕事に出かけます。夜は、実家に帰って、父の世話をして、夕ご飯を作って食べて、こっちに寝るために戻ってきます。居場所が増えることは、 悪いことではないと思います。
昨年、福祉財団から、補助金をいただきました。暖房器具を買ったのですが、思っていたより安く買えたので、残りのお金で草刈機も買いました。
庭が広いので、草刈りが大変なんです。
また、一応保健室なので、ここで横になってもいいように、新しい寝具も買いました。
お茶などは、利用料で賄っています。利用料は、大人は、1人昼間は200円、夜は300円です。18歳未満は無料です。 あと、寄付が多いんです。これ食べてとか、お茶使ってとか、現物の提供です(笑)。また、燈々会からも少しお金が出ていて、 それを灯油代に当てています。
保健師のネットワークを生かした活動
燈々会の会員が集まれる場所ができたので、保健師OBのつながりができました。これまでは、年に何回か顔を合わせて、 おしゃべりしておしまいという感じでしたが、ここができて会員の結束は強くなったと思います。
ここに相談者が来ることもできます。例えば、お茶を飲みながら、介護にかかるお金の話やいろいろな補助について相談にのれます。
経済的に余裕がなかったり、時間がなくて、思うように介護ができなくて悩んでいる人もいます。そんな人の話を聞くだけでも、
心の負担を軽くできると思います。福祉事務所などではなかなか話せないことも、気軽に話ができると思います。
聞き手は保健師ですから、そのお話を少し深く掘り下げたり、いろいろアドバイスもできます。答えは一つじゃありませんから、
様々に考えることもできます。「今日は、〇〇さん来ている? じゃあ、行こうかな」と、やってくる人も出てきました。
保健師はいろいろな仕事を経験してきていますから、それぞれのネットワークを使って、人を紹介することもできます。 困ったら、あの人に聞こう、と。医師ともFacebookでつながっているので、Face bookやLINEで相談することができます。 実際に医師につなげたケースは今のところありませんが。また、SNSでいろいろな情報を紹介してくださいます。
コロナ禍でも閉めませんでした
今のところ、新型コロナウイルスの影響はありません。特に利用者が来なくなったということもありません。 マスクをつけてくる人はもちろんいますし、密にならないように気をつけてはいます。アルコール消毒もしています。
みんな保健師なので、手洗いとうがい、アルコール消毒に、免疫力を高めることが一番大事だと知っています。 正しい知識を身に付けることが大事ですから、その点でも、ここは一度も閉じていません。だって、保健室が閉まっていたら、ダメでしょう?
活動の幅を広げていきたい
ここを始めて1年経ちましたが、活用の幅が広がってきたなと思います。ベースができて、いろいろな可能性が出てきました。
保健師は、災害があれば派遣されますし、だいたい裏方の仕事が多いのです。ならば、ここをベースに地域に根差した裏方に なってもいいのかな、と思っています。
例えば、子ども食堂をやりたいとなれば、ほっとハウス青木としてではなく、別企画として場所を提供します。
他にも性教育の話をしようとか、さまざまな企画の話も出ています。認知症の人たちが運営する
「注文をまちがえるレストラン」のようなこともできるかもしれません。
こういう場所があることで有病率が全体として下がって、介護保険料も下がれば、健保連から補助金を
もらえるかもしれません(笑)。
最終目標は、ここがいいなと思う人が増えて、佐渡の人口が増えることです。人口が増えないことには、コミュニテイが
維持できませんから。
佐渡は、子育てするにはいい環境だと思います。都会の刺激的な楽しさはないですが、本でも読みながら、ゆったり過ごせ
ますから。だから、「ほっとハウス青木」のような場所がたくさんできるといいな、と思っています。
新潟県内に居住する、会の目的に賛同する退職保健師で構成される。昭和51年6月に発足し、令和2年3月現在、111名の会員がおり、県下に6支部がある。
会の目的は、会員相互の親睦と連携のもと、会員福祉の向上に努め、豊かな経験と実績を生かし、地域の保健福祉活動に寄与することである。
主な活動として、地域の保健福祉活動の推進、研修、情報・資料の収集、目的を同じくする団体との相互協力などを行っている。
(掲載:機関誌N∞[アンフィニ]2021年JAN-APR)
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