2022.11.24
ニック・チェイニー 高橋達二・長谷川珈 訳
講談社選書メチエ 定価2145円
人間の脳も、コンピュータのマルチタスクと同じで、シーケンシャルに情報処理をしている。
たとえば、自動車を運転しながら、音楽を聴いたり、同乗者とおしゃべりするのも、実は、脳はそれぞれの行動の情報処理を同時にこなしているのではない。運転、音楽、おしゃべりのための情報処理を、脳は、一つずつを順次・瞬時に切り替えて行っている。その切り替えスピードがあまりに速いので、まるで同時に行っているように、運転者本人も錯覚する。
また、情報がまばらな場合、脳は、そのスキマを即興で埋めて一つながりのイメージや、ストーリーをでっちあげる。小説に現れるハンサムボーイは、まばらな情報から読者が即興でイメージをでっち上げているのだ。この即興のでっち上げを、脳は繰り返し行い物語がつくられる。そこには、裏も表もない。心はフラットで、無意識や深層心理などは存在しない。フロイト先生のリビドーやラカン先生の現実界はフィクションで、夢はあくまで夢で特別の意味などない。
本書を読むと、オープン・ダイアローグによって統合失調症の患者がなぜ回復していくのか、なんとなくわかる気がする。他者と対話を繰り返すことで、患者の混乱した情報処理の回路が修復されるのではないか。では、エリクソン先生のアイデンティティは?、ベイトソン先生のダブルバインドは?、といろいろ気になり始めるスリリングな本。
(紹介:しましまの真実)
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