2023.02.04
ヒオカ
CCCメディアハウス 定価1650円
あの子はどう生きてきたんだろう。私はどう生きてきただろう。ひとの生き方への想像力を与える本だ。noteで公開した記事「私が“普通”と違った50のこと──貧困とは、選択肢が持てないということ」で注目を集めた著者の初の著作。貧困の連鎖のなかで生きてきたエピソードは、読むほどにキツいし、胸が痛くなる。
その一方で感じるのは、並々ならない解像度だ。人生をこれほど隅々まで覚えていることの驚異。幼い頃に同級生の親たちから受けた視線、底冷えする市民ホールでの受験勉強、シェアハウスのストレスのせいで壊れていく心と体、濃密な記憶の仕方は、その時々の出来事があまりにも強烈だったからだろう。
子ども時代の思い出、人間関係、健康、正社員として活躍する機会。貧困は彼女から多くのものを奪った。そして彼女は多くのものを身につけた。優しさや温かさに対する鋭敏さ、社会の課題を包括的にとらえる視野の広さ、自身の弱者性、そして強者性にすら自覚的な冷静さ、研ぎ澄まされた思考、誠実さ。
もちろん貧困を美化なんかできない。それは別問題だ。彼女はいま、ライターを副業としながら生きている。美化もすり替えもしない、エモい文章で煙にも巻かない、社会にある問題をそのまま問題として提示していくという。彼女の人生は、本書と彼女自身という尊さを生んだ。そして、見えなくされていた物事に光を当て続ける。
(紹介:Floating Stories)
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